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閉鎖の桜  作者: うみの はまぐりん
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入院まで

この話は実際に体験した躁鬱病と閉鎖病棟、その後の療養生活などを描いています。


その期間15年、色々とありました。様々な経験と人間関係のなかで私が回復していく様子です。

第1章 入院


その病院の閉鎖病棟には渡り廊下で囲まれた小さな中庭があった。

私たち患者は天気の良い日そこに出してもらえた。入院した6月、晴れた日にビニールシートを広げて皆で日光浴をした。

仰向けで寝転がって空を眺める。


どこまでも高く青い空。どこもかしこも鍵で閉ざされた閉鎖病棟から眺めたこの空だけが永遠へと続く解放された空だった。




はじまりは朝の吐き気からだった。夫の転勤で義父母と同居したのだが生まれ故郷であるこの土地も当時の私には居心地がわるかった。

なぜなら私は実家の母の反対を押し切っ駆け落ち同然に結婚したからだ。転勤前に東京で生活していた頃には気にならなかった噂話も嫌でも耳に入ってくる。


母はこの街で私の悪口をあちこちで言いふらしていたのである。同居した姑との折り合いもうまくいかなかった。

吐き気は胃痛をともない苦しくなった私はある日総合病院の精神科に行ったのである。

何も調べずに出向いたその日は休診日だった。がっかりして帰ろうとした時看護婦さんが近くの系列のO病院でなら今日やっていると教えてくれた。


私はO病院の待合室で診察を待った。どんよりとした古い壁、狭い中で寄り添うようにまちあう患者たち。不安な気持ちでいっぱいだった。

診察室に入った途端、私は号泣してしまった。ついに精神科に来てしまったという思いとこれで助かるという思いがごちゃまぜになっていたんだろうとおもう。

この時診察してくださった先生がハマー先生だった。処方された薬はソラナックス、軽い安定剤だった。

この時はこれからこれ以上薬を飲むことになるとは思いもよらなかった。


薬を処方されたとは言え、毎日ストレス満載の生活には変わりがなかった。口うるさく細かい姑、まだ幼稚園の幼い息子、状況はどんどん悪くなっていくのであった。姑は透析患者だった。その病院の送迎まで私の仕事になった。嫌いな姑と一つ車に乗るというのはとても辛い経験だった。姑の話題は誰かの悪口小さな町でのゴシップ、そんなばかりで私は辟易していた。


ソラナックスを服用してしばらくたつと私は胃の痛みに悩まされるようになった。

追加の薬が処方された。ガスター20。当時一般向けにガスター10が販売され始めた頃で私は2倍量を飲んでいるのだと理解していた。胃が痛くて吐き気がする、食欲もない。私はじわじわ痩せてきた。当時167㎝ 56kgが50kgに減った。


この頃から私は自殺を意識するようになった。階段の手すりに紐をかけてみたり、市販の鎮痛剤の過剰摂取をしたりし始めた。


あれは冬の雪降る日だったと思う。煮詰まった私は幼い息子に「お母さん自殺してくる」と言い放ち車で寺泊港まで飛ばした。岸壁に車を止めてそこから飛び込もうとした。しかし一時間たっても二時間たっても私は海には入れなかった。すこし疲れた私は帰ることにした。車が家に近づくと玄関に誰か立っている。それは幼い息子だった。頭に降り積もった雪は彼がずっとそこに立っていたことを表していた。

幼い息子は私にしがみついて泣き出した。「ごめんね」私は彼を抱えて家に入り急いでお風呂を沸かした。二人でお風呂に入り、彼の大好きなホットケーキを作って食べた。今でもあの雪まみれの息子の姿を思い出すと胸が締め付けられる。アルバムの写真もこの頃の息子は表情が暗く悲しげな顔をしている。本当に申し訳ないと思う。

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