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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
銀の煌翼 編
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第九話 採掘鉱山で鉱夫は挙って『沈黙』する

□鉱山都市アルビスタ レナト鉱山


「皆様、ご苦労様でーす!」


 新米ハンタービルバッケの声が響いたのは宿に荷物を置いてすぐに赴いた今回の仕事場レナト鉱山だった。

 武具に使用されている鉱石の採掘を主としたアルビスタ鉱山採掘場の一つ。

 何となく想像通りの岩肌をくり抜いた入口から中に入り、魔洸石の灯りが床を照らす採掘地を奥へと進む。


「《ヴェンガンサ》ってこういう所の警備まで請け負うんだね?」

「俺もこんな感じの仕事は初めてさ。というよりか今ウチは仕事を選んでる様な状況でもないしね」

「あははっ。ヘンリー支部長代行も頭抱えてたね」


 鉱山を奥へと進む中、左隣を歩くユミア。先程の何故かしら害した機嫌はすっかりと良くなっており、頻りに笑顔を見せる。


「それにしても何故警備なのだろうな?見たところ鉱山には魔物も生息していない様だし」


 右隣を歩くシルメリアは少しだけ首を捻りながら言った。

 確かに。それは恐らく誰もが抱いている疑問だ。

 魔物もいない鉱山の警備に俺とシルメリアを向かわせるのならヘンリーくんの皮肉や意地の悪い嫌がらせと捉える線もあるのだが、今回はユミアの《プロキオン》も帯同させている。

 金銭的な理由で考えたら経営不振に陥っているギルドの支部長(代行だが)が単なる思い付きや意地悪で請け負う仕事内容ではない。

 理由を教えてもらっていない分、きっと何かあるのだと考えていないと痛い思いをするかもしれない。


「ヘンリーの頼みなら断る事も出来ないし、私達は私達の出来る事をするまでだな、いつもの様に」

「まあそうだね。何事もないのが一番だけど、何事もなくいく事なんてないだろうからね、ははは……」


 鉱山に俺の乾いた笑いが反響する。

 何事もない仕事などあった試しがないので。重々承知なので。

 俺とシルメリアのやり取りをじっと無言で見つめている左隣のユミアは何故だか一言「ふーん……」と呟いた。


 しばらく歩いて採掘場の奥に辿り着いた俺達を迎えたのは汗と汚れの染み込んだタンクトップに作業服、安全メットを被った如何にも親方と言った風貌の男だった。


「おや?こんな場所ところに団体で何の用だい?」


 筋骨隆々な親方と思われる男───いや、こっちの勝手な推測だが───は訝しがる様子で作業を止めてこちらに歩み寄って来る。

 口の周りに豪快に生やした髭を撫でながら険しい表情でこちら一人一人の顔を覗き込む。


「……んで、どちら様かな……?」


 その険しい表情を見る限りでは歓迎されていると言うより不審者を見る様な態度だ。

 大丈夫かな……誰もがそう感じずにはいられない中、健やかにビルバッケは言い放つ。


「どちら様と聞かれたならば答えざるを得ませんねぇ。我らはギルド《ヴェンガンサ》のハンターでございます。今日から宜しくお願い申し上げますのです!」


 しーん……。


 ビルバッケの挨拶を聞いた親方に反応はない。

 むしろ作業を中断した他の連中の視線もこちらに向けられている。

 静まり返る鉱山内。

 相も変わらず親方は無反応。沈黙に次ぐ沈黙。

 おい、どうしたこの状況?


「あ、あれ……?」


 先程まで得意げな表情だったビルバッケの頬に冷や汗が伝う。

 そして腕を組み直した親方(仮)が沈黙を破り、その重たい口を開いた。


「全くもって何の話だ?こっちは何も聞かされちゃいないが」


 親方(仮)の発言を受けて一行はおやおや……と言った感じでビルバッケに視線が集中する。当の本人は汗まみれでその目を泳がせている。


 つまりはそう、無駄足だったみたいだ。


 ◆


「どういう事か説明してもらおうかなビルバッケ君?」


 鉱山を後にした俺達は入口の前で足を止めた。その開口一番でリデルが訝しげな瞳で言った。

 それはユミアを始めとした《プロキオン》一同の総意だろう。無理もない。俺だって寸分違わず同意見だ。

 片や、総勢10名の怪訝な視線を受けて更にたじろき目を泳がせるビルバッケ。


「自分は確かに鉱山の方にはもう話が通っていると伺ってたので……」

「実際通ってなかったみたいだから、何かの行き違いあったのかもしれないさ。もう一度ギルドに連絡を取って確認してみた方が良さそうだね」

「さっすがはガミキさん!これは何かの行き違いですよ!そうに決まってますですよ、ハイ!」


 俺の言葉に逃げ道を切り開き、ビルバッケはここぞとばかりにかぶりを振るう。

 正直こちらもヘンリーくんにアルビスタ行きを半強制させられただけで仕事の内容に関しては皆無だ。

 少しくらいは聞いておきたかったが、頑なな彼を崩すには余程の労力を消費しなければならない事を否が応にも理解している俺はそれを回避した。まあ着けば分かるさと今思えばあまりに安易な考えで。


「鉱山の警護と言うからには悪漢か魔物の類で鉱夫が困っていると思っていたのだがな」

「半分俺も同感さ」


 珍しく的を得たシルメリアの発言は俺も『半分』予想していた。ただ、あくまでも『半分』だ。

 何故アルビスタの鉱山警護が今回の仕事になったのかと言う件にはヘンリーくんとの本題───銀栄騎士団シルバリア・ナイツ、それだ。

 ヘンリー氏にどんな思惑があるにせよ、いずれは繋がる。

 このレナト鉱山から始まる何かしらの事件の口火が……。

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