ドール
rikaisaretehaikenai.
彼女の目に映る光が僕は眩しかった。
僕は何も見ていたくない。この世にあることは全て怖い。ただ唯一、彼女だけは例外だと思っている。
けれど彼女は怖がりじゃないから色んな物を見るし、そこから得た知識を僕に教えたりする。
やめてくれ。
そう言ったこともあった。彼女は言う事を聞いて黙ってくれることもあったけれど、しばらくしたらまた話し込んでくるし、僕が嫌だと言うことを無視してまで余計なことを口遊むこともある。
どうしたら彼女を独り占めできるのだろう。世間に彼女を取られたくない。
僕が欲しいのは意味なんかじゃない。
ただ、自由が欲しいのだ。
彼はもしかすると、世界中の全てが欲しいのかもしれない。
私には財産があるし、力もあるし、権力もあるし、何でもそろっていると自負している。小説だってたくさんある。知識もある。怖い話だっていっぱい知っている。
だけど彼はそれらの全てをもってしても笑顔になることがなくて、ただ暗い表情のまま私の顔をみるばかりだ。
目を見て話さない。
私には、彼が哀れに思えて仕方がない。
友達は言うだろう。馬鹿な真似はよせ、と。元来、友達とはそれを言うだけの人種だと思っている。
友達とは、僕の行動を制約する。それは規範。鬱陶しい。
なぜか?
それは君がよく知っているはず。
僕はそう思っている。
彼は、はっきりいってのろまだ。
考えることは好きなくせに結論を出さない。まるで迷うのが好きで迷路に入る気狂いのよう。
私は今ナイフを持っている。
ダガーナイフ。これで切ったものは今のところ何一つない。
例えばこれで人を切りつけるとしたら、どこがいいのだろう。首か肩か腰か。上手くすれば凝りが取れるかもしれない。
凶器の狂気は狂気で凶器ゆえに凶器は狂喜する。それが凶器で、もしくは凶器。
笑えない。
だんだんと話すことが嫌になってきた。
世間はいつも冷たい。そのくせ熱いことを僕に求める。僕はどうすればいいんだ。
結局なにも分からない。
分からないまま死んでいく。
死んだらどうなるのだろう。
幸せになれるだろうか。
それだけは真っ平御免だ。
彼を元気にするには、私は不必要なのかもしれない。
だってもう六年も一緒に居るのに私たちは一向に進展しない。むしろ衰退している。
この六年間で何か変わったか?
彼への殺意は止まらない。
それだけ好き。
この矛盾した気持ちを整理するためにはどうすればいいのだろう。このナイフをどうにかして使うべきだろうか。
手首を切りつけようか。
いいかい? 人間というのはだね、人間なのだよ。
人間は人間として生まれるが、何もしないでいると人間でなくなってしまう。
僕の言っていることは分かるね?
なに? 分からない?
じゃあ僕は人間じゃないのだろうな。死ね。
思想を持ってみようと思う。
幸いながら哲学については知識があるつもりだ。ソクラテスは処刑されて当然だと思うが、彼の残した知恵については賞賛せざるを得ない。
分からないことを正当化する。
みんな分からない。
私だけ分かる。
綺麗だ。とても綺麗。
哲学にこの身を捧ぐのも悪くない。ただそうすると、彼はどうなるのだろう。私が哲学について勉強している間、彼が何かするかもしれない。
彼は今、危うい。
自殺か他殺か。最悪、両方か。
私を殺してくれればいいのに。
さて問題だ。
僕の名前は何だろう。実をいうと、ここまでで大分ヒントを出していたのだ。もしかしたら分かる人もいるかもしれないな。
答え。
名前なんて無い。
名前。それについて考え出すと、私は気が狂いそうになる。
どうしてかって? 私には名前があるからだ。
名前のせいでひどくいじめられた。
名前のせいでやりたいことが出来なかった。
名前なんて概念、私には不必要だ。
名前なんて。
いい加減にしてほしい物だ。僕はうんざりしている。
世間ってやつはどいつもこいつも僕を分からない。これでも僕なりの考えがあるのだ。
人として生きようとしているのだ。
君らはいいね。人間でもないくせに人間の面をしている。これこそが人間でございと平然とのたまって、人間にあるまじき行動を取る。君らは何だ。神様にでもなっているつもりか。
僕は君らを許さない。いつの日か必ず復讐してやる。
必ず。
ご飯が出来た。
彼の口には合わないだろう。そう分かっていて作った。偶には彼を困らせたい。彼の苦い表情を見てみたい。
もしかしたら怒ってくれるかもしれない。
ナイフも持っていこうか。
もう一本くらい指を貰っても罰は当たらないだろう。
人間は泣けない。僕はそれを知っている。
泣いているような気がしている人は多いだろうが、本当のところは誰も泣いてはいないのだ。涙が出ることと泣くことは違う。
泣くと言う事は、心の底から感動するということ。
そしてこの世には、心の底から感動できることなんて何一つない。
誰も感動できない。
救えないな。
彼が立った。
歩き出して、私の横を通って行った。
何かが崩れ出した。
僕は見られている。
その実感はあるが、それに抗うことは出来ない。
見られていることを分かりながら恥を重ねるしかない。
神様? そんなものは居ない。
神は殺されたんだ。僕らが殺したんだ。
利口ぶっている僕らが神を殺したんだ。
そうだろうが!
衒学者こそが罰されるべき罪悪人だ。自分で利口ぶっている奴こそ最低だ。そういう奴こそ世界を滅ぼす。それも世界を救うつもりで世界を滅ぼす。
僕は、世界を滅ぼしたいと思いながら世界を滅ぼしたい。
そうすれば僕は神になれるだろう。そんなものなりたくもないが。
ねえ。
どこにいるの。
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。
分からない。
まったく無様なもんだ。
光はどこですか?
見えなくなってしまいました。
私は正しいのですか?
このまま進んで行っても大丈夫でしょうか?
この先を。
私は行きたい。
彼と一緒に生きたい。
嘘を見抜く能力にだけは長けているつもりだ。
彼女が嘘を吐いていることは見抜いている。
そもそも彼女が彼女だということ自体嘘だ。
どんどん嘘になっていく。
世界は嘘。
この世は黒。
真っ暗。
光は無い。
誰?
ここ。こここそが僕の居場所だ。
ようやく辿り着いた。
長かった。
これで落ちれる。おやすみだ。
どうにも世間は私と彼を変人扱いする。
友達は誰も居なくなってしまった。
でもそれでいい。
世間は敵。それは彼が教えてくれた事。
私はそれを信じて行きたい。
それだけが私の望み。
生きている理由。
もう目だってナイフで抉り取った。もちろん抉り出した眼球は食べ合った。彼は不味そうな顔をした。
見えないけれど、それだけは分かった。
嬉しい。
頂点と底辺は同じだ。
嘘である。
もうここに居る必要はない。
さようなら。
どこへ行けばいいのですか?
最後とは、どういう意味ですか?
始まりへと繋がるのですか?
ここにどういうことがありますか?
耳は煮えたぎる。そうして六時間前に進んで、僕らは歩んだ。起きた。やれやれ、どうやら夢を見ていたようだ。
夢から覚めるとまた夢だ。
金縛りにあっている。だからジョギングしよう。
暗いな。目がつぶれるくらいに暗い。
彼女はどこに居るのだろう。
会いたい。
逃げないと。ここから。
どうして、なのだろう? 辛い。こんな気持ちは初めてだ。
手に持っていたはずのナイフはどこかへ落とした。私には武器が無くて、持っていたはずのものを全て無くした。
いまあるのは服だけ。これだってすぐに脱がされるだろう。
どうして?
私は脱がされる。こんなことなら手を切り取っておけばよかった。
もちろん自分の手を。
笑えない。だけど怒れる。
こら!
こ、こここ、ここここここ、こここここ。
幸せを得るために歩こう。それこそが幸せだと思う。
問題はといえば、幸せの実態が見えないことだけだ。
キスをしよう。
結婚します。
愛。
愛。
もももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももも。