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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
黒の姫君 編
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第三十九話 窮地の少年を救うかけがえのない『仲間』の存在

 咆哮を口火に俺は再度無謀な戦いに臨んだ。

 人数的ハンデはあまりにも大きい。とても覆せるものではない。それは分かっていた。

 一斉に襲い掛かって来る近接型を一人一人薙ぎ倒し、死角からの矢を大いに警戒しながら俺は猛る。

 その最中、再三放たれた魔術を俺の中の『何か』が取り込んでは相棒の刃を金色へと変えた。おかげで魔術に対しては無傷だったのだが、個々のスペックでは決して劣ってなどいないとは言え、やはり大群相手だと体力の消耗が何よりの難点だった……。




「……はぁ……はぁ……」


 息が切れ始めた呼吸を何とか整え様とする。体力ってのは有限なんだと改めて実感する。

 賊の斬り込み隊長であるブリードを倒したとは言え、手練れがまだ残っている。

 流石に魔術は効かないと判断した連中は接近戦で俺を取り囲んでいく。強引な突破が出来ない訳ではないけれど、弓射手アーチャーがいる中でそれは大きく隙をつくる危険行為だ。

 気付けば【緋天棗月ひてんそうげつ】を包み込んでいた金色は輝きを弱めていた。所謂ガス欠ってやつですか?

 まあいいや、今はそんな事気にしている余裕なんて───くッ……!!?

 背中に激痛を覚え、一瞬の油断に背後を突かれた事に気付く。傷の深さまでは確認出来ないが、痛さからしてあまり浅くはなさそうだ。

 そしてここぞとばかりに目の色を変えた連中がまとめて襲い掛かって来る。

 額の冷や汗を拭う余裕もなく、……ヤバイ……!そう思った時、事態に『異変』が訪れた。


『ぐああぁぁッ……!?』

『ぐふっ……!!』


 ───どぼぉぉおおん!


 叫び声に反応した俺は小さな滝に盗賊が二名真っ逆さまに落ちていく様を捉えた。それは俺を取り囲む連中も同じ。何事かと揃いも揃って目をやる。

 おそらく落下したのは弓射手。滝の上から俺を狙っていた奴らだろう。先程受けた攻撃の角度からしてほぼ間違いない筈だ。

 ただ、問題はその弓射手が先程まで潜んでいた場所───そこには静かなる殺意を纏った人影。そしてその手には長丈の刀。シルエットからして女性のようにも見て取れなくないが、世界はまだ薄ら闇に紛れており、確かな情報を得る事は出来ない。


「だ、誰だあいつは……!?」

「何だッどうなってんだ!!?」


 そう口々に混乱し始めた連中の様子からして《アビリティ》の者ではなさそうだ。

 まさか《銀栄騎士団シルバリアナイツ》の人間か!?

 そうなれば、先程俺が倒した奴もいる可能性が高い。マズイな……奴には顔が割れている。下手したら盗賊達よりも悲惨な扱いを受ける可能性が……。

 ある意味事態は混乱を極めた。俺の次に現れた新たなる来訪者に味方をやられた連中と騎士団の影に怯える俺。

 だが、そんな俺を含む地上の人間を尻目に滝上の女性と思しき人影は指で輪っかを作り、指笛を吹き鳴らした。


 ピィィィィィィ……!!


 朝が目を覚ましかけた薄ら闇の山にその指笛は響き渡る。

 これは……何の合図だ……!?

 突然の来訪者、謎の合図……予想外の事態に俺は考えられる可能性を絞り出す。そしてその場合の対処法は……、


『……ようやく見付けたっす……!』


 動揺をひた隠しながら脳内をフル活動させていた俺の耳にその声は聞こえた。

 一斉にその方向へと《アビリティ》の連中は向き直る。無論俺も例外ではない。

 すると造林地帯から真っ先に姿を現した人影。その後方に武装した幾人もの男達。


「おまえ達が《アビリティ》っすか……?よくも……よくもまあ寄って集って《ヴェンガンサ(ウチ)》の人間を甚振ってくれたっすね……!!」


 妙に甲高い声の主は抑え切れぬ怒りをどうにか抑えつけたまま、盗賊達を睨みつける。その眼は殺意に充ち満ちていた。


「……あ……あ…………な、何で……!?」


 思わず声を上げてしまったのは俺の方だった。当然先頭に立つ声の主が誰なのか分からない訳はない。ただ、彼がこの場所にいる事に対する単純な驚き。

 だって彼は……。


「いやぁガミキさん。単独での先行潜入任務ご苦労様っす!まさか本当に無茶して一人で突っ込んでくとは思わなかったっすけど。こっちとしては本当に『まさか』っすよ……まぁ後は自分達に任せて欲しいっす!」


 わざとらしいくらいに周囲に響き渡る声で彼は言った。得意の皮肉とウインクを交えて。


「でもまぁ、ガミキさんのおかげでこいつらのアジトが割れたっす!ぶっちゃけ、さっき上がった花火でここが特定出来た様なもんすけど、まぁお疲れ様っす!後はゆっくり休んでて欲しいっす……よぉぉぉし!みんな覚悟は良いっすか?盗賊共を残らず捕まえろぉッ!!」

『おおおおおおぉッ……!!』


 ハンターギルド《ヴェンガンサ》フレデナント支部長代行ヘンリー=ストライフの掛け声に続き後方のハンター達が鬨の声を上げて皆各々に駆け出す。その手に武器を持ち、《アビリティ》の盗賊達に向けて。

 一瞬にして辺りは戦場と化した。しかしながら混沌は訪れていない。襲撃を受けた側の《アビリティ》は事態分からぬまま焦燥しきっていて《ヴェンガンサ》の勢いを止めれる筈もない。

 数はほぼ互角。だが、ヘンリーくん率いるフレデナントのハンターは俺の想像を上回る強者揃いだった。忽ち盗賊達は鎮圧されていく。《ヴェンガンサ》の気迫に戦意を失う者が多々現れ始め、制圧は時間の問題だろう。

 それよりも俺は……。


「ヘンリーくん……どうして……」


 戦局を見守るヘンリーくんの下へ歩み寄る。そんな俺に向ける彼の視線は普段の陽気なそれではないとすぐに感じ取った。当然か。俺は彼を……ギルドを裏切ったからここにいる。


「どうして……って、それはどういう意味っすか?」

「だって……俺は……」


 後ろめたさが胸の真ん中でどんどん大きく広がって彼の瞳すらまともに視る事が出来ない俺は口籠り、逡巡した。


「ガミキさん。ハッキリ言って俺怒ってるっす」

「うん……当然だと思う……」


 憎めない彼の口振りの中に静かな怒りを感じる。無理もない。仲間だと思っていてくれた彼の気持ちを踏み躙る様な行為を俺はした。

 黒い噂が絶えない《アビリティ》に関するこの一件にギルドの仲間を巻き込んで迷惑をかけたくなかったなんてそんな言い訳は彼に通用しないだろう。逆の立場なら俺でも怒る。現に先程シルメリアに偉そうに言ったじゃないか、『仲間』ならと。その『仲間』とやらを一番蔑ろにしていたのは俺だ。本来ならシルメリアに言う資格すらなかったのに……。


「本当にごめん……本当に……」


 これ以上言葉は出ない。俺を温かく迎え入れてくれたギルドに対する裏切り行為は謝罪の言葉だけで済むなんて思っていないけれど……、


「ハイ……分かったっす。もう許すっす」

「……………………は?」


 あまりにもあっけらかんと返って来た言葉に頭を下げていた俺は拍子抜けして思わず間抜けな声を洩らした。

 顔を上げた俺の目には普段と変わらないヘンリーくんがやれやれと言った様子を浮かべていた。


「……あの、ヘンリーくん……」

「許すと言ってもこれは特別っすからね!?次はないっすよ!次は!!」

「うん…………ありがとう」

「仲間なら……もっと信頼して欲しかったっす……こう見えても俺は結構落ち込んでるっすからね!」


 ……分かるよ。俺が言うのは勝手かもしれないけれど、その気持ちは良く分かる。話されないって辛いよね、本当にごめん……。


「ごめん……」


 俺はもう一度謝罪の言葉と共に深く頭を下げる。それが今出来る精一杯の誠心誠意の行動だと。


「ガミキさん、顔上げてほしいっす。本当にもう良いっすから。それにホラ、これ」

「これは……」


 徐に彼が胸ポケットから取り出したのは一枚のカード。所属ナンバーとランクを示す『A』が刻まれ、少しだけ間抜けな顔をした俺の写真入りのハンターカード。俺が《ヴェンガンサ》所属のハンターを意味する証。


「一応それは大切な物なんすから大事に持っておいて下さいよ?まぁ失くしてもまた再発行すれば良いだけの話っすけど。俺らの絆ってのはそんなカード一枚で繋がってる訳じゃないっすからね、へへっ」


 無邪気にはにかんだヘンリーくんを見て思わず胸の奥が熱くなった。


「……あのさヘンリーくん。君には感謝の気持ちで一杯なんだけども同時に疑問があるのさ」

「え?何すか疑問とは?」

「単純な話さ。何でここにいるの?」

「な、何でって!?それはガミキさんが危ない目に合ってるかと思って……!ていうか今までの一連の流れで察して欲しいっす!鈍感っす!鈍鈍感っす!むしろ空気読めなさ過ぎっす!!」

「な、何もそこまで言わなくてたって……」

「それにあなたは自分の性質を未だ理解し切っていないみたいっすね!?ガミキさん程トラブルに愛されている人間はなかなかいないんすよ!」

「うッ……」


 それを言われると反論のしようがないな……。


「でも何故俺がここに来ると……?」

「ガミキさんの考えそうな事っすから、ええ。でもまぁ念には念を入れて情報を買ったっす」


 情報ヲ買ッタッス……?


 ───シバかッ!!


 あの強欲情報屋め、大金を積まれてあっさり俺の情報を売ったって事か!?少しは俺の気持ちを察する優しさを培った方が良いんでないのか!?


「血相変えたウェルターくんが出張先に乗り込んで来てから現在いまに至るまで相当慌ただしかったんすからね?あの情報屋に足元見られて大金支払って、すぐに集められるだけのハンターを召集してと……なかなかハードフルな一日だったっす……おかげで主張先の取引やら何やらが色々と面倒な事になって……あーだこーだと……」


 頬に涙を煌めかせながら語る彼を見て迷惑をかけた当の本人である俺が言うのもなんだが……ご苦労さん。本当はシルメリアのバイトの件を黙ってさえいなければここまでの事態になる事はなかった、なんて少しだけ言いたい衝動に駆られたが、まぁ良しとしよう。

 気付けば、盗賊達はあらかた鎮圧され《ヴェンガンサ》の面々によって拘束されていた。このまま彼等の身柄を警察へと引き渡せば《アビリティ》にとって大打撃は免れない筈だ。

 一通り賊に目を配るがやはりその中にエミリオさんの姿は見えない。一体どこに……。

 俺がそんな事を考えていたまさにその時だった……、


 ……どごぉぉぉおおおんッ……!!!


 薄明るい空を閃光が瞬いたと思った刹那、今いるこの場所にも響き渡る程の爆発音が遠く離れた山の奥で鳴った。


「な、何事っすか!!?」


 ヘンリーくんを筆頭にこの場にいる誰もが騒然とする。ただ一人俺を除いて。

 無意識にこの身体は駆け出していた。騒然とする周囲を気にも止めず、爆発音が轟いたその方角へと。


「ちょっ……ガミキさん!どこに行くんすかッ!?」


 背中に聴こえたヘンリーくんの声を振り切る様な形で俺は疾走する。背中や左腕の痛みも忘れ、ただがむしゃらに。



 シルメリア……どうか……どうか、無事でいてくれよ……!!

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