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教室へ移動すると、すぐにホームルームが始まり、その後、入学式を執り行うために私達、新入生は体育館に向かった。
「わぁ……なんかすごいな」
広大な体育館内一面に、びっしりと鎮座したパイプ椅子を見て、私はそう呟いた。
「本当、広いよなぁ」
私の言葉に頷きながら、改めて辺りをゆっくり見渡すのは、新田君。
先生の指示通り、私と新田君は一年G組の席に座ったのだが、
「っていうか、まさか前の席が新田君だったなんてね」
「俺も正直、びっくりしたよ」
私の出席番号は三十五番。新田君の出席番号は三十番。
一年G組の生徒は全部で四十人ため、縦八列、横五列で並べられたこの席配置において、私と新田君の座る場所は前後関係に当たる。今、私と新田君が座りながら歓談できているのは、それが所以だった。
「ところでさ、南ってなんでこの学校来たの?」
新田君は首だけを少し、こちらに視線だけを向けながら私に質問をぶつけた。
「ん~特に行きたい高校が見つからなくて……とりあえず、家から一番近い高校に来ちゃったっていう感じかな」
「……南って意外と適当な人?」
私の人格に対する懸念から眉を寄せているのか、それともただ単に、体育館の窓から差し込んだ太陽の光が眩しくて眉を寄せているだけなのか、私には分からなかったが、彼が眉間に寄せる皺は、やはり美しかった。
「いや、まぁそこそこの進学実績があって、学校自体も綺麗だし……私の中学の時の成績からして目指せなくもないかな?って思ったのも事実だよ!」
なぜだろう。何となく彼に、『適当な人間』だと思われるのが嫌だった。
故の弁明だったわけだが、
「……でも本当の理由は?」
「近いから!」
「これ面接官にやられなくて良かったね……」
「……う、うん」
私の席周辺にいた三、四人の人が必死に笑いを堪えている。だが、笑いを堪えようと必死になるあまり、肩がいかにも不自然に痙攣しているので、笑っているのだとすぐに分かってしまう。
私的にはもうこの際、笑い飛ばして欲しかった。冷笑でも失笑でも爆笑でも何でもいいから、声に出して笑って欲しかった。そっちの方が気持ちが大分、楽だ。
そして、そんな私の引きつった顔に視線を飛ばした新田君は「やれやれ」と言ってから、首をゆるゆると横に振った。
――とその時、誰かの視線を感じた。ん?これは視線なのだろうか?よく分からない。何だか、『意識を向けられている』そんな気がした。まぁ、いいか。
「南?」
「……ん?」
「また、ボーっとしてたよ」
「ぁあ、ごめんごめん」
私はバツが悪そうに笑みを浮かべてから、自分の後頭部を重宝するように優しく掻いた。
――と、その時。まただ。また、視線というか意識みたいなものを感じる。誰だろう?目を凝らしてよく探したのだが、結局見つからなかった。まぁ、気にしなくていいか。
「あ、そうだ。聞き忘れたことがあったんだ」
「何?」
「神道君とは、いつから知り合ったの?」
「あいつとは、実は幼稚園からの知り合いなんだ」
どこか誇らしげな顔をする新田君は、さらに続ける。
「その後、一回小学校でそれぞれ別々の学校に分かれてから、中学校で再開したんだ」
「へぇ~。なんかロマンチックだね」
――と言いながらも、私はまた意識のようなものが、こちらに向かって来ているのを感知している。本当に誰だろう?あの不思議な感覚と何か関係が?まぁいいか。気にしない。気にしない。
「どこがロマンチックだよ」
「いや、何となく」
「俺と悠は多分、腐れ縁なんだよ」
「まぁ確かにそうだね……」
入学式の司会者と思われる生徒が、「入学式を行いますので、静かにして下さい」と言うと、その言葉通り、体育館には静寂が生まれる。
それにつられて、二人の会話が終了すると、新田君はくるっと首を回し、前を向いた。私も姿勢を正し、新田君の背中を見つめた。
神道君の話をするときの新田君の表情はどこか嬉しそうで、私的にはそんな彼が、非常に印象的だったのであった。




