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ガミキのヘッポコストーリー  作者: ゼロ
黒の姫君 編
1/84

プロローグ① 少年はゆっくりと『物語』を語る

◾️□古都ビルシュナイト 喫茶ブッフェルモン

小説家ノベリスト】クリストファー=ロイド


リムレア暦1255年 12月5日 10時32分


「───さて、今日という今日は逃さないからね!洗いざらい全てを話してもらうからね!!」

「……はぁ」


 溜息を零し、見るからに面倒臭さそうな黒髪の少年。

 眠た気な瞼が一層気怠さ加減を強調しているが、決して眠い訳ではない。彼にしてみればこれが普通なのだ。

 とある街角の小洒落たカフェ。その一角のテーブル越しに相対するのは品のある身なりに眼鏡、整えられたブロンドヘアーの青年。

 こちらは少年と打って変ってくっきりとした二重瞼に碧の瞳を輝かせながら右手に高級そうな万年筆、左手には白紙のメモ帳。


「ひどいやユウキ!約束したじゃないか。君の旅の出来事を全て話してくれるって!」

「い、いや、そうなんだけどね。それが思ったよりも話しづらくって……」


 ユウキと呼ばれた少年はポリポリと頬を掻きながらどこか照れ臭そうに目を泳がせる。


「クリスさん、また今度じゃ駄目かな……?」


 上目遣いの少年は恐る恐る尋ねるが、すぐに無駄だと悟る。

 クリスと呼ばれた青年から放たれる圧倒的殺意がそれを許してはくれないだろう。

 ショーウインドから射し込む陽の光を反射した眼鏡越しの冷たい視線が少年を穿つ。ゆらりと浮かべた口元だけの微笑みが旧知の仲であるはずの青年をより一層恐ろしいものに感じさせた。


 ……だよね。


 その言葉を声には出さず飲み込んだところで少年は観念する。


「わ、分かったさ!話すよ、話せば良いんでしょ!」

「そうこなくっちゃ。流石ユウキ」

「……そうしなきゃ俺が殺され───」

「何か言ったかい……?」

「い、いえ、何も……」

「じゃあ、まずは……!」


 ようやくだと言わんばかりにクリスはメモ帳に万年筆を滑らせる準備を整える。予め聞きたい事を書き殴った最初の数頁を飛ばして開かれた真っ新な部分を机に広げて。

 一体これから自分はどれだけの時間拘束を強いられるのだろうか───?

 少年は不安を募らせていく。


「……で、でも、俺の旅なんて小説にして本当に面白いの?」

「何を今更……勿論だとも!君は滅多にいない貴重且つ重要な存在さ!現に君を題材にした本を何冊か出版しているんだけど売れゆきが凄くってね……!君の旅はそれだけ魅力的だって事さ」

「は、はぁ……」


 少年は些か困っていた。

 とあるきっかけで知り合った売れない小説家。ひょんな事から自分を題材にした本を執筆したところ、偶然にもそれがヒットしてしまった。

 以降、確かに彼とは旅の出来事をほと細かく伝える、そういう約束を交わしているのだが、自分が主人公の小説というものに若干の恥ずかしさといまいちピンとこない感覚が未だ離れない。

 何よりも内面的な性格上、自分を赤裸々に語るという行為自体恥ずかしい訳で。

 それでも青年小説家の情熱に気圧された形で始めてみれば、シリーズは瞬く間に大ヒット。

 一躍彼はその業界で時の人になったらしいが……。


「……やっぱり、何から話して良いものか……」

「落ち着いて→ゆっくり→初めから=全部さ。今回の旅は恋愛要素が混ざっているんだろう?あのユウキがだよ?この前の時は結局そういう展開にはならなかったからなぁ……でも、そんなすぐ後にユウキの方から恋に目覚めちゃうんだから面白いよ!いやぁ楽しみだな、早く聞きたいなぁ想像するだけで興奮してきちゃったよ僕は……ッ!!」

「わ、分かったからクリスさんの方こそ落ち着いて……!」


 目を血走らせながらアドレナリンを放出するクリスを制して少年は諦めた様な表情で溜息一つ。もはやこの男から逃れる術はなさそうだ。

 テーブルに置かれたティーカップを静かにすくい上げ、口元に運ぶ。仄かに騰がる湯気から香ばしい薫りが鼻腔を擽る。地元の特産豆使用と謳った店自慢の珈琲を一口啜り、またカップを置く。


「……そうだなぁ。じゃあまずは『みんな』と別れた後にドラグー王国の首都を目指す辺りから…………」



 ───そして少年は静かに語り始めた。

 思い返しても未だ鮮明に残る長い長い物語をゆっくりと、ゆっくりと……。

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