間章 金髪少女は『在りし日』の少年を夢見て想う
■【翠玉の彗星】ユミア=ライプニッツ
あたしがガミキと初めて出逢ったのは14歳───中学二年の一学期。
とても静かで目立たない、あまり印象に残らない男の子だったと記憶している。きっとクラスのみんなも同じ印象を抱いていたのだと思う。
ただ、それはあくまでも第一印象の話。
ところが、ある日を境にあたしは彼をとても静かで目立たない、あまり印象に残らない男の子───寧ろそれを演じている様に感じて見えた。
何故だか、少しだけ興味が湧いた。
またある日、彼の姉が石神先輩だと知って更に興味が湧いた。
才色兼備にして校内一の人気者である先輩を姉に持つ苦労だとか、劣等感だとか、色々なものを背負っている様に見えてしまったから。
あたしと少し似ているかも───そんな風に勝手な想像を膨らませながら気付けばいつも彼を目で追うようになった。
また別のある日、あたしは彼に声を掛けた。
彼自体に興味があったという事は否定しないが、別の目的で。
あたしにはどうしても石神先輩との関わりが欲しかった。
どうしても剣を交えたい……その衝動に駆られていた。
現在の自分の立ち位置を知るのに先輩が恰好の好敵手だと思い込んでいたから。
そしてまた別のある日、あたしは打ちのめされる事となる。
剣道で得た段位などまるでただの肩書きに過ぎないと感じてしまう程、圧倒的な敗北を味わい、圧倒的な実力差、圧倒的な覚悟の違いを見せつけられた。
剣への自信が、自らの驕りが、まとめて色々な感情が津波の様に押し寄せて、撒かれては、消えた。
同時に彼のコンプレックスの根源を垣間見た気がした。
それでも彼は剣を握った───ある日を迎えるまでは……。
彼が剣を握らなくなってからあたし達は仲良くなった。
家庭の事情を語り合う事はなかったけれど、それでも本物の友達にはなれたと思っている。……正確には少しだけ恋愛感情も混ざっていたのかもしれないけれど、当時のあたしにはそれを自覚するだけの経験値が足りなかった。
あの日、突然の離別が訪れてから2年近くが経過した。
そして訪れた突然の再会。
彼は相変わらず『彼』のままだったけれど、それはあの鉱山で魔獣と戦う姿を目の当たりにするまで……。
彼は、あんなにも拒んでいた剣を握り、誰よりも真っ直ぐこの『世界』と向き合って生きていた。
眼には映らない翼で羽ばたく彼がとても綺麗に視えた。
同時に───そんな彼の姿を目にしてあたしが勝手に抱いていた親近感やシンパシーは瞬く間に崩れ去った。
それが何故かとても悲しい……。
この2年で彼は変わった。
この2年であたしは何も変わっていない。
何故だろうか、この事実があたしをとても悲しくてやるせない気持ちにさせる……。
彼がまた遠く離れていってしまいそうで……。
こんなにも近くにいるのに、とてもとても遠くにいるみたい……。




