過去編~そして俺たちは~
屋上に着くと、杏里は居なかった。
ただ・・・・・
望遠鏡と血痕、そして俺の渡していた果物ナイフだけが地面に転がり落ちていた
「・・・・血痕、あっちこっちにかなりの血痕だ。」
アキラは血痕がある所を行ったり来たりして考え込んでいた。
俺は膝から崩れ落ち頭が真っ白になっていた。
「おい、歩隆。」
上を見上げると、あのアキラが目に涙を浮かべながら
「これは、俺の予想だけど・・・・言うてもいいか?」
もう、何も聞いても絶望は絶望だ。
「あぁ、聞くよ・・・」と答えた。
「恐らく血痕の後を辿ってて気づいたんだけど・・・
お前、杏里にこのナイフ渡してたのか?」
「あぁ、念の為にと思って」
「杏里は俺らがスーパーに入った時に襲われたんだと思う。
ほらここ、杏里が立って俺らを誘導してた所、ここに大きな血痕があるだろ。
そこからあっちまで小さな血痕がまばらに付いている。多分、杏里は襲ってきたゾンビを刺した時に出たのがこの大きな血痕でそこからゾンビが血を流しながら杏里を追いかけて、ここで杏里を・・・ほら、かなりの血の量だろう。考えたくないが、これは杏里のかと思う。」
アキラの目からは涙が溢れていた。
俺も泣いていた。もう、生きるのがしんどくなっていた。
このままゾンビに食われた方が楽だと思っていた。
でも、アキラはまだ希望を捨てなかった。
一番辛いのはアキラなはずなのに、俺はアキラが中学生の頃から杏里を思っていた事は知っていた。
ずっと好きだった杏里を失ったアキラの方が辛いはずなのに
アキラは、立ち上がり俺に手を貸してくれた。
「ここで、俺らが死んでみろ。最後まで戦った杏里に申し訳ないだろう、俺らも最後まで戦おう」と・・・・・
そっから俺たちは身を隠しながら、生存者を探していた。
そして一ヶ月後のあのビルで、俺はアキラの行方が分からなくなり
カリンと出会った。
「歩隆さん?どうしました」
目の前でカリンが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「あぁ、ごめん。昔の事思い出してて」
「もう、心配しましたよ。」
と、ニコニコしながらこんな死んだ街、そして俺の前を堂々と歩くカリンが居た。
・・・杏里の言うた通りだ、本当に助けが来たよ。しかも、なんとまさかの異世界人。
「歩隆さん、車通りの多い道はこの辺でしょうか?」
と、カリンと俺は、1ヶ月前に俺ら三人が逃げる為に使っていた高校の通学路に出ていた。
あの時の記憶がよぎる。もう少し歩けば、あのビルか・・・。
「あぁ、この道はバスも通るし車通りはいいほうだよ」
「ほう・・・。あ、あの車いけそうですね。」
カリンは一台の車に駆け寄った。
「・・・・これ、高級車じゃないか?乗れんのか?」
「舐めないでください。運転なんて誰でもできますよ。この車種だと簡単にゾンビを跳ね飛ばす事もできますね。よし、すこしいじりますので少々お待ちを」
と、カリンは車のボンネットを開けていじりだす。
俺は見張り役としてゾンビが来ないかを見ていた。
すると150mほど先から15体ほどのゾンビがこっちに歩いてくる。
「おい・・カリン来たぞ・・。おい、まだか?」
「ん~、もうエンジンはつきますが・・・。ん~・・・」
と曖昧な返事をしてまだ作業を続けている。
「おい・・来てるって、もうそこだって。ねぇ、お願いカリン様まじで」
俺が冷や汗を垂らしながら必死に訴えてもカリンは夢中だ。
残り60m・・やばい・・そろそろやばい・・・
「ふぅ~満足いくまでいじれました。
お!ナイスなタイミングで死者登場ですね!歩隆さん助手席に乗ってください」
「さっきから、言うてるじゃん。ゾンビ来てるって!」と言いながら素直に助手席に座りシートベルトを止めた。
「歩隆さんは、ご存知ないでしょうがこの車なかなかの馬力があります。そこからまた私がいじったので・・・ふふ、どうなる事やら」と嬉しそうにカリンが車のエンジンをかける。
そして俺は今完全に死亡フラグが立っている。
ゾンビはもう10mまで近づいて来てる時、カリンがアクセルを踏み
ブオォーーン!!!!!と、ものそごい音が鳴り響く。
音はダメって言うたじゃん・・・と思いながらもう黙って目を通ぶった。
「行きますよー!首取れないでくださいねー!」とその瞬間
身体がシートに押し付けられる。まじかよ・・まじかよ・・が脳内でループする。
次の瞬間、ドーーン!!と何かにぶつかる衝撃で目を開けるとフロントガラスが血だらけになっていた。
「あーぁ。」と言いながら、笑いながらワイパーで拭き取ってるカリンさん。
この子、血や死体に慣れすぎだろう・・・。
「どうでした?歩隆さん、この車である程度走りましょう!の、前にガソリンと食料ですね、このへんに何かありますか?」
この辺り・・・ふと、ミドリスーパーが過ぎった。
仕方ない、この辺ではあそこが一番広いスーパーだ。
「そこを右折した所に大きなスーパーがあるよ。
2階には服とかもおいてある」
「決定ですね。」
車だとすぐにミドリスーパーに着いた。
「どうしましょう、私一人で調達した方が効率いいですよね?
3分で戻ります。車の鍵を締めて隠れててください。あ、リュック借りますね」
と、カリンはスーパーに入っていった。
一人になって初めて気づく、淋しい・・・恐怖・・・足が震える・・・妄想、妄想、妄想。
あぁ、杏里悪かった、一人になるってこんなにも怖いんだな。よくない妄想ばっかりしてしまう。
そして、杏里は妄想だけで済まずあんな事に・・・。
また泣けてきた。俺、どんだけ泣くんだよ。
その時、
コンコンと窓を叩く音がした。
ハッと窓を見るとカリンが笑顔で大きな荷物と共に戻ってきていた。