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「え!? ツイスターゲームをやれって?」
「そんなこと一言も言ってないんだけど!? っていうかまだ君達に何をして欲しいかすら言ってないんだけど!?」
滉輝のボケに慌てて突っ込む。
こいつ……本当に面倒臭い奴だ。
「では、何なんでしょうか? もったいぶってないで、早く教えて欲しいのですが」
「分かったよ」
奈々の指摘に早口で応じて、ボクは軽く息を吸った。
「君達には、もう一度、アニメの主人公になってほしいんだ」
「……というと? もう一度死ねばいいんですかね?」
「物騒なこと言うな! そういう訳じゃなくてだね……君達にはこの世界で、現実世界同然のこの状況下で、ハーレムアニメの主人公のように、登場人物の一人一人を好きにさせて欲しいんだ」
「…………」
「…………」
「あれ? どうしたの? 二人共、黙り込んじゃって」
「局長」
「ん?」
滉輝は、腰に手を当て、颯爽と続けた。
「無理ですよ」
「……何で?」
「現実世界でハーレムアニメを再現するなんてことは、不可能です。だってハーレムって要は……浮気じゃないですか」
な、なんという極論だ。
「まぁ、そうなんだけど……」
そんなボクの言葉を塞ぐように、滉輝は、
「俺、ハーレムもの、大好きです」
「……だったら、やってく――」
「現実世界では、できないから、好きなんです」
「…………」
確かにその通りだ。
ハーレムアニメというのは、現実世界の人間達の幻想にすぎない。
あくまでもボクらの手の届くことのない領域に存在する理想であり、またそれだからこそ、それには需要というのが生まれるのだ。
「だって考えても見て下さいよ。ハーレムアニメの主人公とか現実世界で言ったら、ただの女好きのクズ男じゃないですか?」
「…………」
「分かりませんかね? じゃあ参考までに――」
滉輝は、首だけをおもむろに動かし、奈々に目を向けた。
「南さん」
「何?」
「ハーレムアニメの主人公みたいな人が教室にいたら……なんて命名する?」
「性欲の塊ね……まぁ、それかミートボールと名付けてあげるわ」
「まぁ、ミートボールはよく分かんないとして、こんな風に、ハーレムアニメの主人公みたいな浮気野郎は現実問題、一夫一婦制に基づく日本だと、拒絶されるんですよ」
「…………」
滉輝の言っていることはやはり、正論だ。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「まだ、納得されてないんですか?」
「いや……」
「じゃあ何ですか?」
「言い忘れていたことがあったな、と思ってね」
「言い忘れていたこと?」
「そう。しかも……結構重大なことだ」
重大なこと。
そんな言葉を聞いた二人は、一瞬、身構えた。
そう見えただけかも知れない。
「登場人物の一人一人には、期限が付いてるんだ」
「……期限ですか?」
「……何の?」
「死の期限――まぁつまり、本来攻略されるはずのキャラが主人公に好意を抱かないまま、ある一定期を超えると…………存在ごと消え失せてしまうんだ」
「……そ、それは、何というご都合主義設定なんだ」
「……とんでもないご都合主義設定ね」
「局長。それ本当なんですか?」
「うん。残念ながら」
「感情コントロール機能を取り外したこの世界の住人は、全員自由であるはず。故にそんなことは起きないのでは?」
「んー。感情コントロール機能は、キャラを強制することしかできないからねぇ。ストーリーまでは改変できないんだよ」
「んで、そのストーリー通りに話が進まないと、キャラがどんどん死んでいく。っていうわけですか……」
「……まぁ、そうなるね」
自分で言っておいてなんだけど…………確かにこの状況、ご都合主義、極まりない。
「はぁ……」
「はぁ……」
とてつもなく重苦しい溜息をつく二人は、空を見上げた。
滉輝は、太陽に手をかざしながら、そして奈々は、薄く目を閉じながら。
現状に対する倦怠感が故に二人は、すごくだるそうだ。
……まぁ、仕方ないなぁ。
唐突にそんな命令をされて、理解しろと言われても、流石にそれは手厳しいだろう。
そんな、ちょっと弱気なことを考え始めるボクだが、
「――――ッ?」
この時、気がついてしまった。
――――今にも地面に溶け込んでしまいそうな表情を浮かべる二人の目の色が、完全に変わっていることに。
「なぁ。南さん?」
「何?」
「面倒だな」
「面倒ね」
「億劫だな」
「億劫ね」
「やりたくないな」
「やりたくないわ」
「お前正直可愛くはないし、そんな、イケメンを攻略する、だなんてできるわけないよな」
「あなた正直、顔面がすっぽんに似てるし、そんな美少女を攻略する、だなんてできるわけないわね」
「……でも」
「……でも」
二人は――笑みを浮かべて、こう言い放った。
「――――やってやりますよ……攻略」
今日の段階で、二人の声がシンクロしたのは、これが三度目だった。




