~旅の始まり~第3話・夢の中/フーバの森2
アックスが目を開けると、そこは先程までいた木々が生い茂ったフーバの森ではなく、一面が真っ暗で自分が何処に居るかすら分からない場所だった。
「(…ここ……どこだだ…?
……なーんも見えねぇし、なんか体が浮いてる感じだな…。)」
心の中でそう呟くアックスは、自分が何処かに立って居るのでは無く、宙に浮いてるとなんと無く自覚した。
急に真っ暗で何もないこの場所に居るにも関わらず、恐怖心や孤独感を抱いたり、叫び散らしすることも無く、とても落ち着いていた。
「(…………。やっぱ俺っち死んじまったのかな…。)」
「あはははは! 大丈夫だよ~、君はまだ生きてるから~」
「…俺っち生きてんだ……。……ん? だ、誰だだ!!?」
アックスは自分が死んでしまったんだと思い、口を開いて言うのでは無く、残念そうに心で呟くと、その心の声を正確に聞き取った様な口調で、
男の子の様な女の子の様な幼い声がいきなり楽しそうに言ってきた為、
始めは、全く気にせずに呑気に言ったものの、ふと可笑しいなと思い、最後は声を荒げて叫んだ。
「あはは! そんなに驚かないでよ~? 今、君の肉体は精神力も体力も底を尽きかけて眠って居るだけさ~。
まぁ僕はそのおかけでー、君の魂だけを此処に呼び寄せれたんだよ~ん」
「……えーっと、えーっと…。 今俺っちのにく……にくなんたらはフーバの森に居て……、たま…たましい? ってのだけが、この何にも見えねぇ所に連れて来られたってことか?」
とても楽しそうにかつ、軽い口調でこう行ってくる謎の幼い声の説明に、今一つ理解に苦しむアックスは、
殆ど謎の幼い声の言った事を聞き返すのであった。
「まーー、大体そんな感じだねーっ! で! 急で悪いだけどさっ、お願い聞いてくれないかな? 聞いてくれたらお礼に、フーバの森にいるドラグーンウルフ達を居なくしてあげるからさ~」
「……聞くには聞くけどよ。 それより! どら…どらなんたらウルフって、さっきのでっけぇ狼か!?」
謎の幼い声はいきなり[お願い]と、その[見返り]をアックスに要求してきた。
あまり人を疑らない性格のアックスはすんなりお願いを聞くと言うと、それよりもフーバの森で戦った大きな狼のシャドウユニットの方が気になったらしく、興味津々に聞きた。
「あはは、正解だよんっっ! ドラグーンウルフはねぇ、動物系シャドウユニットの中じゃ3つの指に入る強さなんだよ~。 クラスが一桁の君達が生きているのは奇跡ってやつに限り無く近いねぇ~」
「へぇ~!! お前よく物知ってんだな!
…でよ、お願いって何だだ?」
パチパチパチと拍手をして正解っと言うと、強さの軽い説明を謎の幼い声が親切に教えてくれると、その説明を聞いたアックスは感心して、目をキラキラさせて言うと、
「お願いを聞いて欲しい」と言われた事を思い出しこう聞くと、謎の幼い声は
「僕のお願いはねー……。 お話ししちゃって時間無いから凄く簡単に言うね。 君が居る島のー、村と街を全て行った後に~、海を渡った三つ巴の大陸って所に行って欲しいんだっっ! 三つ巴の大陸に着いたらー、僕から話し掛けるね~
じゃ、まったに~~」
「……ぁ、待ってく……ー」
淡々と謎の幼い声は自分の「お願い」を言い終え、またねと言うと、真っ暗だった空間が目も開けられ無いくらいの真っ白い空間に代わって行き、アックスは聞きたい事があったのか呼び止めようとしたが、最後まで言い終えるより早く意識が飛んでしまったのだった。
「……ん…。 …あれ? 此処って……フーバの森、だよな…?」
アックスがゆっくりと目を開くとそこは、木々が生い茂ったフーバの森だった。
「…気が付かれましたか……、傷の具合は大丈夫そうですか?」
レティナは不思議そうに周りを見回すアックス対してにどうしたのか、と、アックスが気を失って15分程絶えず回復魔法を使っていた為、魔力不足で元気を無くしておりその疑問すら頭に浮かばず、ぐったりとした笑顔と口調で傷の具合を聞いた。
「 ぉ、おお! そういや全く痛くねぇや!! 回復魔法ってホントすげぇーな!」
と言って、元気の無いレティナを他所にその場に立ち上がって、軽く何度か跳び跳ねながら尊敬の眼差しと満面の笑顔でこう言った。
「それは良かったです。……さ、早く行きましょう。 いつあのシャドウユニットが戻ってくるか分かりませんので」
次であってしまったらこんなにも運良く生きていられると思わ無いレティナは、行こうと言うなり直ぐに立ち上がって、疲れを気力で押さえ込み少しふらついた足で歩き始めた。
「さっきのってあれだろ? 確か……そうだだ、ドラグーンウルフだ! なんか良くわかんねぇけど、名前も知らない子供が居なくしてくれたらしいぜ?」
と、先程の男の子様な女の子の様な謎の幼いが言っていた事を思い出し、レティナに近付くとお姫様抱っこをして言い終えた後ニカッと笑いかけた。
「……夢の話しで…きゃっ! だ、大丈夫ですから、下ろして下さいっっ!!」
呆れた様に言おうとしたものの、お姫様抱っこをされ、更には笑いかけてくると追い討ちをかけられ、顔を赤くしてしまい、それを隠す様に両手で顔を覆いながら全力で叫ぶ様に言った。
「俺っちも夢かな~って思ったんだけどよ、やっぱ信じたくなっちまったんだよなぁ…。
うおっっ!」
夢かどうかすら分からないが、何故か現実に起こった事だと不思議と思ったアックスは、笑顔で抱えているレティナに言うと、いきなり矢がアックスの頬を掠めるか掠めないかのギリギリの所に飛んできた
「……動くな。 次は当てる。」
木の上から男勝りな低い女性の声が聞こえて来た。
「だっ、誰だだ!? 俺っちもレティナも人間だしっ、戦う気も無いぞ!」
「…動くなと言った筈だが? ……お前たちは私の質問にただ答えればいい…。分かったか?」
当てる、即ち殺されると命の危機を感じだアックスは慌ててこう叫ぶも、お姫様抱っこをしている、腕の中のレティナを守ろうと胴体を前に少し倒した。それを見た謎の低い女の声は、
冷たく動くなと言うと、弓の弦をギリギリまで引っ張りいつでも仕止められる様に狙い定めながら、質問をすると言った。
「……アックスさん、ここは彼女の話しを聞きましょう…。 きっとあれが噂の狩人ですね。」
レティナはアックスの耳の方に顔を近付け小さな声でこう言うと、アックスは内心[聞くもなにも、逃げたいけど動けない]と言う本心を口には出さず、硬い表情で頷いた。
「……一つ、お前達は何者だ?」
最初の狩人の質問に対して、レティナはお前は黙ってろと言わんばかりにアックスに目で言うと
「…私達はフィットフレルの村から旅に出た者です。 失礼ですが、貴女が最近この森に入る人を追い返していた狩人ですか?」
気丈な物言いで狩人の質問に答え、そして自分の質問を同時に言った。
「……。質問をするのは私だ、その問いにはこれから聞く質問に答えたら……教える。
…二つ、このフーバの森にいた凶暴な狼どもが突然居なくなった…。 お前達が何かしたのか?」
冷たくレティナの質問を今は答えないと切り捨てると、次の質問をしてきた。
「それってさっ! もしかしてドラグーンウルフの事か!?」
狩人の問いに驚いた様に、そして嬉しそうに、矢を射られて命を狙われてるなど忘れ、大きな声で言うアックスを、レティナは、だから黙ってろつっただろと、言わんばかりにとても冷たい目でアックスを見上げていた。
「……名前は知らん。 …だが、大きく禍々しい何かを纏った狼だ。」
「…んーと、女か男かわかんねぇんだけど…。子供がさっ、居なくしてくれるって言ってたんだだ!」
「……子供?」
アックスは名前はおろか、姿すら知らないため取りあえず子供がと言うと、女狩人は眉間にシワを寄せながら理解に苦しんでいた。
「…うん。 名前も知らねぇし、声しか聞こえなかったんだけど…。
えーっと…確か……。この島の街とか村とか回ってー……、三つ巴の大陸?とか言う所に渡ってくれって。 それを俺っちがする代わりに、この森のドラグーンウルフを居なくするって、言われたんだよ」
言われた事を思い出ししながら、こう説明するアックスを、レティナは「夢の話しじゃ無いの?」と思いながら、良く分からなそうな顔をしてアックスを見ていた。
女狩人もレティナ同様、アックスの言っている事が分からない為、眉間のシワが戻らないでいた。
「……すまない。 お前が何を言っているのか私には理解出来ない…。
…心当たりがあるのならば詳しく聞きたい……。共にニースザ村に来てはくれないだろうか…?」
詳しく聞けば何か分かるのではと考えた女狩人は、いつシャドウユニットが出るか分からないフーバの森より、腰を落ち着かせれるニースザ村に来てくれ無いかと聞いたのに対してアックスとレティナは
「一緒に来てくれんのか!? あんまし詳しくとかはわかんねぇけど、行こぅ…」
「断固反対します。私達は貴女が何者で、どういった目的でこの森に居るのかすら知りません。
故に、貴女と共に行くのは危険と判断させて頂きます。」
テンション高く行こうぜと言いかけたアックスの言葉に割り込んでレティナが反対し、反対の意思を伝えた。