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「…………」


 私は顔をしかめた。

 ……彼のせいだろうか。それとも私のせいだろうか。私達二人が相対することは、何となく 良くないことに思える。根本的な部分で、何かが間違っているような気がするのだ。

 そしてその「何か」というのが分からない。

 どんなものなのか、まるで実態がつかめない。

 私は、そんな雲を掴むような違和感に、また頭を抱えてしまった。

 そして、


「……あれ?」


 なぜだかは分からないが、唐突に、視界がぼやけ始めた。

 まだ、何もしてないのに。彼と合っただけなのに。眼前にある景色が何重にも重なり出したのだ。

 アスファルトも。電柱も。住宅も。空も。太陽も。彼の顔でさえも。

 全部が全部、 何重にも 重なって見え出したのだ。


「……まさか」


 ……理不尽に展開され続けるこの状況に、胸の内に あるこの判然としない違和感。そして、 どこか漂う険悪なオーラ。

 もしかしたら、今現在の状況は、


「あの声と何か関係が……」


 校舎内、クラス表掲示板周辺で聞こえてしまった、あの、脳内に直接突き刺さってくるかのような、何とも気持ち悪い声。

 今の状況は、そんな悪辣な声と、何かしら関係があるのではないか?

 そんなこと私が推察した、その時――――



 ――――知りたいか?



「――――ッ!?」


 まただ。また聞こえてきてしまったのだ。

 脳の中で木霊する言葉。永遠と耳に残る生々しい声。

 ……あの感覚が再来したのだ。

 だがしかし、今回の感覚は前回のものとは、少しばかり違う気がする。というのも、


「……命令じゃない?」


 そんな気がするのだ。ただただ一方的な命令文に過ぎなかった前回に比べ、今回は少し「会話になっている」ような、感じがするのだ。

 故に私は、


「……知りたいとは……どういうことですか?」


 その感覚との、会話を試みた。

 すると、

 


 ――――胸の内にある違和感が何なのか知りたいか?

 


「はい」


 その感覚と会話ができたことを喜ぶ間もなく、返事をした。

 それほど私は、あの違和感が何なのか、知りたかったのだ。



 ――――それは、君の目の前にいる、彼のせいだ。彼が行けないのだ。



「……どういうことでしょうか? ……分かりません」


 本当は、もうその声を聞きたくなかった。

 その声を聞く度に体中に怖気が走るからだ。目が回るからだ。

 締め付けられるような頭痛がするからだ。

 でもここで引き下がるわけにはいかなかった。

 私は、歯を食いしばる。

 この苦痛の先には、きっと何かが待っているはずだ。この状況を打開できるような、何かが。



 ――――なぜ、彼がいけないのか。彼の何がいけないのか。それは……



 私は、息を呑んだ。



 ――――彼がイケメンではないからだ。逆ハーレムアニメの主人公である君にとって、彼がイケメンでないこと、それこそが最大の矛盾点なんだ。



「――は?」


 ……イケメンでないことが、矛盾点?

 何を言っているのかさっぱり、分からなかった。

 ただ、もっと理解できなかったのは、言われていることの意味が分かっていないのにも関わらず、「ああ、そういうことだったのか」と、頷いてしまう自分が――心のどこかにいたことだ。


「私が、逆ハーレムアニメの主人公……?」


 困惑した声で私はそう呟く。



 ――――ぁあ。そうだ。君は、逆ハーレムアニメの主人公だ。だからこそ彼の存在は、悪辣であり、忌々しいものなんだ。君の身に起こる様々な超常現象だって全部、彼が原因なんだ。



 視界が更にぼやけ始める。

 酷くなる眩暈と頭痛が、本当に辛かった。


「……彼が原因?」


 この現象、この状況、この辛さが、全部彼のせいならば、彼がこの世界に存在している事によって起きていることならば。

 私は腹をくくった。



 ――――だから、君は彼を殺すべきだ。




「――――言われなくても分かってますよ」


 そして、やけに落ち着いた表情を浮かべながら、私はそう言うのであった。


女性の方がやるときはやりますねぇ。

いろんな意味で。

それにしても南奈々。……怖ろしい人だ。

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