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「そう言えば、本当に急がないといけないんだった!」
下校中。
早めの足どりで歩みを進める私は、そう呟く。
久しぶりに仕事が休みの母親と、昼食を食べに行く予定があったのだ。腕時計を確認する。時計の針は、十二時ちょうどを指している。
「……やばっ!」
それを視認した私は、さらに歩くペースを上げる。待ち合わせ時間は、十二時十分。
後、十分で、待ち合わせの店に到着しないといけない。
弾みのない灰色コンクリートの道を踏みしめながら、空気を掻き分けるかのように、歩みを進める。
両端をクリーム色のブロック塀に挟まれたこの通りには人気が少なく、静寂が広がっている。 そしてそんな静寂の中、革靴がアスファルトにぶつかる度になる固い音だけが、狭いこの道に響いていた。
「よしっ! 交差点見えてきた!」
交差点が見えてきた。そこを真っ直ぐ行けば、その店に辿り着く。
ちょっと気分が高揚してきた私は、とうとう走り出して――
「危なぁ!!」
走り出した瞬間、曲がり角に見えた人影を視認して、私は叫んだ。
が、もう遅かった。
ボン、という鈍い音が鳴り、体に多少の衝撃を感じる。
そして私はぶつかったことを認識した。すると、
「あのー大丈夫っすか?」
誰かが、衝撃によって地面に座り込んでしまった私に、そう問いかけてきた。
これといった特徴もなく、ただ低いだけの声に、私はおもむろに振り向きながら、応対する。
「っあ!大丈夫です!そちらこそ大丈夫ですか?」
ゆっくりと時間をかけて振り向く途中で、その人の左手が見えた。細くも太くもない、そして白くも黒くもない、『健康的な』というよりか『標準的な』左手だった。
そして私は視線を、その人の手から腕へ、腕から肩へと這わせて、
「いや、俺は全然だいじょ……」
彼の視線と私の視線が完全に合致した時――
「――――はぁ?」
「――――はぁ?」
混同に満ちた二人の声が重なった。
それは 自意識を完全に無視した反射的な発声だった。
――――そして絶対に対峙してはならない私と彼の対峙が今、開幕してしまう。




