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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
黒の姫君 編
19/84

第十三話 所属ギルドで少年は『旧友』と再会して窮地を脱する

「あっれー?ガミキさんじゃないっすかぁ!?」


 今まさにというところで喧騒の中からその声はした。そしてどこか聞き覚えのある妙に甲高い声は確かに俺を呼んだ。


「この人集りは何すか?ハイハイ、ちょっとごめんなさいよー」


 先程までこの空間を支配していた険悪な空気をいとも容易く切り裂いて甲高い声の主は人集りを掻き分け俺の前に姿を現した。


「おいっす!いやぁ久しぶりっすねぇガミキさーん」


 妙に軽いノリと口調で周囲の注目を一身に集めたのはクルクルとダークブラウンの癖っ毛が印象的な童顔の少年。色んな事が一気に起こりすぎて困惑する俺の両手を握り、ぶんぶんと乱暴に握手をしてくる。


「……ははっ……ヘンリーくん……助かった……」


 思わず全身から力が抜けていく感覚に陥りながらも口からは安堵の笑いが零れ落ちた。

 何故なら俺もその少年をはっきりと覚えているからだ。

 《ヴェンガンサ》初期メンバーの一人ヘンリー=ストライフ。

 マスターシリュウと同郷の出身でギルドの黎明期から主に経理や財務等で活躍している。俺がギルドに加わった当初から何かと面倒を見てくれていた。また歳が同じという事もあって一番最初に打ち解けた人物でもある。


「ヘ、ヘンリー支部長代行!な、何を……!?」


 俺とヘンリーくんの仲睦まじげなやり取りを間近にして受付の眼鏡はワナワナと声を震わせて静かに驚愕している様子だった。

 ニヤリ……!

 いよいよ立場が逆転する展開に俺は堪え切れずにほくそ笑む。

 そしてその光景を不思議そうな顔で見ていたヘンリーくんが徐に呟いた。


「……で、これは一体何の騒ぎっすか?」


 ◆


「あははははははっ!!」


 腹を抱えて大笑いするヘンリーくんの高音が一際酒場区画に響いた。


「笑い事じゃないよ、全く……本気で焦ったんだからさ」

「あははっ、ホントに申し訳ないっす。受付の子はちゃんと叱っといたっすからマジ勘弁してほしいっす」


 様々な料理で埋め尽くされたテーブルを囲み相変わらず笑顔で彼は謝罪を述べた。

 シルメリアはお詫びという事で並べられた数々の料理に目を輝かせている。一応は俺のオーケーサイン待ちの様子でチラチラとこちらの雰囲気を窺っている。

 それにしても何とか留置所行きは免れて良かった。ヘンリーくんがあのタイミングで現れなかったらと思うと……ん?


「ところでヘンリーくん。何でまたフレデナントにいるのさ?それに支部長代行って……」

「そうなんすよ!聞いて下さいよガミキさーん!ここの支部長の奥さんに子供が産まれるらしく二ヶ月の有給を出して夫婦揃って里帰りしちゃったもんすから急遽自分がっす!それも三日前に言われたっすよ!三日前!」

「それはまた大変な……」

「シリュウさんたら『あ、言うの忘れてた。ヘンリーあとは頼む』こうっすよ!?おかげで慌てて出発して昨日こっちに着いたばっかっす」


 シリュウさんらしいと言えばシリュウさんらしいが、下で働く人間はさぞかし苦労してるんだろうな。

 それにしてもヘンリーくんが代行に就任したのが昨日って事は……あの森で迷わず、一直線でここに来てたらさぞかし大変な事になっていたんだろうな……考えるだけでも恐ろしい……。


「……ところでガミキさん。さっきからずっと気になってたんすけど、お連れさんとはどういう関係っすか……?」

「え、ああ、シルメリアの事?」


 突如小声で話しを始めるヘンリーくんはシルメリアが気になっている様子。そんな彼女は大人しく食事の時を待っているが、口元から今にも垂れ下がらんとするヨダレが俺に限界を告げている。

 そういえば自己紹介がまだだったな。


「シルメリア」

「ん?どうしたユウキ。もう食べても良いのか?」

「いや、あとちょっと待って。自己紹介するよ、こちら前にお世話になってたヘンリーくん」

「よろしくっす!ガミキさんのお連れさんならウチは大歓迎っす!」

「初めましてシルメリアだ。先程は少年のおかげで助かったよ、礼を言わせてくれ」


 少し前に聞いた事のある様な台詞でヘンリーくんにお礼を言ったシルメリアがペコリと頭を下げる。彼も全然余裕っす!気にしないで下さいよと相も変わらずだ。


「今はちょっと一緒に旅をしてて……」

「な、なッ……!?一緒にって二人きりでっすかぁ!?」

「え、あぁまあ……」

「う、羨まし過ぎるっす……!!」


 痛い程に羨望の眼差しを向けてくる彼の涙を見れば本気度具合がヒシヒシと伝わってくる。

 さぁて、そろそろシルメリアも限界みたいだし、お詫び代わりの食事を戴くとしようか。


「あ、度々悪いっすけど、シルメリアさん」

「ん?」

「気にしてたら申し訳ないんすけど……何でフード被ってるんすか?」


 あ……。


 当たり前と言えば当たり前の様な疑問に思わず俺は固まってしまう。硬直状態のままシルメリアに目をやれば、彼女も困っている様子。それでもヘンリーくんは続ける……、


「せっかく食事の時間なんすからフード取っちゃいましょうよー」

「い、いや、これはだな……」


 流石に困ってるなシルメリア。そう思い、ヘンリーくんを止めようとすると、まぁ待ってほしいっす。そんなジェスチャーで制止した彼が言う……、


「ウチはその……あれだ……大丈夫っすよ。魔族だろうと神族だろうと。エルフだって」

「……え?」

「そんな事気にする奴なんかいないって事っすよ。みんな同じ『人』っすから。それにガミキさんの仲間なら俺らの仲間っす!大大歓迎っす!……さぁ二人共食べましょうか!」


 言ってナイフとフォークを握り締め、目の前のこんがりグリルを食べ始めるヘンリーくん。呆気に取られた俺に一瞬ウィンクを飛ばしながら。

 思わず微笑んだ俺はやっぱりこのギルドの空気は好きだなとか考えつつ、いただきます!の掛け声と共にヘンリーくんに続きナイフとフォークを手に取る。


「…………ふっ」


 そんな俺とヘンリーくんの様子を見ていたシルメリアは少しだけ微笑んだ。何を考えていたのか分からなかったけれど、その表情がどことなく柔らかかったので何だか少し嬉しかった。

 無言でフードを捲り上げるといつ見ても綺麗な黒髪が靡き、尖った耳が顔を出した。徐にポケットから取り出した赤い紐で艶やかな髪を横に縛る。目の前の料理を睨みつけ、さあ、臨戦態勢と言ったところだろうか。

 不意に俺と緋色の瞳が合うと軽く微笑んだのでちょっとだけドキッとしながらも微笑み返す。

 こんな時間がいつまでも続けば良いのに……。そんな風に思ってしまう俺は少し痛いですか?


 ではでは……会食!!


 食との戦いに乗り出した俺とシルメリア。ふとヘンリーくんに目をやると彼はグリルにナイフを刺したままその手を止め、恍惚とした表情で呟いた。


「……な……な……な……う、美しいっす……ッ!!」

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