僕と俺、俺と僕。
「やぁ」
顔を上げるとそこには銀髪の少年がいた。
いや、いるにはいるのだが、姿がなく、あの陽気な顔も確認できない。
ただ、頭の中に身体がなくとも陽気でいるあの少年の声が響くだけだった。
「お前は・・・・紙か」
「確かにそう言ったような気がしないでもないけど、流石にちょっとなー」
銀髪の少年が苦笑していると声を聞いてわかった。
「こんな事を聞くのもあれなんだけど、何処にいるの?声だけ聞こえるっていうのはあまり好きじゃないんだけど」
「それは無理な話だな~。なんせ、今、僕の体はないんだから。」
その言葉を聞いて、真はぎょっとした。
「ふーん。そっか」
だが、なにをいうこともなく、そのままその言葉を受け入れた。
「さて、愉しい前置きは置いておこう。じゃ、本題。ネタばらしといこうか!」
銀髪の少年は、陽気に言った。
「まず、これだけは言っておくね。霧城夏哉、千雅真……いや、君はこの世には存在しないんだよ。」
「!…そうか、やっぱりそうなんだ。」
初めは驚いていた真だが、夏哉となったときから気づいていたのかもしれない。考えてみれば、いつの時だって自分だけが仲間外れだった。
自分だけが世界の裏にいた。
「君は概念だ。世界を変えたいという零の・・・。だからこそ君は零に惹かれ、零は君に惹かれた」
「けれど、それを具現化させてきたのは僕。ずっと、ずっと、やってきた。だけどもう限界なんだ。いくら誰かが願おうとも、その代償は大きすぎた。いくら僕と言えどももう、あと1回が限界。それ以上は出来ないんだ。僕という存在そのものが消えてしまうから。」
「じゃあ、やらなければいいじゃないか。」
そう、今までこんなことさえしなければ、自分の存在がなくなることもなかったのだから。
だが、銀髪の少年は、違うんだ、それが僕の存在理由だったから何だよ、そう言った。
ポチャン。
何か滴のようなものが落ちていく。1つ、また1つ。
「あれ、可笑しいな。これは一体何だろう?僕が涙を流す?そんなの有り得ない。僕は、僕は____」
銀髪の少年に同情はしなかった。
それは、真も同じことで、必ず通るものだからこそ、同情など出来なかった。したところで何が出来るというわけでもない。ただ、自分の無力さに嘆くだけならば、何もしない方がよいと思ったのだ。
「ごめん、見苦しい所をみせたね。じゃあ、最後の旅へ行くといい。もう僕は何も言わない、言えない。でも、そうだね。何か一つ君に言うならば、こう言おう。__________ってね。」
「そのつもりだったよ」
銀髪の少年は最後に言葉を残し、1つの扉を開いて消えた。
※ ※ ※
蒼い空に白い雲、道を行く様々な人々や車。
それぞれがそれぞれの色を持ち、塗り変えていく。
人は誰しも嘘をつく。
いい嘘だ、悪い嘘だなんて誰にもわからない。
わかることなんて、今、自分が嘘をついているかどうか位だ。
色は必要だ。
真っ白な世界なんてつまらない。その白にそれぞれが赤や青、黄色や黒などを混ぜていくからこそ面白いのだ。
銀髪の少年は僕に言った。
「何か一つ君に言うならば、こう言おう。好きにやっておいで、ってね。」
幾度となく繰り返してきた世界は変わった。
僕は答えを見つけたのだ。
今までは喜怒哀楽がないとつまらないだとか、嘘が嫌いだとか・・・。
だけどそれを受け入れて、これが僕だって証明したんだ。
零の概念からできた僕らは僕らとして生きていく。
真は零の概念ではないという『嘘』を真自身に信じさせ、夏哉は真ではないという『嘘』を夏哉自身に信じさせて・・・・・・。
そう今日もまた_________
________僕らは嘘で生きている