開始
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小道と小道が交差する、十字路。
人気のない静かな通り。
そこには、オレンジ色のカーブミラーと、大きなマンホールと、
――――死んだはずの、二人の人間が佇んでいた。
「お、俺がハーレムアニメの主人公!?」
目を丸くして、そう尋ねるのは、鬼川滉輝。そして、
「は? 私が逆ハーレムアニメの主人公?」
滉輝と同じ顔をして、自分の頭を抑えるは、南奈々だ。
「うん、そうだよ、君達はアニメの主人公だったんだ!」
「……………」
「ん? どうした……」
「――あり得ない!」
「――あり得ない!」
シンクロした声が、小さな十字路いっぱいに響き渡る。
そして、
「なあ? 局長さん?」
まず、怪訝な顔をしてそう言ったのは、滉輝だった。
「……はい?」
「この俺が、ハーレムアニメの主人公だったなんてねぇ? ……信じれると思いますか?」
「…………」
まぁ、そんなくだらないこと、普通は信じれないよなぁ。
ボクは、息を呑み、覚悟を――
「――そんな、素晴らしいこと!!」
「す、素晴らしい!?」
覚悟を決めるよりも先に、驚いてしまった。
「はい! そうです! 素晴らしい。いや、素晴らしすぎます!! だ、だって! 俺の、ぜ、ぜ、前前前世が、沢山の美少女達に取り巻かれるような人生だったなんて、もう最高すぎて想像もできませんよ!!」
「ドサクサに紛れて、前を三回連呼するの止めようか!?」
「まぁとにかく、そんな素晴らしい前世なんて、とてもじゃないと信じることはできませんよ!」
滉輝の言葉を聞いて、理解した。
「……はぁ、そうですかい」
どうやら、こうきの『あり得ない』は、『そんな下らないこと、信じたくない』の方ではなくて、『そんな大層なこと信じれない』の方だったらしい。
……何でだがよく分からないけど、ハーレムアニメをかなり、神聖視しているようだ。まぁそっちの方が、ボクとしては都合が良いから、いいんだけど。
「じゃあもしかして君も……?」
そんな滉輝と同じタイミングでボクの発言を否定した奈々も、同じことを思っているのかもしれない。
と、思ったボクだったが、
「は? 今あなた。まさかこの私が、コイツなんかと同じ事を思っているとでも思ったんじゃないでしょうね」
「え、そ、それは……!」
……ず、図星だ。
「……っていうか南さん? コイツって何? 俺にも一応名前あるんだけど?」
「何? あなた。ゴミ屑のくせに名前が欲しいの? じゃあ私が、命名してあげるわ」
「いや、頼んでないけど」
「えぇそうね……」
「だから頼んでないって」
「じゃああなたは、ブツが付いてるから、キノコって言うのはどう?」
「おいおい。そしたら、世界中の男性がキノコって名前になっちゃうよ」
「いいじゃない。可愛くて」
「可愛くないわ! このクソビッチ!」
「じゃあ、ソーセージは?」
「おんなじだ」
「ウインナー」
「…………」
「松茸」
「…………」
「息子」
「…………」
「エリンギ……茄子……きゅうり、蛇なんかどう?」
「…………」
「何よ? 返事もできなくなってしまったの?」
「……ちょっと、引くわ」
「……えっ?」
「もはや引くレベルって言ったんだけど。どんだけ男の『ブツ』好きなの? 気持ち悪。クソビッチ確定じゃん。今すぐ裸で逆立ちしたまま町歩いて来いよ」
「……何で逆立ちまでしないといけないわけ?」
「裸になるのは良いんだ……流石は歩くわいせつ物だな」
「そういうわけではないんだけど!? というか変な異名付けないで欲しいんだけど!?」
「じゃあクソビッチ」
「クソビッチでもないわ!」
「え? クソビッチって言われたいから『ブツ』の同義語羅列してるんじゃないの? 違うの?」
「だから違――」
「違わないだろ? あえて墓穴を掘ってるんだろ?」
「何言って――」
「あぁ、ごめん。『掘ってる』より、『掘られる』の方が良かった?」
「……く! うるさいわね! 三つも汚いものぶら下げやがって! ヤマタノオロチもびっくりよ!!」
「そうやってすぐ下ネタに走るところが、自分がビッチであることを露呈していることになるんだよ。クソビッチさん」
「……く!!」
「――ちょ、ちょっと二人とも止めてよ〜!!」
二人の会話の間に無理やり介入するように、ボクは叫んだ。
……なぜこうなったのか?
……なぜ、純粋無垢だった少年少女が、道端で下ネタ言いまくるような変態とクソビッチになってしまったのか?
……というか死んだはずの二人が、なぜ生き返っているのか?
これには深い事情がある。
まずは、事の経緯を説明しよう。




