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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
銀の煌翼 編
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第四話 度重なる事象に支部長代行は『悪鬼』と化す

 人間万事塞翁が馬という言葉がある様に人は時として幸を得たり、その幸から不幸が訪れたり、更には不幸から幸へと転じる事もある。

 だから詰まるところは人生何が起きるか予測出来ないという事。

 世間で起こる事象に一喜一憂し、流されない様にという教訓にしてきたが……これはそんなキッカケの一つなのだろうか?

 何故だかそんな気がする。


「や、やあユミア……久しぶりだね」


 2年近く探し求めていた『友人ひとり』と再会を果たした俺は言葉を紡ぐ事に困っていた。決して再会自体に困惑しているのではない。本当に、本当にもう一度逢いたかったのだから。


「本当に……本当にガミキなの…………?」

「うん……まあ一応そうだと思うさ」


 俺だけではない。彼女もまたおそらく似た様な状況に陥っているに違いない。

 あまりに突然過ぎて、驚きが勝り過ぎて、信じるにはまだ時間が足りな過ぎて……それ以上の言葉をなかなか紡ぎ出せずにいる。

 正直な話、離れ離れになった『友人』の中で最も逢いたかったのはユミア、君だ。

 それは君が可愛い女の子だとか、下心が存在しているとか、そんな下らない理由じゃなくて。

 唯一の女友達としてただただ不安で、心配だった。

 もしも、君が俺と同じ状況に置かれていると想像した時……何だか胸の中に靄がかかった。

 俺なんかよりもずっとしっかりしていて、俺なんかよりもよっぽど剣の腕も立つ……それでもあの日、別れ際に見せたあの怯える様な眼差しが俺の脳裏に焼きついてしまっていたから。

 何度も何度もフラッシュバックした。あの時君の手を放してしまった事を何度も悔やんだ。そう、未だに……。

 だからこそ、最も逢いたかった相手なのに俺は素直に再会を喜ぶ事が出来ずにいた。


 ……君への後ろめたさがまだ胸の中で燻っているから……。


「……キミはまた───何であの時にユミアの手を放してしまったんだろう───なんて考えているのかな?」

「え……」

「……うん、やっぱりか……変わらないね……ホントキミって奴は……」


 胸の内を見透かされて思わず視線を逸らしてしまった。

 ユミア、君も変わらないね。相変わらず鋭い……って……え───ッ!?


「なっ……!!?」


 思わず驚きの声が漏れたのはユミアが勢いよく飛び込んで来たから。

 大きな翡翠色の瞳に溢れんばかりの涙を溜め込んで彼女は力強く俺の身体を抱き締める。

 驚愕した後、何だかとても懐かしい薫りに包まれながら俺の視界は揺らめいていく。突進に近いユミアの抱擁のせいで座っていた椅子がおもいっきりバランスを崩したからだ。

 ドンッと思いっきり後頭部を強打して遠退きそうになった意識を何とか保った俺はユミアにクレームを付けようとしたが……やめた。

 痛いくらい身体を締め付けながら胸の中で咽び泣く彼女の姿を見てしまったら……何も言える筈がないよ。


「……えぐっ……ガミキ……ガミキ……!ホントに……また逢えて良かった……えぐっ…………ふぅえ〜ん……!」

「…………うん。俺もだよ、ユミア」


 今はもう少しこのままでも構わないさ。

 驚愕・呆然とするハンター集団や、仰天しているヘンリーくんを初めとするギルド連中……、流石に今だけはシルメリアの顔を見る勇気が俺にはなかった……。


 ◆


「……一体!全体!どういう事なんすかガミキさん!!さあさあ、説明してもらいましょうかッ!!?」


 まるで犯罪者に向けられた尋問さながら鬼の形相と化したヘンリー氏が激しく机を叩いた。その目の前の椅子に座らされ縮こまる俺。周囲をギルドの受付&経理班に包囲されている。


「い、いや……その……」


 萎縮せざるを得ない。寄って集って弱い者を甚振る様に冷たい視線を浴びせられている。

 鬼気迫るとは良く言ったもので、まさに支部長代行殿は度重なる恨みつらみと醜い嫉妬心によって鬼へと成り果てていた。


「ユミアは……その……大切な『友人』だよ。ヘンリーくんと知り合うもっと前からの……」

「自分には友人というよりもごく親しい関係に見えたっすけど」

「いや、それは誤解さ!ヘンリーくん、君の勘違いだよ……って!君は何て冷たい目をしてるのさ!?まるで俺を塵屑でも見る様な瞳で……!!」

「敢えて否定はしないっす。気にしないで下さいね、ただの妬みっすから」


 俺の言葉を遮って彼は言い放つ。一切曇る事ない冷徹な瞳で。

 ……ま、まあ彼女とは友人である事に間違えはないし、それ以上でもそれ以下の関係でもない。

 たとえヘンリーくんが信じてくれようがくれまいが別に知ったこっちゃないのだが……問題は別のところに大きくあった。

 先程から一言も口を開いて下さらない『黒の姫君』は静かにこちらを見つめ、静観している。

 俺としてはやましい事をしたつもりはないのに何故だ……彼女の目を見れない!簡単に言えば恐いのさ、どう思われているのかが……。

 それ故、彼女の瞳がどんな感情いろを宿しているのかなんて恐ろし過ぎて想像も出来ない。いや、したくもない!

 この事態の元凶もととなった当の本人であるユミアは現在、酒場区画にて仲間内に事情を説明中。

 一緒になってやましい関係ではないと弁解してくれたら大いに助かるのだが、考え様によっては返ってそれが怪しくも思えてしまうケースに発展し兼ねない。

 ……等々、思いを巡らせながら、同時にこれ以上の釈明はむしろ首を絞めるのではないか?そんな不安に駆られ無言の型を取る俺。


「黙ってちゃ分からないっすよガミキさん!」


 相も変わらずと非情な形相で言葉を投げつけるヘンリー鬼人。この人、こういう時本当に嫌。


「違うなら違うでしっかりと訳を話して欲しいっす」

「い、いや、だから……」


 あまりのしつこさに面倒臭いを通り越して若干苛立ちが先行してきた。仲間でなければ抜刀している。


「なかなか口を割らないっすね。流石はガミキさん、しぶといっす……という事はかえって疑わしい訳で……やはり……本当に友人か怪しいっす……!!」


 そろそろ刀を抜いても良いのかしら?

 俺の意識が赤に染まりかけた頃、それを察したかの様に支部長代行は有るまじき行為に及ぶ。


「惚ければ惚けるだけ後悔する事になるっすよ───ねぇ、シルメリアさん?」


 ────ぎゃっ……ぎゃあああああああああああぁぁ!!!?


 な、何という蛮行を!?躊躇いなしに爆弾を投下してきやがった!!一番やって欲しくないくだりをいきなりぶち込むなんて……剰え彼女の心境の欠片さえ分からないこの状況に……!

 このタイミングでシルメリアにこの流れを振るなんて……ヘンリーくん、君は……君は……何て非情なまでに恐ろしい事を……!!!


 ヤ、ヤバイ……彼女の反応を知るのが恐い……。


 いきなり心臓を鷲掴みにされた様な恐怖と焦燥感に苛まれ、俺は震える。超振動で。

 気付けば大量の汗が下垂れ落ちる。勿論それを拭い去る余裕なんて微塵も存在しない。

 そんなある意味随分とおぞましい状態にある俺を他所に彼女はついに口を開いた───。


「いや、ユウキが友人と言うならばそうなのではないか?」


『───え』


 予期せぬ答えに周囲の反応が綺麗に重なった。勿論その周囲の中には俺も含まれる。


「ユウキが違うと言うなら違うのだろう。それとも何かヘンリー、ユウキが嘘を付いているとでも?」

「い、いや、そうじゃないっすけど……」

「ならば何が問題なのだ??」


 最早この状況云々なんてものは関係ないとばかりの表情───それはいつもと何ら変わらない彼女の表情かお。馬鹿正直に俺の事を信じてくれているシルメリアの表情だった。

 勿論、嘘なんてこれっぽっちも付いていないし、やましい気持ちもない。ユミアは俺にとって間違いなく大切な大切な『友人』なのだから。

 それにしてもシルメリアのあまりの動じなさを前に返ってヘンリー氏が戸惑いの表情を浮かべている。

 まあ少しだけ気持ちは分からなくもないけれどね。ただ、君の場合は表情に出過ぎさ。

 この人何でそこまでガミキさんを信じ切ってるんすか!?みたいな事を考えているであろうヘンリー氏、君の思考は手に取る様に分かり易い。


「という事でこの話はもう終わりさ」

「……ちょっ!?まだ終わってなんか……!」

「……で、ヘンリー氏。君の用事は何だい?俺もシルメリアも君に呼ばれてここに来た訳なのだけれど」


 ユミアの流れを切るにはここしかない!!


 冷静に真顔で俺は話をすり替える。この際、上手い下手の展開力云々は関係ない。強引さが肝心である。


「用がないなら帰るよ。こう見えてもこっちは色々とやる事があるのさ」

「……………………分かったっすよ……とりあえずこの一件は保留にするっす。あくまでも保留っすからね!!」

「ハイハイ」


 素っ気なく、やや冷ために、あくまでも冷静に、だ。

 断ち切るべしッ。



 ───だが、俺は忘れない。覚えてろよ、ヘンリー=ストライフ……!!

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