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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
銀の煌翼 編
63/84

第一話 中華飯店にすら『名声』は舞う

■□貿易都市フレデナント 定食屋 漢艦亭かんかんてい

【■■■】ユウキ=イシガミ


リムレア暦1255年 9月30日 12時02分


『───なあ、知ってるか?』


 不意に俺の耳は隣席で酒を酌み交わす男達の他愛もない世間話を捉えた。

 ここはドラグー王国エレナント州に属する貿易都市フレデナント。その中央部にある商業区から裏道に入った小さな定食屋、その名も漢艦亭。

 時刻は正午を回ってまだ間もなく、言わば稼ぎ時である時間に店内は来客で賑わっていた。

 ランチを食べにやって来る者、まだお天道さんが顔を出しているのに昼間から酒を飲む者と、誰もが顔馴染みの常連達だ。

 かく言う俺も実のところその一人で、昼食、夕食のどちらかはこの店に足を運んでいる。それは相棒であるシルメリアも例外ではなく、今日も俺達はさして広くもない定食屋内のカウンター席を定位置とばかりに陣取っていた。

 現在は注文を終え、品がやって来るのを待っているまさにその時だ。

 なあ、知ってるか?のくだりから始まった隣の世間話に思わず耳を傾けていた……。


「なあ、知ってるか?また《アナストリア》の【銀翼ぎんよく】が《アビリティ》の残党を捕まえたらしいぜ?」

「へえぇ。またかよ。ここ最近は【銀翼】の噂で持ち切りだからなぁ。また《アナストリア》の連中がでかい顔するぜ」

「ちげぇねぇ。元々小さいギルドじゃなかったが、ここにきて【銀翼】の活躍で周囲からの評判はうなぎ登りになってるってもんだ」

「そりゃ数ヶ月前いきなり《アナストリア》の門を叩いたと思ったらすぐにエースの座にまで上り詰めた魅惑の天才魔術士!インパクトは充分だろ?」

「だな!」

『あははははッ!』


 会話の内容を耳にし、俺は内心頷いていた。

 《アナストリア》、【銀翼】、《アビリティ》の残党……その羅列のどれもが近頃良く耳にするからである。

 そもそも俺が所属する《ヴェンガンサ》と《アナストリア》を比較するとギルドの規模こそあちらさんが上だが、実質社会への貢献度、知名度、ここ数年での成り上がり方を比較するならこちらの方が多少有名だ。

 いや、別に贔屓目なしでの話なんだけれど……少数スタートで実力派揃いの新参ギルドって何か響きがかっこいいでしょ?どうやら世間様も同じ様な感性をお持ちの様で《ヴェンガンサ》は異例の速さで規模を拡大している。

 実際、周囲のギルドも黒い噂を抱える《アビリティ》の取り締まりに手を焼いていたが、ウチが半壊滅させた事で事実上の盗賊団解体に成功した。

 ……まあ、俺が突っ走ったせいでそういう流れになってしまったのだが……。

 そうなれば、ここ貿易都市フレデナント支部の《ヴェンガンサ》の人気は不動のものとなる。

 更にそうなれば面白くないのが同じフレデナントに支部を置く《アナストリア》の面々。

 大人の都合って面倒臭いと思わせる程にあちらさんは何かにつけてこちらに絡んでくるし。競い合っていると言うよりは目の敵にされている感じが否めない。

 元々《アナストリア》にはガラの宜しくない連中が集まっていたのでフレデナント支部の業績は更なる下降の道を辿る事となる……のだが……、そんな時噂の【銀翼】が彗星の如く現れた。

 ドラグー王国三賢者の一人と謳われる【百種の大魔道】ラウル=ミルサンダーと同じ姓を持つ彼女はそれに恥じない魔術の使い手。実際、賢者との関係性は特にないらしいのだが、彼女には人を惹き付ける魅力があった。

 その類稀なる魔術の才を駆使して数ヶ月の間にいくつものトラブルを解決していき、一躍フレデナントで時の人となる。

 勿論理由はまだ別にある。むしろ人気の理由の大部分を占めているのはその容姿らしい。

 人当たり良し、スタイル抜群、おまけに長く伸びたプラチナの髪が目を惹く才色美人との事。俺は実際に見た事ないから噂を鵜呑みにするしかないが。

 ただ、彼女の魅力はそれだけではないみたいで。彼女が戦闘で魔法を扱う際、主に用いる合成魔術があるという。それは<シルバー・レイ>と呼ばれ、光と風の魔力を合わせた中に更に雷の属性をぶつけ合って生み出す合成魔術の中でも高度な技術を用いて生み出す光の翼。

 攻撃魔術というよりは補助魔術に近いが、その翼で彼女は重力から解き放たれるのだという。その際に反発し合う属性が溢れ落とす魔力粒子が銀色に輝いて見える事から【銀翼】の二つ名が付いたのだ。

 そんなこんなで【銀翼】ミルサンダーは俺ですら知る存在となった。そんな有名人なら一度はお目にかかりたいものである。

 俺がそんな事を考えていると威勢の良い声と共にカウンター越しに伸びた手が勢いよく目の前に料理を運んだ。


「ハイヨー!お待ちどうさんネー!」


 少しばかり語尾に癖のある漢艦亭の主人ホイファンだ。次にシルメリアの前にも同じ料理が運ばれる。二人揃って食べるのは特製海鮮炒飯。どこにでもある様な炒飯と思ったら痛い目をみるこの店の名物。並々と盛られた米から顔を出すふんだんに盛り込まれた海の幸の香りが湯気に紛れて強制的に鼻腔を刺激し食欲をそそらせる。ホイファンの技術の粋が詰め込まれたまさに逸品。


「ユウキユウキ!早く食べよう!」

「そうだね」


 隣で緋色の瞳を輝かせながら下垂れ落ちるよだれを気にも止めずに急かす魔族の少女に促されて俺もスプーンを手に取る。


『いただきます!』


 二人揃って手を合わせ、お行儀良い掛け声で口火を切って会食!ここより先は戦場だ。食の戦場だ!

 口内で暴れ狂うゼーレ海の幸が奏でるハーモニー……もとい、行進曲さながらの激しい味の旋律が俺に襲い来る。それを制して胃袋に収める戦い。


「旨しッ」


 一口目で俺は堪らず無意識に声を発した。

 そんな俺を目にしてホイファンは若干呆れつつも満足気な表情を浮かべている。


「それにしても貴方よく飽きないネー、来る日も来る日も同じ物ばかり食べて……まあ隣のお嬢ちゃんにも言える事だけど」


 続けて俺の隣で炒飯を貪り食べる少女に視線を移したホイファンが呟くが、そんな彼に向かって当の本人は……、


「ホイファン……旨しッ」


 親指を突き立て同じ様な感想を述べているのを見て少し笑えた。

 どうやらそれはホイファンも同様だったみたいで、呆れ顔を隠そうともせず口元だけは緩んでいた。



「それにしても最近はどこもかしこも【銀翼】の話題で持ち切りネー。おかげで《アナストリア》には依頼が殺到しているみたいだけど、逆に貴方のとこは大丈夫なのヨー?」

「ウチ?……うーん、どうだろうね……まあ大丈夫なんじゃないの?支部長代行のヘンリーくんは頭抱えてるみたいだけど、俺的にはあちらさんが繁盛してるみたいだから些細な嫌がらせやちょっかいがなくなって清々してるけどさ…………まあ直接ちょっかい出された時は問答無用で魔術をぶっ放つシルメリアさんを止める方が大変なんだけど……ね」

「貴方も貴方なりに苦労してる訳ネー……」


 カウンターを隔てて調理中のホイファンと世間話に華を添えていると不意にシルメリアの隣の席に座った人物に目がいった。頭をすっぽりと覆い隠す様な布地のフードに身体を包み込むケープ。何時ぞやのシルメリアを思い起こさせる様な出で立ちだったので。


「おやじぃ、あたいにもこの子らが食べてるのと同じ物を一つ」

「ハイヨー」


 徐ろに隣のシルメリアががっついている海鮮炒飯を一瞥すると迷わずにそれを注文する。この子らって俺達の事だよな?


「お嬢ちゃんそんなにそいつが美味いのかい?」

「ん?誰だ主は……?まあどなたか知らないが……ああ、旨しッだ」


 何の気なしに声を掛けられたシルメリアは先程と打って変わらず親指を突き立てながら返している。

 その姿に一瞬唖然とした様子の人物はすぐに口元をにんまりと歪ませ……、


「そいつは楽しみだ。にしししッ」


 少しばかり特徴のある笑い方だが、口調とは裏腹に案外可愛らしい声をしている。

 そんな事を考えながらぽかーんと成り行きを傍観している俺にその女性が視線を合わせる。


「何だい?あたいに見惚れちまったのかい?ぼやぼやしてると彼女を待たせる事になっちまうよ」

「……え?」


 言われてシルメリアに目をやると既に炒飯を完食しつつある。俺はまだ半分も食べてないのに!早しッ!

 慌てて俺はペースを上げる。喉を通して身体に染み渡る潮の香りを堪能しつつ。


「にしししッ」


 そんなこちらの光景を見てその女性は面白そうに笑っていた。透き通る様な白い肌に天色あまいろの瞳が印象的な美人のおねいさんだが、子供の様な無邪気な笑い方をする人だなぁ……なんて事を考えつつ、俺追いつこうと必死に食べる。そして俺やがて完食。満腹にてごっさんでした。

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