~旅の始まり~第1話・フィットフレル村からフーバの森
「はぁ……。
アックスさん、待ってください。」
ため息をつき、アックスを呼び止めた。
「…ん? 何か忘れ物か?」
と、陽気に聞いてくるアックスに
「……。
フィットフレル村の近辺には、比較的かなり弱いですが魔物がでます。
武器も持たずにどうするつもりでいたんでしょうか?」
レティナは呆れながらいきなり心配になり旅を止めようか迷いながら説明した。
レティナはアックスと同じ17歳であったが、12歳の時に怪我をした村人の傷を、治したいと強く願い
初めて魔力と言う力を、無意識に使って傷を治した事から、
回復魔道の使い手である[白の魔法使い]
として村の警護団に半ば強制的に入り、
訓練を重ねて、遠出をしたことは無いものの、多少の旅を経験していた為知っていた。
「武器かー……。
俺っち剣なら特訓して使える様になったけどさぁー、フィットフレルじゃ剣なんか高価な物売ってねーじゃん?」
鉱石が取れない為、村には鍛冶を行える者がいる筈も無く、木で出来た剣等しか無かったのであった。
「…言い分は分かりますが……。
私も警護団に話を着けなければいけませんし、剣を頂ける様にお願いしてみますから…待ってて下さい。」
と言ってレティナは、大きな溜め息を吐いて警護団の団長に話をつけに行ったのであった…
「…旅って思ったより大変そうだなぁー……。」
レティナの言い方と態度を見て、独り言をボソッと呟くと その場に胡座をかいて座った。
……―数十分後。
「…お待たせしました。
古い物ですが…手入れを良くされているので支障は無いでしょう」
鉄で出来たやや年季の入った剣を受け取った。
「おー! 鉄で出来た剣なんて初めて持ったぞ!」
素直に喜びながら、鞘から剣を抜くと軽く振って見た。
「…うん、こらゃ使えそーだだな!
改めて……行くかっっ!!」
そう言うと、鉄の剣を鞘に入れ、 腰に差すとレティナの手を引いて村を出た。
「……「だ」の後にもう一度「だ」と付ける癖…私の前以外では使わ無いで下さい…。」
手を引かれて少しだけ頬を赤く染めながら、アックスの口癖を止めてもらう様に諭した。
「…でさっ、魔物って俺っち見た事無いんだけどよー。」
村から出た事が全く無いため魔物を見たことは愚か、どんな姿をしているのかさえ聞いた事が無かったのだ。
「魔物ー……と言うより、この辺りでは頻繁に出たりしないですが、
村や街の警護をしたり討伐隊に入ったり等で、実際にその魔物と対峙する人達は、影の様な姿等から…[シャドウユニット]、と呼んでます」
「しゃどう…ゆにっと…? 魔物じゃ無くてか?」
フィットフレル村を出て2分も歩かない内に、立ち止まってレティナを見た。
「えーっとですねぇー、魔物には代わり有りませんが……まぁ、見れば分って頂けると…。 」
アックスを見てレティナも止まってこう言い放つと、論より証拠と言わんばかりにテクテクと歩き始めた。
……ー15分程歩くと、目の前に影が立体化したような、爪の長い大きめの猫が現れた。
「ぅおぉっ!
あれが魔物か?」
影が立体化した様な大きめの猫を指差して聞いた。
「その通りです。
あれが魔物……いえ、[シャドウユニット]です!」
と聞いて来たアックスに説明すると背中に差してあった鉄のロッドを取り出し直ぐに身構えた。
「……と、私が戦うよりアックスさんの力試しの方が良いと思います。
援護はしますので、戦って見て下さい」
そう言うと、レティナは一歩下がり回復や防御魔法に力を入れることにした。
「……俺っちだってやれば出来るんだだ!
やってやるさ!」
腰の鞘から鉄の剣を抜くと中段で構えて、大きめの猫へとゆっくりと歩み寄った。
影が立体化したような大きめの猫がアックス達に気付き、身構えるなり直ぐに突進する勢いでその鋭く長い爪を、いきなりアックスの胴体目掛けて切り裂き来たのであった。
「…おわっ!? 完全に避けたと思ったのに……うりゃ!」
大きめの猫の鋭い爪を避けようと左側にステップしたが、右腕にかすってしまった。
大して痛みは無かったらしく大きめの猫の腹目掛けて剣を突き入れると
「…グニァァァ」っと言って大きめの猫跡形も無く散って行った。
「やりましたね! 初めてにしては上出来です!」
大きめの猫のシャドウユニットが消滅したことを確認すると、アックスに近寄って行き、笑顔で褒めた。
「……んー、とー…。
弱くね…?」
大した怪我も無く、一撃入れただけで倒してしまった為、こんなもん?
と言う理解しか出来なかったのであった。
「それは……。動物のシャドウユニットですから……人型のシャドウユニットは剣技や魔法も使って来ますし、高位の動物型のシャドウユニットはとても大きな蛇とか、犬とか、竜とかですし…。
中でも一番嫌なのは自然の木々や大地、湖や川、海と言った自然自体が悪意ある[シャドウユニット]になるそうですし、この辺りのシャドウユニットでは小手調べにもならないかもですね」
「うげぇ~…。じゃあとりあえずこの辺は、楽勝だだな!」
レティナからの説明を聞くと、余裕だなと言わんばかりに笑いながら上機嫌で言う、アックスに対し
「だと…。良いですね。
…言っておきますが、フーバの森に居る[シャドウユニット]達は、この辺りにいるそれとは比べられませんので、気を抜かないで下さい。」
レティナの言葉を聞くも一撃で沈んださっきのシャドウユニットを見てしまっているためか、
物怖じせず、かははっと笑いながら気楽に
「んな心配しなくても大丈夫だってー、俺っちもそこそこ出来そうだしよっ!」
「…はぁー…。
狩人も居るんですよ? その上シャドウユニットが現れた……アックスさんの剣の腕を含めて、私達の力じゃ間違えなく……死にます…。」
呆れた様に大きく溜め息を吐くと、現状の自分達の力を把握した上で少し強めの口調でこう諭すと
「その狩人!…話ししたらすんなり通してくれ……」
「不可能に限り無く近いでしょう。
少なくとも、クラスは私よりも上の筈ですから…。」
アックスの能天気な発言に即答で不可能と答えると、クラスと言う言葉にアックスは首を傾げて
「……クラス? 何だそれ?」
その言葉にレティナは驚き、目を見開きながら少し戸惑い
「…………ぇ? クラスを知らないの……ですか…? 冗談を抜きにして、ですよ…?」
言われても分からなかった為、自分の後頭部やや上に手を乗せて軽く頭を下げながら
「…わりぃ。 聞いたことねーわ」
と言うアックスを唖然とした顔で見たものの、項垂れるかの様にレティナは
「………………。
……クラスと言うのは、強力なシャドウユニットやクラスが2以上の野党や殺し合いの決闘を望んできた人を倒した時に落とす、その者達の魔力を蓄えた[命水晶]と言う飴玉程の水晶玉を
各泉にいる女神様の秘術によって、[命水晶]を体に取り込み、その魔力によって身体強化や魔力の増長。
新たなスキルや魔法を会得した時に、女神様から頂けるこの[精魔の宝玉]の数においてクラスを0~50までで力を測る為の物です」
こう説明するとレティナは自分の鉄のロッドの持ち手に装飾してある石ころ程の小さな紫色の宝玉をアックスに見せた。
「へぇ~、綺麗だけと…何か薄気味わりぃ…。 じゃあさっ、レティナはクラスっつぅのが3で、俺っちが0だよな?
でもよー、何で50まで何だだー?」
ふむふむ、と頷きながらレティナの武器に装飾されていた紫色の宝玉を少し眺めたが、何故か悪寒がしてしまいブルッと体を揺らすと、ふと疑問に思ったことを聞いた。
「私とアックスさんのクラスについては正解です。
…それは私に聞くまでも無く少し考えれば簡単な事ですよ? クラスを上げる為には1つ上がる毎に多くの命水晶が必要ですから、
クラスを50以上を越えて体に更に魔力を蓄積するとなると……」
「…強くなれたとしても、体がもたねぇってことか?」
レティナの説明に口を挟む様にしてこう言うと、ゆっくりとレティナは頷いた。
……ーそれから何度か大きめの猫や鳥等のシャドウユニットを倒しながら1、2時間歩くと…
「…はーー、こりゃまた深そうだだなぁ…。
こえぇけど…フーバの森に来たんは始めてだから、何かワクワクしてきたっ!」
アックス達はフーバの森の入口付近まで来ると、森から出る刺々しいまでの威圧感に少し怖じ気付くも、始めて見る光景に楽しさの方が勝っていたのだ。
「…まだ昼前ですし、少し休憩をしてから行きましょう。
フーバの森を越えてもニースザ村までは、ここまで来た道程をまた歩く様なものですから…。」
そうレティナが言うと、辺りを見回し安全であることを確認すると、その場に腰を下ろした。
「…夜までには村に着きたいよなぁ~。
…ぁ、飲む?」
アックスもドンッと胡座をかいて座ると、一息つくために革のリュックから瓢箪に入った水を取り出して栓を取って飲むと、
レティナに差し出した。
「…わ、ありがとう…ござい…ます。 ぁ、おむすび良かったら…」
アックスの飲みに少し頬を赤らめて瓢箪を手に取ると、狩人を捕まえに行くつもりだったので作っていたおむすびを、肩から下げていた革の鞄から大きな葉に包まれたおむすびを2つアックスに差し出した。
「ぉお!! ありがとなっ!」
嬉しいそうにおむすびを手に取ると、大きな葉の包みを取り、中のおむすびをばくばくと食べ出した。
…ー10分程、話をしたりして休憩した後
「しゃっ! 行くか!」
とアックスが勢い良く立ち上がると、レティナも慌てて立ち上がりフーバの森へと足を進め始めた。