間章 死の淵に漂いし少年を誘う『深淵』なる闇の手招き
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【■■■】ユウキ=イシガミ
…………ここは…………どこだ…………?
真っ暗闇の中で俺は奇妙な感覚に陥っていた。
バタバタと手足を動かしてみても何も変わらない。正確には手足はない。ただの意識的な感覚でという話だ。
手足もなければ身体もない。
今現在俺が捉えている闇は視界から通して脳が映し出す映像ではなく、ただの感覚だ。
不思議な事に思考は働いているのだが、実体がない。
勿論傷付いた身体もない訳だから痛みもない。
だからこれを奇妙な感覚と言わずして何と言おう。
初めての経験だから俺が知らないだけでこれはつまり……死んだって事なのかもしれないな。
随分と冷静に今置かれている状況を考察しながら俺は闇に漂う。
実際死ぬ時は今までの想い出が走馬灯の様に頭の中を駆け巡ったりするのかとばかり思っていたが違うみたいだ。
或いは肉体から魂が分離して抜け殻になった死せる自分を宙から眺めたり……なんて言うのは迷信だったな!おかげで確信が持てました。来世になったらみんなに教えてあげよう!俺は知ってるぜ!的な?
……なんて冗談も考えられるくらい俺は何ともなかった。
ただ、問題が一つ……俺はこれからどうしたら良いのだろうか?
辺り一面見渡せど闇───。
闇、闇、闇!闇以外ここには何もないのだから。
これが死って事なのか?
転生を迎えるまでこの永遠の様な時間の中を思考のみで過ごさなければならないなら…………なら…………、
───それは何て恐ろしい事なんだろう。
考えただけで恐ろしい……。
記憶は薄れる事なく鮮明に刻まれている。今まで出逢ったみんなの事、その想い出を。
感傷に浸ったところで俺は何も出来ない。ただ、考えるだけ。だって俺はもう既にみんなと同じ世界にはいないのだから。
恐ろしい、恐ろしい……!
こんな時間が一体いつまで続く?
さっきは転生するまでとか思っていたけれど、その時はいつだ!?そもそも本当に転生なんてするのか?それは人が創り出したただの与太話なんじゃないのか!?
という事は俺は一生このまま……?
助けを求めて何度叫ぼうが、孤独に耐え切れず意識が壊れようが、みんなの事が思い出せなくなろうが……闇に撒かれてしまうまで、ずっと………………?
……嫌だ……嫌だ……!それは嫌だッ!
誰か助けて!ここは嫌だ!!誰かぁッ!!
……嫌だ……嫌だ……嫌だ…………恐い……恐い……恐い…………。
……どれだけ時間が経ったのかも分からない。そもそも時間なんて概念ここにはないのかもしれない。
考えたって始まらない……終わりすらないのだろうし……。
何だろう……全てが闇に包まれている筈なのに温かくなってきた。
体温なんて概念はないのに……そもそも温かいとか冷たいとか感じる身体が存在しないのに何か感じるとすれば俺の意識の問題だ。
意識の奥底から何か懐かしい温もりを感じる。
錯覚であっても良い。このまま何もないよりは。
多少の『変化』が今は随分救われた気になる。『無』は余りにも辛すぎるから……。
それにしても……温かいな……これは一体な……ん………………だよ……。
温かい感覚がある筈もない全身に広がっていく様で……俺はその温もりに流せる筈のない涙を流す。
温かい……それでいてとても懐かしい……この温もりは誰だ……姉ちゃん……?
…………いや、違う…………。
──────!!?
……こ……これは…………!!?
そして意識は吸い込まれる様に消え入る。この深淵なる闇から……。
閉じる目蓋もない筈の俺の視界を光が切り裂く様に、眩く、温かく…………。




