俺を怨む、私を恨む
フィナーレに近づいてきました!というかもうフィナーレですが…。
誤字、脱字等ありましたら報告、よろしく御願いします。
零が来てから早いものでもう約二ヶ月がたった。
零が来た事によって女子のお喋り大会の数は少なくなり、あったとしても俺の事ではなくなった。そのため今はとても教室に入りやすい。さらに、席が隣ということもあり、零とは仲良くなった。そのせいで「お前ずりぃぞ」とか言われるようになったが、それによって話す回数が多くなり、以前よりは馴染めた気がした。
「皆、肝試し、行こう!!」
「「「「・・・・・イェェェェェェイ!!!!」」」」
少々戸惑ったものの、クラスのノリで『大肝試し大会』が行われる事となった。
夏ももうすぐ終わりだというのに肝試し、なかなか寒くて、暗くて、開始前から怖がる者が出てきている。神社を照らすのはただひとつポツリと雲の隙間から見えている月の光のみ。薄ぼんやりと輝いている。さらに、昨夜は雨、ずっと前から生えている苔があり、気を抜けば滑って転んでしまいそうだ。
「じゃあ一番、行きまーす」
二人ペアなのだが、この肝試し大会も急だったので席の隣同士でペアになる。つまり、夏哉のペアは零ということになる。ちなみに順番は最後だ。
「じゃあ、最後、行くか」
「そうだね」
初めの方は怖いだの寒いだの色々と話していたが、後半になるにつれ話す回数も少なくなり、ついには虫の鳴く声がしっかりと聞こえるようになっていた。
「うわぁ!!・・・・夏哉、怖い」
そう言って零は夏哉の腕にしがみつく。歩くたびにガサッ、ボキッなど不気味な音が聞こえた。
ゴールまで行くと、零はもう「怖い、怖い」と泣きじゃくっていたが、少し経つと満足そうに笑っていた。
「じゃあ、帰るか」
クラスメイトのその声で、一斉に神社を下りだした。
「夏哉は怖くなかったの?私なんて泣いちゃったよ」
「怖い、か。どうだろう?」
夏哉は曖昧に答えた。その答えに零は不服そうにしていた。
「まぁ、良かったんじゃない。泣いてるけどさ、最後には、満足そうに笑ってるし。楽しければ全てよし・・・みたいな?」
「そうだね!」
夏哉は思わずフフッと笑った。初めてかもしれない、そんな本物の笑顔だった。それには零も驚き、夏哉を見て、何も言わず笑った。
その時だった。
ズルッ。
泥濘に足を取られ、数十メートルはあるであろう崖から二人は滑り落ちた。
「「ああぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁ」」
ポチャン、木の葉から零れ落ちた滴が大きく聞こえた。
「うっ・・・・」
数分後、先に目覚めたのは夏哉の方だった。
零は絶対に護ろうとしたため、夏哉には痛々しい傷が見えた。
「あぁ、俺、死ぬのかな?」
夏哉は悲しそうな顔をした後、自嘲した。自分でも可笑しいと思うくらい弱弱しい気持ちになっていた。
いつから俺はこんなに弱くなった? _____いつだってこんな世界は嫌だと思っていただろう?
いつから俺はこんなに笑った? _____いつだってこんな笑い方は出来なかっただろう?
いつから俺はこんなにも死にたくないと思った? _____いつだって死んでもいいと思っていただろう?
俺は一体誰だ?
分からない、解らない、判らない。
答えを教えてくれよ・・・・。
夏哉は少し考えた後、嗤った。
あれは俺じゃない誰かなんだ。じゃあ俺はどこにいる?
今までの俺は何だ?
――――俺はどれだけ嘘をついてきた?
数え切れない。
あぁ、頭が痛くなってきた。俺が何回嘘をつこうが俺は俺だ。俺じゃない誰かだとしても俺だ。
そんなこと、初めから分かっていたことじゃないか。今更何を考えている。考えるだけ無駄だ。
俺は、今はただ、生きてもいいと思っている。
それだけだ。
ふと気がつくと隣で気を失っていた零が起き上がって夏哉に声をかけていたようだが、夏哉はそれに気がついておらず、零は、夏哉がもう居なくなってしまったと思ったのか涙を流していた。
「れ…い」
自分でも驚くほど声が出ていなかった。何故なのかは分からないが、今は兎に角、零に「大丈夫だ」と言わなければならないと、必死に声を絞り出した。
「零。」
零は流れていた涙を拭い、ハッ、とした後、永らく別れていた人との再会を逃さぬような風に抱きついた。
「ちょっ、どうした?」
「夏哉が…夏哉が……死んじゃったのかと思って、私っ!夏哉を殺しちゃったのかと思って…。」
零の止まっていた涙は、また終わりを知らないように溢れだした。
「大丈夫だ。別にどこも怪我してない。大丈夫なんだよ」
本当は怪我してる。少し薄暗いだけでかなりの出血をしてる。きっと、俺はもう持たない。
あぁ、また俺は嘘をつく。俺の嘘はなくならない
。
「本当に?」
「あぁ」
零は安心したように身体の力を抜いた。
…。
一体俺は幾つの嘘を塗り重ねるんだ------
「ねぇ、夏哉」
「ん?」
零は急に話始めた。
夏哉のことがあったためか、どんどんと他愛のない話をしていった。
「あのさ、夏哉。」
零の雰囲気が変わった。
「嘘はついていいものだと思う?」
何を言い出すかと思えば、零から出るとは思えない言葉だった。
ずっと零は純真無垢で、嘘なんて言わずもながらダメだ、と思っているのかと夏哉は思っていた。
「駄目だと思う」
夏哉は即答した。
しかし、答えた後フッ、と笑って言った。
「って、前の俺なら確実にそう言ってた。だけど…今の俺ならこう言うよ。--------嘘はついていいと思う。」
夏哉は何かスッキリとした顔をしていた。
「そっか」
零は夏哉の答えに満足したのか、あるいは初めからわかっていたのか優しく微笑んだ。
「あぁ、眠い。零、皆が来たら起こしてくれよ」
「うん」
「また、遊ぼうな」
「うん」
「じゃあ、また」
「う…ん」
零は何かを察したように涙を流し始めたが、夏哉を心配させないためか笑っていた。
「ありがと」
それが夏哉の最後の言葉となった。
「私はっ、何でっ、夏哉を止めなかったのっ!!」「大丈夫だって、言ってたの、嘘だってっ、気づいてたのにっ!!」
「私はっ……」
零はペタリ、と地面に手をつき、崩れていった。
「私はっ、夏哉を止められなかった自分が憎いっ。止めてればまだ生きてたかもしれないのに!!無理に話させなければまだ、まだっ、息があったかもしれないのにっ!!!!」
何であんなことを聞いたのか、零自身わかっていなかった。その事が気に触っているのか、泣きながら自身を責めていた。
「卵は温めないと雛が産まれてこないんだよ……」
その言葉が不意に口から出た零はハッ、とした。
この言葉は一体誰が言ったのか、と。
なぜ自分は知っているのか、と。そして-------
-----夏哉とは、真とは一体誰なのか、と。
似ていないようで、似ている二人の存在を、零は切り離して考えることが出来なかった。
あぁ、そっか違うのはただ嘘をつくか、それとも----嘘を嫌うか…か。
零は笑った。そして言った。
「私が憎いや」
と。
あぁ、俺、死んだんだな。最後に嘘、ついて。
フッ、何でだろう。
とても清々しい。
とても満足だ。
だけど、俺は…零を追いかけたはずなのに、置いていってしまった俺が…
-------とても、憎い。
何故零を追いかけていった誰かのことを言ったのかはわからないが、それでも夏哉は自身が憎かった。
長く続いた?この小説も次で終わりとなります。
もう少しの間、お付き合いいただけると光栄です。