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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
銀の煌翼 編
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プロローグ① 少年を巡る『修羅場』から物語は過去へと遡る

■□ハルバロ山

 ハンターギルド《ヴェンガンサ》一行


リムレア暦1255年 11月11日 21時13分


「───ちょっと待ってよ!ガミキってば……ッ!!」


 背後から聞こえたその声に少年は思わず、ビクッと肩を竦めた。

 恐る恐る振り返るとそこには頬を膨らませてしかめっ面を浮かべた白銀の軽鎧ライトメイルを纏う金髪おさげの少女。

 せっかくの可憐な顔立ちも今は鬼の形相と呼べる一歩手前。自慢の翡翠色の瞳が苛立ちに染まり慨嘆しているのに気付かない筈がなかった。


「お、お疲れさまユミア……ははっ……」


 腫れぼったい目蓋以外これといって特に風貌的特徴のない黒髪の少年は黒の瞳を泳がせながら得意の苦笑いを浮かべた。

 そんな少年の様子を見て更に腹を立てながらズンズンと足を鳴らして少女は歩み寄る。


「まったくもう!キミはいつだってそうだよ!そうやって大事な時になるとはぐらかそうとするんだから!」

「ちょ……ちょっとユミアさん落ち着いて……みんなもいるんだしさ……」

「ほら!またそうやって誤魔化して!」


 迫られる少年は大いに困惑気味だ。

 理由は3つあった。

 まずは1つ目は今迄の付き合いの中では見せた事がないと言ってよい程少女は憤っている。

 ただ、その苛立ちをそのまま映し出す様な表情の中にも可憐さは際立っており、こんな状況ながらも少年は彼女が美少女であると改めて認識した。


「ねぇちょっとあたしの話ちゃんと訊いてるの!?」


 もう1つは簡単な理由だ。

 そんな彼女が腰に手を当ててこちらを睨む様にして自分の顔を覗き込んでいる。

 その距離およそ数十センチメートル。少し顔を動かせば容易に唇を奪えてしまいそうな距離に前述の可憐な顔があるのだ。

 無理もない、未だ女の子耐性に乏しい彼からしてみたらノンチャージからのノーモーションで繰り出された正拳突きを眼前で寸止めされている気分なのだから。

 彼女の瞳に映し出された自分の表情は情けない程に蛇に睨まれた蛙と化していた。


「……そう……やっぱ迷惑……だよね、キミにしてみれば……ごめん……」


 途端に少女の表情が曇った。いや、曇ったというよりも沈んでいく。雨雲が空を覆う様にどこまでも。

 理由その3。少年は返す言葉が紡ぎ出せないでいた。

 それは適切な言葉が見付からないのではなく、少女に応える事が出来ないからだ。

 本当に大切な数少ない友人の一人である彼女の期待に応えられない後ろめたさとその『理由わけ』に少年は人知れず堪えながら、せめてもの掛ける言葉を詮索した。


「迷惑だなんて……そんな事はないさ。ただ、俺にも『ここ』を離れられない理由があるんだ」

「……それが分からない訳じゃないよ、ただ…………ただ、せっかくまた逢えたのにすぐに離れ離れになっちゃうなんて……悲しすぎるよ……」


 不意に少女の瞳から一筋の雨。

 今迄の付き合いの中で二回目の涙。

 虚を突かれ、想像を遥か上回る光景を前に少年は困惑を超えて焦燥した。もはや自分のスペックでは身に余る事態に。

 俺は一体どうしたら良いんだ……。

 困り果てた少年は天を仰ぐ。その瞳に映るのは皓々と世界を照らす月でも煌びやかな星群でもなく、想いを寄せる女性の姿……。


「はぁ……」


 悟られない様に少年は嘆息するが、それも束の間、事態は新たな展開を迎える。


「───そろそろユウキを解放してやってはどうだ?」


 気付けばその声の主は少年の背後に佇んでいた。

 思わずビクッと肩を竦める。突然の介入に驚いたのもそうだがその声には若干の苛立ちが混じっていたからだ。

 声の主は背中まで伸びた黒髪をポニーで纏めた少女。金髪の少女に勝るとも劣らない凛とした美麗な顔立ちをしている。

 今まさに天空に浮かべた想いを寄せる女性その人は紫黒を基調としたチュニックにスカート、胸鎧装ブレストプレートを身に付けており、両腕を胸の前で組みながら緋色の瞳で金髪の少女を見据えていた。


「ユミアとか言ったかな?君はユウキの友人、なんだろう?」

「またあんたか……だったら何よ……?」

「いや、まるで恋人みたいな物言いをしているのでな。おかげでユウキが困っている」

「───な、な、な……!!?」


 少し棘のある言葉に即座に反応した金髪の少女は頬を赤め動揺しながらもキッとした眼差しで睨み返す。

 対する黒髪の少女は到って冷静に表情一つ変えない。


「ち、ちょっとシルメリア……!?ユミアもちょっと待ってよ……」


 鈍感な少年であれどその身に感じた。一瞬にして変わった空気を。

 険悪なそれが辺り一面を支配したのを察し、制止を試みるが生憎彼の言葉は二人の少女に届かない。


「こっちだってずっと思ってた事があるんだからね……あんたこそ一体ガミキとどういう関係なの!?」

「仲間だ。この答えでは不服か?」

「仲間って……どうせ同じギルドに所属してるとかでしょ?それならあんたの他にも沢山……」

「ユウキとは私がギルドに所属する以前から二人で行動を共にしていたが、な」

「なッ……!?」


 ここで初めて黒髪少女が少しだけ勝ち誇った様な表情へと変わる。

 相対する金髪少女も拘泥する精神を何とか宥め、負けじと反論する。


「あたしはね、あんたがガミキと出逢う前から一緒にいるんだからね!」

「別に大切なのは時間ではないだろう少女よ。それに何をムキになっているのだ?」

「あんたがそうさせてるんでしょうが!!」


 ヒートアップしていく事態に少年は困惑する。

 これは所謂修羅場というやつだ。このままいけば更に恐ろしい事態にまで発展しかねないと。

 最悪の状況を回避すべく黒と金の間に割って入る。


「ま、まあまあ……二人共落ち着いて……」

「君は黙っていてくれ!」「キミは黙っててよ!」


 ほぼ同時に放たれた言葉に少年は静かに息を呑む。


「…………ハイ」


 入る隙間もなく弾き出された少年は消え入りそうな声で答えた。

 一体全体何故こんな事になってしまったのだろう……。

 力なく見渡した周囲からはギルドの仲間達と金髪少女の仲間達の冷たい視線が一斉に降り注いでいた。

 はぁ……と、少年は溜息一つ。

 そしてもう一度天を仰いで夜空に語る様にして呟いた。



「───本当に……なんでこんな事になったんだろうなぁ……………………」

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