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リパクパ  作者: 藤本乗降
3 リパクパ
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14/26

パンデミック

       *


 そのニュースがネット上に広まったのは、美織が死んで七日目、つまり初七日の日だった。

 インターネット某大手掲示板サイト内において、とあるスレッドが注目されていた。


【たった今、鍵なしで自転車乗れたんだが】

 1 名前:名無し 20**/11/06(土) 18:57:33.09

 バイト帰り、チャリの鍵かかったままフツーに運転できたんだけど

 どゆこと? 教えてえろいひと


 こんな出だしで始まったスレッドは、当初こそ勘違いだとか頭が変だとか叩かれていたが、何度も試してその事実を訴えるスレッド主によって徐々に現実味を帯びてきた。

 そしてこれを見た人物が「自分もできた」と書き込む。主と同じ経験をする人間の数は次第に増えていき、欠片も信じていなかった人たちも駄目元で『実験』を始める。

 すると、昨日まで何ともなかったはずなのに、一晩寝ただけであの『能力』が発揮できるようになる人物も出てくる。

 『超能力』の件は、一週間もしないうちに社会も無視できないレベルまで広まった。

 科学者や心理学者や自転車メーカーが原因を探るも、これといった成果は皆無。

 ただ、暇を持て余すネットの住民たちが様々な名前をつけて遊ぶだけ。いつしか能力を持つ人々をチャリパッカー、略して『リパッカー』と呼ぶようになっていた。

 当然、自転車泥棒も多発。自転車を安全に保管できる場所は広い玄関かセキリュティ付の駐輪場くらいしかなくなった。泥棒の方も、万引きの常習犯がそっくり自転車へ鞍替えしたらしく、警察の手におえる規模ではなくなってしまっていた。何しろ駅前や繁華街だけでなく、自宅にある自転車さえも容赦なく盗んでいくのだから手に負えない。

 リパッカーは毎日のように増加し続け、自転車窃盗の嵐は収まる気配もない。

 そしていつしか、誰かが言った。

「チャリパク・パンデミックだ」

 以後、自転車にはGPS発信機を付けるというのが一種の常識となっていった。しかし、一度動き出した車輪は簡単には止まらず、『リパクパ』は日本、そして世界へと蔓延していった。


       *


 そんな状況下になっても、俺は構わず自転車登校を続けていた。学校近くの通学路に並ぶ人影は歩行者、歩行者、歩行者の大名行列。冬服姿の高校生たちが俺に奇異の視線を放ってくる。

 バス停には長蛇の列がつくられ、路肩に停車中の自動車も等間隔に並んでいる。走行車側からすれば迷惑すぎる事態だ。だがこんな光景も、次第に日常化されていく。今でもまだ性懲りもなく自転車に乗っているやつというのは、よっぽどの距離と家庭事情によりそうせざるをえないやつか、かなりの楽天家だろう。特に俺のタイムトライアルバイクはリパッカーからすれば恰好の獲物だ。

 校門前に立つ、ジャージ姿の新任(自称)熱血教師がこちらを見て声をかけてきた。

「おうい、自転車は盗られるからアカン言われとるやろ」

 そんな言葉を意にも介さず、自転車から降り、手押しでずんずん進む。

「ちょい待……はあ、仕方ないなあ。そんないいもんパクられても知らんでえ!」

 後ろからそう呼ばれるが、知らんぷりをしたまま自転車置き場へと向かった。案の上夏休みのとき以下の自転車密度で、数台の車体と冷たい風だけが存在する殺風景な場所であった。

 おそらくあの先生、そして近くにいた生徒らも、俺のことを『ワケあり』か『楽天家』だと思っているに違いない。そう思うと妙なおかしさが込み上げてきて、思わず微笑が口角に現れた。

 下駄箱まで来ると、自転車置き場の静寂が嘘だったかのようにあちこちからざわめきが聞こえる。日本語と日本語がぐちゃぐちゃになった言語が飛び交う中、俺の耳はとある単語をキャッチする。

 パーティのさなか、自分の名前だけが妙にはっきり聞こえるみたいに。

「――『フロム・フィオリータ』って書いてあったんだって」

 その言葉を聞いた直後、今度は俺の目があるものを捉えた。


【窃盗自転車に謎のサイン?】


 それは掲示板に貼られてある校内新聞の見出しだった。すぐに掲示板まで行こうとするが、上履きに履き替えるのを忘れていたのでタイルが半歩分汚れてしまった。履きなおして、今度は普通に歩いてそこまで行く。


【十一月二十五日、我が校の男子生徒S君の自転車が校内に置いてある間に盗難被害にあった。その翌日、S君は取り付けてあった発信機を手掛かりに自転車を森の中で発見。そのサドル部分には白いマジックペンで「フロム・フィオリータ」と書かれてあったという(上の写真)。これと同じサインが記された状態で発見されたものは編集部の知る限りS君を含めて四名存在。このサインの真意や、犯人の手掛かりは今のところ不明であるが、愉快犯的な犯行である可能性が極めて高いと思われる】


 その他にも【OB・OGから受験生へ】というインタビュー記事やおすすめの本特集などがあったが、それらには興味が湧かないし、なにより一限目が始まってしまうので俺は足早にその場から去った。



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