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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
黒の姫君 編
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第三十一話 逃走する少年の『命運』を分かつ『言葉』

 ───バタンッ……!


 乱暴に屋敷の扉を叩いて俺は外へと駆け出す。

 左手に小さな滝、右手に天幕、その前方には焚火台とそれを取り囲む様にして数人の盗賊。今しがた屋敷の外に勢いよく飛び出した俺に驚いた視線を向けている。

 当然何が起こっているかなんて瞬時に理解出来る訳もなく男達はただ呆然と見送る。速度を緩めず疾走する俺の姿を。

 逃走ルートはただ一つ。

 このまま一直線に平地を駆け抜け造林地帯に入り、隠してある【緋天棗月ひてんそうげつ】を確保して姿をくらます。

 余程の事がなければ何とか山を下れる筈。

 俺は大地を蹴るその足を片時も緩める事なく盗賊団の野営地のど真ん中を駆ける。


「侵入者だっ!!捕まえろっ!!」


 僅かな時間を経て後方───屋敷の前からブリードの声が周囲に響き渡る。

 思ったよりも早いな……。

 幹部の声に応えて盗賊達は慌てて駆け出す。俺に向けて。中には天幕で就寝する他の盗賊達を起こそうと声をかけている者もいるが、生憎とそんな時間は与えるつもりはないさ。

 そんな連中を横目で追いながらも速度を落とさず疾走する。持久走は苦手だが、こっちにはリードがある。ましてや先刻まで酒を飲んでいた者、寝ぼけていた者に追い付かれなどしない。

 逃走を制止させようとする言葉や罵声罵倒を背中で断ちながら思惑通り俺は平地から草木が生い茂る造林地帯───正確には奴等盗賊団に占領されるまで様々な果実を栽培していたかつての造林地帯に足を踏み入れる。

 そしてそのすぐの場所、草むらの中に無造作に隠して置いた相棒を忘れずに確保する。

 予め逃走ルートを考えておいて良かった。まさかこんなに上手くいくとは……おっと、集中を切らすにはまだ早いか。それは本当に追っ手を煙に巻いてから……。


『───お前が逃げればババアがどうなるか分かってんだろうなぁ!!?』


 後方から一際響いた声が無意識に俺の耳に届く。

 エミリオさんか……。

 だけど振り返りもせず、足を止める気もない。

 ただ、それでもエミリオさんは続ける。


『俺達から逃げれると思うなよ!?』


 いや、逃げますよ俺は。

 現に逃げていますし、逃げ切れると踏んでいますよ。この距離なら。


『どんな手を使ってでもお前を見付け出すッ!』


 ……はぁ……。

 有りがちな台詞回しご苦労様。生憎だけど、ギルドとも縁を切ってしまったし、シルメリアがいないこの地に留まる理由はありませんよ、ガミキさんには。明日には王都に高飛びですわ。


『俺の邪魔をする奴は誰であろうと消す!!』


 …………いい加減しつこいな。別にもう邪魔はしないって。後は好きにやってよ。俺はもう関係ないさ……。


『それがたとえババアであろうと誰だろうとなぁ───ッ!!』



 ……………………まったく。


 何なんだよこいつは………………嗚呼、本当むしゃくしゃするな……!!



 気付けば俺の足は止まっていた。

 この状況でそれがどんな意味を持つ事くらい分かっているつもりだ。ああそうさ、やばいんだろう?ほら、追っ手はすぐ背後まで迫っている。

 あのまま足を止めなければ振り切れていた筈だ。筈だけれど……ただ、そうじゃないんだ……!


「……!?あの野郎向き直ったぜ!?」

「構う事はねぇやっちまえ!」


 今来た方角に身体を向けると俺を追って来た盗賊達の先頭集団がこちらの行動に怪訝しながらも突っ込んで来る、様々に得物をその手に握り締め。


「……すぅ……はぁぁぁぁぁ…………!」


 軽く息を吸って深く吐き出す。

 幼い頃から何度も何度も何か行動をする前にはこの呼吸法を繰り返していた。

 稽古の時、姉ちゃんがいつもやっていたから真似ただけだけれど、確かに落ち着く。少しばかりかもしれないが冷静になれる。

 だから今日に至るまで続けている。

 稽古が始まる前に正座をして神経を研ぎ澄ませる時、素振りをする前、狙いを定めて抜刀するその前。

 身を低く屈め、重心は真下……大地に深く根を下ろす様に。

 全ては最初の一歩に始まり、一閃で終わる。

 抜刀の瞬間は舞い落ちる羽根の様に軽やかに、力を込めるのはほんの一瞬で良い。

 相手に刃が届くその瞬間だけ……!


 ───シャキンッ……!


 俺の一撃は一番手前まで迫った盗賊を容赦なく切り裂く。

 こちらの反撃を半ば予期していなかった先頭集団の数人は間抜けに驚きの表情を浮かべ身体を強張らせたが、次の瞬間地を舐める事となる。俺は既にそいつらに向けて抜刀していたのだから。

 バタバタと音を立て地に崩れる盗賊以下数名。

 静かな怒りが腹の奥の方からふつふつと込み上げてくる。こんな感覚この前もあった気がするけれど、まあ良いか。

 それよりもさ……何だよ、何なんだよ一体……!俺より年上のくせしてガキみたいにさぁ……!!

 静かに怒りを纏いながら俺は今しがた逃走の経路を辿った平地へと歩みを進める。足下に転がる盗賊達は死んではいないだろうけれど、動きはしない。それは第二陣の集団も同じだった。追っていた相手がむしろこちらに向かって来るのだ。見るからに困惑した表情を浮かべている。

 対処分からず固まる盗賊達との間合いを静かに詰める。焦る事なく静かにゆっくりと、ただ確実な速度で。


「……さっきからあんた家族を何だと思ってるのさ…………だったらさ、こんな盗賊団……俺が潰してやるよ……ッ!!」

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