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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
銀の煌翼 編
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第七話 鉱山都市で新米ハンターは欣喜雀躍と『邂逅』を祝う

■□鉱山都市アルビスタ

【■■■】ユウキ=イシガミ


リムレア暦1255年 10月01日 11時35分


「───ようこそ、鉱山都市アルビスタへ!」


 蒸気機関車に揺られる事数十分、アルビスタの駅に到着した俺達一行を出迎えたのははにかみ笑顔の女性駅員、その声。

 そして駅を一歩出るとそこには想像を裏切る光景が広がっていた。

 俺の思い描いていた『鉱山都市』のイメージは穴ぼこだらけの山岳に囲まれた煤まみれの街並み。若干炭鉱都市と混在している感は否めないが、どちらも衰退したゴーストタウン一歩手前といった風景を想像していた。

 だが、俺の目の前に広がる情景はどうだ。想像していたそれと大きく違っている。

 黒煉瓦で統一された家屋が建ち並ぶ、石畳みの街並み。駅の改札前に広がる大通りには忙しなく行き交う人の群れ。

 何がゴーストタウン一歩手前だ……と、一瞬目を丸くして自分の中の鉱山都市のイメージを悔い改める。


「フレデナントと同じでここも大勢の人間がいるんだな」

「本当だね。フレデナント程大きな街ではないものの、賑わい方は負けていないね」

「ユウキ、ユウキ!早く街中を探検しよう!」


 言ってシルメリアは無邪気に笑う。その健気さに釣られて思わず俺は口元が綻んだ。

 するとすぐに背後から少しだけ低い声がする。


「まずはレナト鉱山に行くのが先なんじゃないかな……?」


 振り返ると少しだけ冷たい目をしたユミア。銀の軽鎧ライトメイルを纏った騎士風の少女は腕を組みながら面白くなさそうに少しだけ鼻を鳴らした。


「ユウキ、何だか友人殿はあまり機嫌が宜しくない様だな?」

「だ、だね……何でかな……」

「きっと汽車酔いだな。酔ったのだろうよ、ガタンガタン揺れていたからな」


 小声で交わすシルメリアとの会話に一層目を細めてユミアのご機嫌が悪くなっていく。ちょっ、ちょっと一体どうしたってのさ……?

 場の空気がいまいち宜しくないが為に俺は引き笑いを浮かべ言う。


「ま、まあ、確かにまずはレナト鉱山さ。俺達は仕事で来たんだからね。それに荷物もあるし、宿も取らなきゃさ」


 さあ行こうかと言わんばかりにレナト鉱山がどこにあるのかも分からないまま歩き出そうとした俺に声は掛けられた───。


「───あ、あの、あなたがガミキさんですか……?ですよね!?」

「……え?」


 ツカツカと皮のブーツの踵を鳴らして歩み寄って来たのは少しだけ丸みを帯びた顔と体格の少年。

 無造作に伸びた榛色の髪、額には青のバンダナを巻き付け、胸元にはパールブルーの胸鎧ブレストプレート

 年の頃は十代半ばから後半。おそらくは俺と同じくらいだろう。

 そんな見知らぬ彼が何故俺の名を……と、思いきや、何となく察しはついた。


「ようこそ、鉱山都市アルビスタへ!自分は《ヴェンガンサ》フレデナント支部所属のハンタービルバッケです!まだ新米の新米なんですけど、今日は特別にヘンリー支部長代行さんから頼まれ事をされました!」

「ヘンリーくんから?頼まれ事……とな?」

「ハイ!憧れの……あ……い、いや、ガミキさんがアルビスタに来るという事で案内役を任されました!」


 憧れの……あ……い、いや───というくだりがちと気になるところだが、無駄に元気なハンタービルバッケはやけに目をきらきらと輝かせながら続ける。


「あ、あの……!自分はガミキさんに憧れて《ヴェンガンサ》に入りました!だ、だからモノホンのガミキさんに逢えて感無量です!ぜ、是非握手を……!」


 言ってビルバッケは鼻息荒くガシッと俺の右手を両手で握り締めた。

 ほほぉう……俺に憧れてとはなかなか見る目のある少年ではないか。ただ握手するとは一言も……。

 浮かんだ思いをとりあえず押し込めて笑みで返すが、とても普段通りのそれになっていたかは自信がなかった。

 傍ら俺の手を握って興奮するハンタービルバッケ。


「す、すげぇ!あの【盗賊解体屋ロバーズブレイカー】や【厄介事引受人トラブルバスター】の異名を持つモノホンのガミキさんだぁ!確かに実物小さいけど、本当に刀持ってるんだ!」


 ……おい。最後の方さらっと悪口言わなかったかこいつ?それにその異名は何だ?俺も初めて聞いたし、何かあまり褒められてない気がして嬉しくないし。

 手を取るハンタービルバッケの手を強めに握り返し、俺は細やかな反抗をしてみる。


「ほほぉう。ユウキもなかなかの有名人なんだな」

「ちょっ……からかわないでよシルメリア」


 横から感嘆の声を上げたシルメリアとのやりとりを見るや彼の意識は即座に反応する。黒髮の美少女へと。


「流麗な黒髮に宝石の様に紅い瞳、極め付けは艶麗なその容姿!貴女が【黒の掃除屋(ブラックスイーパー)】のシルメリアさんですか!?モノホンだぁ!?ぜ、是非握手をぉ!」

「おお少年。私の事もご存知か?」


 即座に俺から手を離した彼は体型とは裏腹に機敏な動きでシルメリアと握手を交わす。求められた彼女もまんざらじゃない様子。


 あのぅ……何これ?


「……こほん!」


 ユミアの咳払いが聞こえた。流石に気持ちは分かる。

 途端に我に返ったビルバッケは仕事を思い出したその瞬間───いや、またすぐに忘れてしまう事となる。

 真っ直ぐにユミアを見つめて彼はわなわなと口を開く。

 俺やシルメリア、リデルら《プロキオン》一行が今度は何事だと思った刹那、ビルバッケはまたしても風の精霊に祝福されたかの様な動き出しでユミアに寄り、その手を掴む。


「わあぁっ……!?」


 当然驚くユミアにビルバッケは……、


「は、初めまして!自分はビルバッケという者です!黄金に引けを取らないブロンドの髪にグランブル湖の様に美しいエメラルドの瞳……恐れながら貴女が噂の《プロキオン》隊長にして【翠玉の彗星(エメラルド・コメット)】ユミア=ライプニッツさんですか!?モノホンに逢えるなんて感激です!!」

「あ、ありがとう……あははは」


 困った様に笑いを浮かべているが有名人扱いに彼女もまんざらではない様子だ。

 何だこいつはただのミーハーか?モノホンはもう聞き飽きたよ。

 少しだけユミアの手を長く握り過ぎた為かそっとリデルが嘘の笑顔……あ、いや、微笑みながら否す。


「……で、ビルバッケくん。そろそろ案内の方を頼もうかな。俺達は仕事で来てるんだからね。だろう?ガミキくん」

「……仰る通りさ」


 ウインクを交えたリデルの振りをぎこちない笑顔で躱して俺は呟く。


「あぁ失礼しました!こんな一度にギルドの有名人に逢える機会なんてないもので、舞い上がってしまいました……申し訳ないです」


 大人の余裕ぶった態度で促したリデルの台詞で我に返り反省したビルバッケが気を取り直して俺達を導く。今回のお仕事場所であるレナト鉱山とやらへ。

 ずらずらと十名に及ぶ一行を先導してハンタービルバッケは体型に似つかわしくない軽快な足取り。

 通り過ぎて行く商業地帯は活気に満ち溢れ、武具店などを早く探索したい俺の心を擽る。

 ここは俺の想像の中にあった鉱山都市とは違い、未だ貴重な地下資源が豊富に眠る。鍛冶屋や小売業者を初めとした商業者によって街は形成され、今も尚、進化しているのだろう。

 感慨深いなとか思いながら、共に歩を進めるシルメリアとユミアの表情かおが俺と同じだったのを目にし、少しだけ口元に笑みを浮かべている自分がいた。

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