第八話 鉱山都市の宿場で部屋割りを巡り『女の戦い』は幕を開ける
朗らかな表情を浮かべたビルバッケハンター先導の下、辿り着いたのはアルビスタの街並みに溶け込む様な2階建ての宿場。
黒煉瓦を背負い、白を基調とした外壁塗装が揃って列を為す宿場街の一角。
ぶらりと散歩に出掛けて帰ってみれば自分の宿がどこだったのかと迷ってしまいそうだ。
「ぶるーとりっくにごうかん?」
「うん。『ブルートリック』2号館だね」
ご親切に白い外壁にはデカデカと『ブルートリック』2号館の文字。これで迷子は回避出来そうだ。
「皆様〜。こちらが当面の宿泊先『ブルートリック』の2号館でございま〜す。《ヴェンガンサ》の名前で取っていますので先ずはチェックインして荷物を置いてきて下さ〜い」
さも旅行ツアーのガイドの如く宿前で小さなフラッグをパタパタと振るビルバッケに促されるまま俺達一行は『ブルートリック』2号館に足を踏み入れた。
同時に係員の女性がやって来て各自予約された部屋へと案内してくれる。
先導されるがままにぞろぞろと進む一行の最後尾を歩いているとある一室の前で……、
「ユウキ=イシガミ様、シルメリア=ビリーゼ様はこちらのお部屋となっております」
さらっと係員の女性はその部屋を案内する。
「これはお部屋の鍵ですのでどうぞお失くしにならないよう」
「あ、はい。分かったさ」
自然な流れで鍵を受け取る。
……って、二人部屋?これって……。
「ちょっと待ったぁ───!!」
俺が頭の中であーだこーだと考える前に形相を変えたユミアが係員に詰め寄る。
「何で二人だけ別の部屋なの!?」
「何でと言われましても……お部屋のご予約は《ヴェンガンサ》様のフレデナント支部からのものなので。お二人と《プロキオン》様男女の大部屋という様に承っております」
「だからって二人きりっていうのは……幾ら何でも……ふ、不謹慎過ぎじゃ……!」
「わたくしのお仕事はお客様をお部屋にご案内するだけなので」
「く、くぅ……!」
迫るユミアに物怖じする事なく女性係員は手を伸ばし、先を促す。早く進めよと言わんばかりに。
「私は別にユウキと二人部屋でも構わないぞ?今更別の部屋というのも却っておかしな気もするしな。なあユウキ?」
「え」
シルメリアさん得意のぶっこみを受けて俺は固まってしまう。内容自体は嬉しいものだが、目の前のユミアさんの驚愕する表情を見ていたら何と言葉を紡げばよいのか分からなくなってしまった為だ。
見る見る内にユミアの顔が青ざめ、翡翠色の瞳が潤んでいく。
おいおい、一体どうしたってのさ……。
「ハイハイ、その位にしとけユミア。さっさと行くぞ」
呆れた顔をしたリデルが涙目で納得のいかなそうなユミアを否して首根っこを掴んだまま引きずり奥の部屋へと入っていく。
部屋に入る寸前、ユミアが涙目から殺意に似た眼差しを向けたのは気のせいだろうか?
「さあ皆様、ラブコメはそれぐらいにしておいてもらって、荷物を置いたら鉱山を案内しますからねぇ」
笑顔を浮かべたビルバッケがロビーで珈琲を啜りながら言った。朗らかに、朗らかに。




