ヴィード様は優しい王子様?
みなさん、こんにちは。
僕は、セスティルダ・エル・シュバイツと申します。
公爵家の長男で、もうすぐ7歳になります。
僕には双子の妹であるシルフィーナがいて、僕らより3つ歳が上のヴィード王太子殿下の婚約者です。
ヴィード様のことが大好きなフィーだから、婚約者になれてよかったねって言いたいんですけど……何やら僕とフィーの間でヴィード様の認識がずれている気がするんです。
「ヴィード様はわたくしが困っているとすぐに助けてくれる優しい王子様ですの」
「え……優しい?」
「セス兄様、どうしてそんなに不思議そうなお顔をするんですの?」
不思議そうに銀色の髪をさらさらと揺らしながら、首を傾げるフィー。
「えと……たとえば、どんなところが優しいの?」
「いっぱいありますの。この間、なぜか怒り心頭な教育係さんの八つ当たりで難しい問題を出されたんですの。でもわたくし、答えられなくて泣きそうになっていたら、クッキーを齧りながら戻ってこられたヴィード様があっさり答えをおしえてくれたんですの!」
「えっと、フィー?そもそも教育係が怒り心頭だったのは、ヴィード様が授業をサボっていたからだから」
「その後も一人で頑張ったご褒美と、ヴィード様が食べていたクッキーをくれたんですの!間接キスですの!キャー!」
「いやいや、僕の話聞いてる?しかもそのクッキーって、そもそも陛下がこっそりフィーと僕にくれようとしていた分を、ヴィード様が横取りしたんだよ?僕、食べてないのに……」
「とっても美味しかったですの!」
「そこは聞いてるんだね。何でそこだけキリッとした表情で言ってるの」
「ヴィード様と一緒にセス兄様の分も食べちゃったので、感想だけでも伝えますの!」
「それはそれで嫌がらせだよ?……いや、そうじゃなくてね?フィーは、本当にヴィード様が優しいと思うの?」
「もちろんなのです!お優しい方ですの!」
自信たっぷりに胸を張って答えるフィー。
僕……前から思っていたんですけど、妹は騙されている気がして仕方がないんです。
思わず黙り込んでしまう僕の頭を、フィーは首を傾げながら撫でた。
「セス兄様、どうしてヴィード様が優しい方でないと思われるんですの?」
「え……だって、剣術の時間になったら僕を指南役の先生のところに置き去りにしてどこかに行っちゃうし。ヴィード様がサボるから、ちゃんと捕まえていない僕が怒られるし……すぐに先生もヴィード様を追いかけに行っちゃうけど」
「兄様兄様。剣術が苦手なセス兄様に団長を担う先生では厳しすぎるので、ヴィード様はご自分を追いかけるようにしていらっしゃるんですのよ?先生がいなくなったら、教えるのがお上手でお優しい副団長様がいらっしゃってますの」
「……確かにそうだけど。じゃあ、僕の分のクッキーをフィーと食べちゃったのは?」
「とっても美味しいクッキーでしたけど、セス兄様が苦手なレーズン入りでしたの。陛下がくださっていたら、兄様残すことができなかったんですの」
「……」
フィーが次々と答える事実に言葉が出ない僕。
えっと、ヴィード様は本当に優しいのかな?
「セス兄様、もうお城に行ってお勉強しないといけないお時間ですの!」
「え、本当だ!急がないと、またヴィード様に時計が読めないおっちょこちょいって言われる!」
「でも遅刻しないようにヴィード様とお揃いで懐中時計をいただいてましたの!ズルいですの!」
「フィー!文句は後で聞くから、今は急ぐよ!」
「はいですの!」
ヴィード様にいただいた懐中時計を確認しながら、フィーと手を握って部屋を出る。
……結局、ヴィード様って優しい方でいいのかなぁ?
……優しい王子様でいいんじゃね?