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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
銀の煌翼 編
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間章 追い詰められた『逃亡者』に青藍の瞳は微笑を浮かべる

■□エレナント州 リビウス谷の洞窟

盗賊団(アビリティ)首領】フリーク=シュタイナー


リムレア暦1255年 9月同日 時刻不明


「───クソォッ!!何でこんな事にィ……!?」


 仄暗い洞穴の奥にその声は響いた。

 焦燥が入り混じった憤怒の声はさほど広くもない岩肌の洞窟内に木霊する。

 輪郭部までを覆う味気のない模様の銀の額冠サークレット、同色の軽鎧ライトメイルを纏う男は燃え上がる焚き火の炎を睨みつけた。

 燃え上がる赤に染まる浅緑色の瞳は姿形すらも知れぬ『邪魔者』に対して明らかな憎しみを宿す。


「いい加減に落ち着けフリーク。今更喚いたところで事態が好転する訳でもあるまい」

「……カンフーか……なあ、何で『こんな事』になっちまったんだよ?誰の仕業だよッ?」

「だから落ち着け。俺が知る訳あるまい」

「チッ……分かってる。悪かった」


 フリークと呼ばれた男が舌を打つ。それを見てカンフーと呼ばれた異国の服と肩当ショルダーガードを纏う男は静かに溜息を吐く。

 だが、無理もない。二人にとって事態はあの夜を境に急変した。

 彼らはエレナント州を巣食う盗賊団 《アビリティ》の首領と幹部───だった。そう、数ヶ月前までは。

 あの晩、部下を大勢引き連れて赴いた闇市。目的は彼らと《組織》を繋ぐ重要な資金の調達をする為。

 その闇市の中に《組織》の人間が欲しがっていた代物を偶然見付けた。ちょうどそんな時だった。


 ───根城アジトがフレデナントのギルドに襲われ、壊滅した!


 ……と、そんな話が舞い込んできたのは。

 そこから現在に至るまでは実に胸糞悪い流れだった。

 直後、闇市を包囲する《銀栄騎士団シルバリアナイツ》の第四騎士団。

 仕組まれている程に見事な包囲作戦に《アビリティ》に関わらずその場に居合わせた大多数の人間は拘束された。

 勿論、彼らはその包囲網の隙間を命さながら潜り抜けて現在に至るのだが。

 盗賊団の半数はアジトであるハルバロ山で、その残りも残党狩りに遭い《アビリティ》は事実上の壊滅を迎えた。

 かつて悪名を誇った盗賊団 《ゴブリン》の一員だった彼らからしてみれば二度目の屈辱……いや、それ以上に出来過ぎた壊滅劇を企てであろう()()()()の影が脳裏に鮮明に焼き付いていた。

 恐らくだが……そうに違いないと。


「───ハーケインか……!!」


 フリークはその人物の名を憎しみと共に搾り出し、声帯を怒りに震わせた。


「……だが、待て。俺としても他に思い当たる節はないが、不自然であろう」

「なに……?」


 カンフーの言葉にフリークは訝しがり眉を顰める。


「俺らを嵌めて陥れたところで奴に何の利益が生まれる?俺らを潰せば奴とて《組織》との繋がりが断ち切れる。損はあれど、得をする事など考え難いのだが」

「じゃあ一体誰がこんな真似を……!?まさかリシュナルか!?奴が裏切ったのかッ!?」

「喚くな五月蝿い。《銀栄騎士団》に『草』として送り込んでるリシュナルの状況など余計に俺が知る筈あるまい」


 鋭く尖った狐目を更に細めてカンフーは元首領を否す。フリークもそれ以上彼に問う事はしない。相棒が知る由もない事など理解しているのだから。

 ならば他に考えられる可能性とすれば……。

 そこまで思考を巡らせた瞬間、それは唐突に掻き消される事となる。


『───こんな場所に隠れていたのか。おかげで探し出すのに骨が折れた』


 声は突如した。

 一切の気配も感じていなかった為か、心臓を握り潰されそうな衝動に駆られながらもフリーク、カンフーの両名はすぐさま己の武器に手を掛ける。


「だ、誰だッ……!!?」


 白銀の刃を煌めかせてフリークは闇に問う。そう、声のした洞窟の暗闇に向けて。

 額から下垂れ落ちる冷や汗と剣の柄を握る手に嫌な汗を滲ませながら。

 やがて闇を纏う様に声の主が姿を現わす。

 その男は夜を引っさげた様な黒のコートに身を包み、整った顔立ちに青みがかった黒髪の青年。

 無表情で一歩、二歩と二人に歩み寄る青年は深い色をした青藍の瞳が冷たげで、より一層不気味さを漂わせていた。


「あ……あんたは……!!?」


 その青年が見知らぬ人物でない事をすぐに彼らは悟った。

 ただ、久々の再会を歓迎する空気ではない。それは当人達が痛い程に感じていた。


「……《組織》の人間がわざわざお出ましとは……後始末にでも来たというところかッ?!」


 額に浮かぶ脂汗を拭う事なく鋭い眼光を光らせてカンフーは籠手甲ガントレットから伸びた鉤爪を青年へと向ける。

 何故ならば彼らは知っている。失態した自分達 《アビリティ》の幹部を《組織》がいつまでも野放しにする筈がないからだ。

 《組織》からしてみれば、《アビリティ》の幹部達など末端の末端。所詮は資金作りの為に利用されている氷山の一角に過ぎない。

 しかし、《組織》という存在が世間───王国軍や、<教会>、警察機構、まして《ヴァレリア委員会》などに情報が漏洩する事態は決してあってならない事。

 だからこそ《組織》の人間がこの場に現れた意味を二人は苦虫を潰した様な表情で受け入れ、せめてもの抵抗を見せようとした。

 しかし、青年はそんな二人の想いとは裏腹に無表情な面持ちを崩し、口元に小さく笑みを浮かべた。


「ふっ……まあ、そんなところだ……と、言いたいところだが、お前達はまだ使える」

「な……なんだと……?」

「チャンスをやると言っているんだ。強要はしない。お前達で決めるといい……従うのか、それとも───」


 静かに微笑を浮かべ青年の右手が静かに伸びる……すみれ色の下緒が巻きつけられた白塗りの鞘に。


「二度は言わん。今すぐ決めろ」


 青年の静かで重い言葉にフリークとカンフーは即座にお互いの顔を見合わせる。既に答えなど確認し合う必要はないのだが。

 選択肢は一つしかない。端から一つしかないのだ……。


「……あんたに従う……まず何をすれば良い……?」


 剣を納めてフリークは言う。飲み込まれそうな青藍の瞳の深さに臆する事なく。


「ふっ……話が早くて助かる。外で短気な連中さんにんを待たせてるんでな」


 刀の柄からそっと手を引き、青年は今一度口元に笑みを浮かべ、言葉を紡ぐ───、


「……まずは以前から言っている『例の物』を必ず手に入れろ……次はアルビスタだ。そこでお前達には…………」


 青年は語る……。

 その青藍の瞳は夜よりも暗く、深海よりも深く、氷塊よりも冷たく……。



 ───かくして、『厄介事』の幕は開ける……。

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