驚嘆
少し書き直してみました。
1
「はい、こちらに次元管理局」
「もしもし? 三次元制作部ですが……」
「はい」
「局長さん?」
「はい?」
「季節の変わり目で、気温が唐突に高くなる日とかありますよね?」
「………」
「そんな時、今まで散々厚着だったのに、いきなり半袖半ズボンで電車に乗ると、今、自分は全裸何じゃないか? 何も身に纏ってないんじゃないか? と心配してしまうことが、多々ありますよね」
「………」
「ないですか?」
「いや……」
「ーーじゃ、本題に入りますね」
「いや、今の前置きは何だったの!?」
「後の祭りです!」
「意味が分からないよ!」
少しの時が経って、咳払いが聞こえた。
「………で、頼みたいことがあるんですけど」
「何?」
「『ラバァーズメモリーズ』ってアニメを、今月中に作って欲しいんですけど」
「今月中かあ………んで、ラバァーズメモリーズってどんなアニメなの?」
「異世界型主人公最強系ドタバタハーレムラブコメディですね」
「……日本語?」
「分かりません」
「分かんないのかよ………んで、主要キャラは? 何人?」
「23人ですね」
「それはもはや主要キャラじゃないよね?」
「サッカーで言ったら、二チーム作れますよね」
「フットサルだったら、四チームも作れるじゃん! しかも三人も余るし!」
「六人制バレーボールだったら、約四チーム作れますよ」
「七人制ラクビーなら、三チームできるし!」
「それはちょっとよく分かんないですね」
「なんでだよ!!」
「というか局長?」
「何さ?」
「かけ算できたんですね!」
「できるわぁ!」
「……まぁ、とにかく、ラバァーズメモリーズ。今月中ですからね。お願いしますよ」
「今月中は流石に厳しいかな」
「何でです?」
「いやいや、こっちも結構忙しーー」
「では、電話代もったいないんで、切りま〜す。今月中ですよ〜。じゃ、お願いしますね!」
「えっ?ちょ、ちょっ待っ……」
――――プツリと耳元で鳴く電話音。
「まだボクは話している途中なのに……!」
そう言って、ボクは受話器を乱暴に置いた。
――――ここは二次元管理局。
辺りには規則的に配置された灰色の机と、それに伴う形で回転式の椅子が鎮座していた。
まぁ今で言う『会社内』のような風景が広がっている、そう思ってくれると有難い。
「はぁー……」
深い溜息をついたボクは、局長席にどっしりと腰掛け、意識を耳に集中させた。音が聞こえる。
パソコンのキーボードをタイピングする音。
マウスをクリックする音。
電話が鳴る音。
印刷機が、プリントアウトする音。
管理局の社員達が話す声。
等々、本来沈黙で満たされていたはずの局内には、もう既に様々な音が広がっていた。
そしてそんな『会社の音』を、しばし聞き入っていたボクは不意に目の前で聞こえてきた女性の声に、少し驚いた。
「局長、この間データの整理しておいたんですけど、また萌え系アニメの需要高くなってましたよ。全くどうなっているんでしょうかね? 三次元の人間たちは」
机越しにボクの目前に立つ女性社員――青美は、顔を曇らせながらそう言った。
ふわりとした青い髪の毛が印象的な彼女は、局内で一二を争うほどの美人さんだ。
「ボクに聞かないでほしいなぁー。彼らの欲望には際限というものがないからねぇー。彼らの気持ちは全く以て理解不能だよ」
「とか言って局長、鞄に『萌えたん』とか言う痛いストラップつけてるじゃないですかぁ!」
繊細でありながらも機能的な、黒のパンツスーツを身に纏う彼女は、意地悪な目つきでボクを見つめてから、机の上に置いてある鞄を指差した。
ちなみにこのスーツは、管理局内の制服のようなもので、女性社員全員に着衣が義務付けられている。
まぁボク的にはパンツスーツじゃなくてタイトスカートの方が良かったんだけど。
「そ、それは! もらったんだよ、えっと、従弟にもらったんだ!」
「じゃあ、局長室の机の引き出しにある大量の幼女フィギュアは何なんでしょうね?」
「なんでそんなことまで知ってるの!? まさか君、局長室に勝手に入ったんじゃ……」
会話をする時ボクはいつも、相手にペースを掴まれてしまう。そもそも論、話が下手なのか、将又すぐ感情的になってしまうからか。
とまぁ、そんな感じで、ボクがどうでも良いような会話で、癇癪を起していると、
「局長局長! 大変です! 局長が扇風機に似ているか否かなんて話してないで、聞いて下さいよ!!」
そう言って、こちらに小走りで駆け寄ってきた新たな部下――炎菜は、ボクの目前にある机をドンと叩いた。
切れ長の瞳に均整の取れた鼻立ち、そして艶のある唇が何とも印象的な、青美に負けないくらいの美人さんだ。
「ボク達そんな話してなかっ……」
「とにかく! 聞いて下さい。昨日、管理局に入ったばっかの新入り君が……!」
軽口に対する訂正を遮断され若干の憤りを感じたものの、表情を真剣にする炎菜を見たボクは、すぐさまその形相を変えた。
「……どうしたの?」
声のトーンを一つ落としてボクがそう問うと、炎菜は自身の赤みがかった髪の毛を弄りながらやや言いづらそうに口を開いた。
「……一つの二次元世界に、二人の主人公を入れてしまったみたいなんです」
「ぇぇええええええええええええ!!」
局内いっぱいに響き渡るボクの絶叫は、局内中の部下達の視線を集める。
そしてその部下達もまた炎菜の衝撃発言に絶句しているのか、どこか緊張している様子で、刹那、局内には気持ち悪いほどの沈黙が生まれた。
「……で、ちなみに、どんなアニメの主人公を入れちゃったの?」
「――――ハーレムアニメの主人公と逆ハーレムアニメの主人公を入れたそうですよ」
「何ィィィィィィィィィ!?」
張りつめていた静寂がボクの絶叫によって、打ち砕かれた。
やはりボクには、すぐ感情的になってしまう癖があったみたいだ。
……しかしこれは、かなり――――まずいことになったな。
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