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人気のない場所の確保。
元主人公二人の迅速な対面。
主人公二人の脳内に、今まで散々「殺せ」という命令をしまくっていたのは、それが所以である。
まぁつまり、静かなこの十字路で二人に殺し合ってもらうことで、世界が二人を完全に拒絶する(殺す)までの時間を稼ぎ、人気のない場所――ここで、二人揃った状態で息絶えてもらうことによって、より円滑な説明ができるような場を設けた、というわけだ。
……たったそれだけの理由で、二人に殺し合いをさせるのは、実際問題、かなり酷であり、正直気が引けるのだが。
ともあれこれで、円滑な状況説明が、二人にできる。
やってほしいことを、伝えることができる。
――と、思ったのだが、
「……はぁ」
ボクは、冷え切った嘆息をした。
そんな簡単に事は進まなかったのだ。
ハーレムアニメの主人公と逆ハーレムアニメの主人公。
感情コントロール機能を外した二人の性格なんて、誰にも想像できない。
そして無論、ボクにだって予想できない。
――ましてや、二人がこんな面倒な性格をしていた、なんて当然思ってもいなかった。
「……で、お二人さん。喧嘩は終わったかい?」
「局長。これは喧嘩ではありません」
真っ黒な髪のを弄りながら、滉輝は片目を瞑った。
「え?」
「言葉と言葉の正面衝突です」
「日本では、それを喧嘩と言うの! 分かった!?」
ああ、面倒だ。
「――局長」
「はい?」
薄茶色に染まった髪の毛を、風になびかせながら、今度は奈々が、口を開いた。
「そういったステレオタイプに囚われた考え方……良くないですよ。ましてや、他者にその考え方を強要するなんて、どこぞの脳筋教師と同じです」
あぁ、更に面倒だ。
「そ、そうかい? わかったよ」
すてれおたいぷ?
なんじゃそりゃ?
一体、どんな体位なんだ?
まぁ、適当に流しておけばいいか。
というか、早く本題に入らなくては。
「じゃあ、そろそろ状況説明を再開させてもらうよ」
「お願いします」「お願いします」
また、二人の声が重なった。
実はこの二人、案外気が合うんじゃないだろうか?
そんなことを思う。
「ボクは二次元管理局という会社の現局長で、鬼川滉輝はハーレムアニメの主人公、そして、南奈々は逆ハーレムアニメの主人公。
んで、この世界は二次元の中にあり、君達は今、脳内に仕込まれた特殊な無線機によって、ボクと会話している。ここまでは、百歩譲って理解してもらったね」
「……何か色々とぶっ飛び過ぎて、もう、どうでも――」
「良くないから! ……分かった?」
「……はいはい」
「私も、理解はしました」
「よし。……で、問題はここから」
少し間を開けて、続けた。
「君達は、確かに主人公なんだけど……その中でも、『元主人公』なんだ」
「……は?」
「どういうことでしょうか?」
「まぁ、簡潔に言うと……主人公だった君達は、一度、死んだんだ」
そう。二人は一度……死んだ。
二人の過去の記憶(主人公であった時の記憶)が改変されてしまっているも、恐らくそれが起因しているのであろう。
「……ま、まじかぁ」
目を見開き、ただただ驚愕する滉輝。まぁ普通はそうなる。至って正常な反応だ。
ただその滉輝の傍らで、
「というと……一度蘇生されたわけですか?」
奈々は、顎に人差し指を当てながら、そう言った。
……あれ?おかしい。
なぜこんなにも彼女は冷静でいられるのだろうか?
ボクはそんな疑問を抑え込むかのように、返答した。
「お。南君。なかなか鋭いね」
「ザオラ○ですか? それともザオ○ク?」
「どっちでもないから!」
「そうよ。何言ってるの? 鬼川君。フェ○ックスの羽を使ったに決まってるでしょ? 蘇生した上にヒットポイントまで全回復するんだから」
「話をややこしくすんな!」
無理やり咳払いして、脱線した話を元に戻す。
「君達を蘇生した方法は、ザオラ○唱えたわけでも、フェ○ックスの羽を使用したわけでもないよ……」
「じゃあどうやって?」
「――君達から、いや、この世界の全住人から、感情コントロール機能を、取り外したんだ」
「感情コントロール機能……」
「それは、一体何なのでしょうか?」
「アニメに登場する全キャラに取り付けられているもので、キャラの行動・感情・台詞などを強制していく機能だよ。まぁつまり、この機能があるからこそ君達二人は主人公になることができて、またそれ故に二人の主人公が存在してしまった世界は、君達を拒絶――殺してしまったんだ。ってなわけで、ボクはこの機能をオフにして、現実世界に類似した自由な世界を作ることによって、主人公である君たち二人から『自分が主人公であるという意識』を消失させることは勿論、主人公以外のキャラからも『君たち二人の事を主人公と見なす意識』を雲散させて、やっとのことで君達を蘇生した、ということなんだ!!」
……はぁ……はぁ。
ボク、説明乙。
かなり疲れるな、これ。
「局長?」
「ん?」
「今の良く聞こえなかったんで、もう一回説明してもらっていいですか?」
「ふざけんな!」
「嘘ですよ……まぁ要約すると、主人公である俺ら二人を一般人化することで、世界からの拒絶を避けたというわけですよね? ……まぁ、一応筋は通ってますけど」
「……で、局長は私達に何が言いたいんですか?」
眉間にシワを寄せる二人。
……まぁ先延ばしにしても仕方がない。
意識を固めたボクは、机を叩き、そんな難色を示す二人の意識を集めた。
そして、
「ボクは、君達にやってもらいたいことが、あるんだ」




