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「……言われなくても分かってますよ」
――――そうだ。私は彼を殺さなければならないんだ。
私はズルズルと重そうに足を引きずりながら、 彼のもとへと歩み寄った。すると、
「助けて……」
彼の潰れた声が聞こえてきた。虫の様にか細く そのまま潰してしまいたくなりそうな、何とも 貧弱な声だった。
そして、そんな声を耳に入れた私は、
「あなたがいけないんだよね」
そう言って、彼の首元を強く――押さえつける。
がしかし、なぜだろうか?彼は全く抵抗する様子を見せない。私を見くびっているのだろうか?
「私は逆ハーレムアニメの主人公なのに。……なのになんで!? なんであなたは、イケメンじゃないの!?」
彼の首を締め付ける手に、更なる力が加わる。尖った形の喉仏を親指で押さえつける度、彼が何度も嗚咽する。
そして、自分の腕に血管が浮き出るほどの力を加え続けると、彼の肌色の首元に、無数の青い筋が見えてきた。
「――――――――」
……それから、何分経っただろうか。
「もう、いいかな」
私は、手を離した。
すると、
――――ゴツン。
という、尖鋭な音がした。彼の後頭部と、アスファルトが衝突したのだ。
そして、それを見届けた私は、ここでやっと安堵に包まれた息を漏らす。
「……やっと、死んでくれた」
そう、彼がやっと死んでくれたのだ。イケメンでない彼が。私にとって、ただただ悪辣な存在でしかない彼が。遂に息絶えてくれたのだ。これでもう心配することは何もない。
私を邪魔する者はもう誰一人としていなくなった。
あの感覚とも、もう二度と会わないだろう。
私は、助かったんだ。私は、私という存在を守ったんだ。
私は、自分の道を切り開いたんだ。
私は、強くな――――
「――――ッ?」
その台詞を私は、最後まで言い切ることができなかった。
刹那、 頭のどこかでブチッという音が聞こえたのだ。電源をつけたままのテレビのプラグを切った時の音によく似ている。
「…………え?」
そして、視界が一気に真っ暗になり、私は膝から崩れ落ちた。
膝に小石が食い込んでいたが、もはや痛みなど感じない。
「――――――――」
なぜだ?
せっかく彼を殺したのに?
なぜ、私まで?
唐突すぎないか?
これこそ理不尽だ。
意味不明だ。
理解不能だ。
なぜ、なんで、私まで……。
「――――――――」
私の人生はこれで終わってしまうのか?
恋することなく、終わってしまうのか?
南奈々と言う人間は、自分の人生を悔悟して死んでいくのか?
「――――――――」
死にたくない。まだまだ、これからなのに。
死にたくない。物語はこれから始まろうとしているのに。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
そんな儚い思いを最期に、私――南奈々は、死んだのであった。
これで、逆ハーレムアニメの主人公目線の話は終了っすね。
なお、本作自体はまだまだ続きます。
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