第二十八話 『予期せぬ事態』も少年は迅速に行動する
<白宝月>が照らし上げたのは年の頃二十代前半と思わしき女性。
ボディーラインがくっきりと分かる薄手のワンピース。出るところが出て、括れるところは括れている。言わばナイスバディというやつだ。
盗賊が拠点として身を置くこの山には余りにも似つかわしくない格好の女性は突然の出現に驚く俺の手を握り、身を寄せて懇願する。
助けてと、ただ一心に。
余りに急な展開に未だ冷静な判断が出来ない俺を服の胸元からはみ出しそうな豊満な乳が更に思考を乱していく。
くっ……ち、近い!近すぎる……!
世間一般で言えば可愛らしい顔立ちのボインさんが密着寸前のところで手を握りながら俺の顔を覗き込んでくる。吐息も伝わってきそうな距離だ。
青少年ならば誰もが羨む様な展開を迎えているが……きっと事態は宜しくない方向に転がる筈。
『なんだ!?あっちで声がしなかったか!?』
『あ、あぁ……確かに聞こえた……だ、誰だッ!?』
ほらほら、ヤバイよヤバイよ。案の定気付かれた……。
だけど、まだ勝機はある!真正面から突っ込んでも遅れは取らないさ!
「ちょいとお待ちを」
ここぞとばかりにボインさんの手を解いた俺は一歩目から全力で駆け出す。勿論、まだ俺の姿を捉えていない二人の盗賊に向け。
こちらとあちらの視界を隔てていた草木の合間を全速力で駆け抜けて俺は一気に間合いを詰めにかかる。
当然あちらさんもこちらの存在に気付く。ただ、あちらさんは気付いただけ。俺は既に抜刀の体勢に入っている。
石神流抜刀術 柳の型【流砕】……!
前傾姿勢のまま、駆ける勢いを利用して俺は賊の数メートル手前で前転を決める。正確には左肩から。少し痛む傷口は今は我慢の方向で。
反動そのままに一回転した俺の腕から一閃の刃が驚愕の表情を浮かべたままの賊その1の鳩尾にクリティカルヒットする。
向こうからしてみたら不意を突かれ、間合いを詰められたその直前に俺の姿が消えた様に見えた筈。
一撃浴びて失神したその1さんに訊ねる術は皆無だが、峰打ちと言えど威力はなかなかのものだろう。
まず一人!頭で考えるよりも先に意識は余りに突然の出来事に硬直する賊その2に移り変わっていた。
納刀する間も惜しい。繋げるか……!
【緋天棗月】は抜き身のまま即座にターゲットを切り替える。
軸足となる左足首がその2さんを捉え、俺は刀を真下から振り上げる。普段使わない左手は柄の底を握り締めて、一気に!
「ぐはぁぁぁぁ……!?」
強烈な下からの打撃を顎に受けた賊その2の身体が僅かながら宙に浮いた。
どちらかと言えば腕力がない俺なのだが、思いのほか月の型 【新月】の一撃は強力だった様子でその2さんは悶えた後、気を失った。
当たりどころがまさにクリティカルな感じだったから激しい脳震盪に襲われたのだろう。何かごめんね。
「ふぅ……何とか上手くいったか」
若干の自己満足と安堵感に胸を撫で下ろしながら刀を鞘に収めて額の汗を拭う素振りを見せる。実際汗をかいていた訳ではないが自然と身体が無用なアクションを引き起こしていた。
「あ、貴方…………一体何者……?」
「……ん?」
忘れていた訳じゃないが、草木から姿を現したボインさんが目を丸くして言葉を漏らした。




