遺書
作者の遺書ではないです。あらかじめ申しておきます、駄文です。
さあ。自殺する前に私の事を今まで虐げていた奴らに何か大きな衝撃を残してやろうと筆を執った。
のはいいが、いまいち張り合いがない。
私の周りに対する憎悪もその程度だったのかと心底あきれてしまったが、その程度だからこそ死ぬのかもしれない。
そう。その程度だから。大きすぎる憎悪はそのまま生きがいに代わるものだ。
その程度の人生だったなあ。
人から気が違っているとか頭がおかしいとか言われても生き続けられたのは、憎しみのおかげかもしれない。
だがその憎しみさえあきらめに変わってしまっては、死ぬ他はないというものだ。
こんな馬鹿げた世界から「逃げて」いなくなるというのは少々口惜しい気もするのだが。
さて、そろそろ書くことも無くなってきたのだが、ここで残して逝く肉親に遺言というものも残しておこう。
一つ、葬式はいらない。身内だけで小さい葬式は自分で見に行ってもつまらないと思うから。
二つ、財産は勝手に持って行ってくれ。最も、遺せるものといえばこれから「呪われた家」と銘じられるだろう事故物件位のものだが。
三つ、いや、なんでもない。気にしないでくれ。
ところで幽霊になって化けて出る心配だが、しなくていいと思う。私はもう誰にも恨みはないのだから。
ここまでつらつらと取り留めもないことを書き連ねてきたが。
そろそろ死ぬ時間だ。
じゃあさようなら。来世にも期待しないでおくよ。
こんな変な遺書残して死んだやつがいたなあって、誰かがたまに思い出してくれれば、御の字だよ。
あ、でも嫁くらいは一生に一度くらいは欲しかったかな。
綺麗じゃなくてもいいけど、やさしい女性が。
嗚呼、急に寂しくなってきたじゃないか。どうしたものかなあ。
寂しく死ぬのはいやだなあ。
あ、この遺書も誰にも見つけられなければ無意味同然なんだなあ。
そもそも嫁がいれば死のうとも思わなかっただろうに。
まあ、死んだら向こうで嫁の一人や二人でも作れるだろう。
こういう笑えない冗談を言うところも私が嫌われる理由でもあったんだな。
...
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「ねえ、聞きました?あそこのお宅の主人、自殺されたそうですよ?」
「ああ、聞いたよ。馬鹿だなあ。生きていればいいこともあるっていうのに」
「そうね、でもあの人も普通に幸せそうだったのよ」
「お前も分かってないなあ。半端に幸せだから死ぬんだろう」
「あら、そうなの?」
「そうさ、なんなら私たちも夫婦無理心中でもしてみるかい?」
「笑えない冗談はやめて。悪い癖よ。それに、あなた私がいるのに『半端に』幸せなの?」
「ああ、そうだったそうだった。悪かったよ」
「まあ、本当に反省しているのかしら」
「知らないさ」
ああ、嫁一人いようがいまいが、まああまり変わらないものだなあ。
どれ、あいつが買い物に行ったら物置から筆を取って来ようか。
今度は踏みとどまる必要もない。なぜって、二人いるんだから、もう寂しくない。だろう?
駄文を読み飛ばしながらでもここまで書いてくださった方、ありがとうございました。