接続章 黒の姫君 ⇒
■【■■□■■】シルメリア=ビリーゼ
少女は静かに語り始めた。
魔女から少女に至る『物語』を───。
彼女は生まれながらにして孤独だった。
それは物理的にという意味合いでなく、他人と分かり合える事がどうしても出来なかったから。
かつて『人』による争いが絶えなく続く<混沌の大陸ゾルダック>から新たな故郷を求めて西方の<デルバレー大陸>へと渡った部族がいた。
【邪王】ミルスリードが率いる《紅邪》と呼ばれた魔族の部族は大陸の北方に聳えるヘブリ山近郊を根城とし、やがては土地を開拓し、町を興した。
それは国と呼べる程の規模ではなかったが、部族が住まうには充分過ぎるものであった。
ヴィルマラフと名付けられた自分達だけの町に誰もが願い、望んだ。未来永劫に続く一族の繁栄の礎となるであろうと───。
だが、度重なる試練が《紅邪》を襲う。
食糧難による内部分裂が進み、一部の者が徒党を組んで人間の国を襲撃。周辺諸国から忌み嫌われ、貿易や交流は絶望的に。
いつしか《紅邪》は大陸の北に蔓延る厄災と侮蔑され、《北の魔族》と呼ばれる様になった。
更には【邪王】による大陸南方の神族《神人の民》への戦線布告をきっかけに《紅邪》は完全に分裂。長であるミルスリードの横暴に不満を爆発させた者達がヴィルマラフを出奔。
南方の《神人の民》の迎撃にすら耐える事も難しくなった《紅邪》を更なる悲劇が襲う。
───【異形の怪物】の襲来。
圧倒的な戦闘力を持った怪物との交戦でミルスリードはその命を散らした。
大きな犠牲を払った後世<閃光の戦い>は【異形の怪物】を『封印』という形で幕を下ろす。
その戦いに於いて《北の魔族》の中核を担った【白鴉の騎士】ゾラーハがヴィルマラフを立て直すべく《紅邪》の長の座に就き、同時にミルスリードの娘ミアリスを娶る。
やがてバラバラだった《紅邪》を統率した彼は建国を宣言。
魔族に於ける魔族の為の独立国家ベルゼフが誕生する。
ゾラーハはその国の初代国王に就任し、近隣諸国との和平を望み、《神人の民》に停戦を持ち掛けたのである。
それから数年後、彼女はこの世界に生を受ける。
独立国家ベルゼフ第一王女シルフィーナ。
王女の生誕に民は大いに湧いたが、それも束の間、彼女が生を宿して少女に至るまでの間であった。
【邪王】の直系として生まれながらに宿した魔力を抑え切れずに自らを喰らっていく。
ある日を境に成長も止まり、少女は少女のまま時間が止まった。
強大過ぎるその魔力を民は恐れ、遠ざけ、畏怖の念込めて彼女をこう呼んだ───
【冥府の魔女】、と。
そして《神人の民》によるゾラーハ奇襲により勃発した<神魔戦争>時に於いて母ミアリスを看取った直後、彼女は忽然と姿を消した……。
抑え切れぬ魔力の暴走を恐れて、ただ独り、孤独に、孤独に……誰にも頼る事が出来ず、打ち明ける事さえも出来ずに……。
───そして、魔女は故郷を捨て、少女となった…………。




