第4章 友達、ともだち、トモダチ
わたしは創られた『ヒト』です。
わたし、アスカは桜城アヤメさまのために創られました。
アヤメさまは私に容姿と名前をくださいました。
とてもお優しい方です。
他にはわたしに服をくれました。
わたしに喋りかけてくれした。
そう、アスカはアヤメ様のために存在しているのです。
暗い箱の中にわたしはいたのです。
そのときのわたしには名前などありませんでした。
『ドール』といういわゆる『エンジェィル』の基本体でした。
そして、たくさんある中のひとつからアヤメさまはわたしを選んでくださいました。
とてもお優しい方なのです。
「アスカ? そんあところでつったってなにやってんの?」
「アヤメさま! なんでもありませんわ」
「そ」
アヤメさまは本当にお優しい方なのです。
『エンジェィル』のわたしにさえ優しくお声をかけてくださるのです。
だからわたしはアヤメさまのために動くのです。
「アスカ、暇なら外行こうよ……暇」
皆さん誤解されますけど、アヤメさまは不器用なだけなのです。
「はいっ喜んでお付き合いさせていただきます」
「んじゃさー天空園行こ? あそこのクレープ美味いんだよ」
「分かりました」
「………アスカ、その格好で行くの?」
なにか問題があるのでしょうか?
一応この服はアヤメさまのお母様がプレゼントしてくださったものなんですけど。
アスカが着ている服は可愛いふりふりがついた、俗にいうメイド服。
アヤメが止めるのも無理はない。
「では、着替えてまいりますね」
*
アヤメさま。
わたしはあなた様にいいつくせないほどのお礼を抱えております。
ですので、もう少しだけお側にいさせてください。
最初、わたしは暗いお部屋にいました。
それはもう闇と呼んでいいほどの暗いお部屋。
でも奥のほうには緑色の光が弱弱しく光っていました。
そして小さい男の子のお声と、男性のお声が聞こえてくるのです。
わたしは残念ながら遠くで聞こえませんでしたが確かにそうでした。
わたしはその部屋で4、5ヶ月ほどいました。
それから『エンジェィル専門店 セピア』に並べられました。
いろいろなかたがいましたが中でもとても美しく光るガラスケースにはいっていた方が一番綺麗でした。
No.777の方です。
アヤメさまにご購入されてからはお会いになりませんがきっとアヤメさまのような素敵な方にご購入されていればいいなと思っております。
お話を戻しますが、アヤメさまにご購入された理由は簡単に言うと『お友達』としてだそうです。
アヤメさまは先ほど言ったとおり誤解されやすい人なのです。
わたしがはじめてここに来たときはお一人でいつもお寂しそうにご本を読んでおりました。
お声をかけても返事はなさらなかったのです。
でもご購入されて1週間くらいたったでしょうか?
初めてアヤメさまのほうからお声をかけていただいたのです。
それはもう天にも昇る気持ちでした。
「……あんたアンドロイドなんだって?」
「ええ、そうですよ」
アヤメさまのお声は嬉しそうでした。
前とは打って変わった優しさでしたがわたしは嬉しさのあまりさほど深くは考えませんでした。
「あんたの顔と名前、私がつけたんだよ」
「それはありがとうございました」
「アスカとアヤメ……似てるでしょ? 気に入ってくれた?」
わたしはとてもお優しい顔をなさっているアヤメさまを初めてみました。
でも不思議と違和感はありませんでした。
ただとてもお美しいと思いました。
「もちろんです。アヤメさま」
そう言うとアヤメさまは笑ってくださいました。
そして、わたしは思ったんです。
ああ、私はこんなお優しいお方にご購入されて幸せだと。
心から思いました。
「やっぱり、アスカならそう言ってくれると思った」
私はアヤメさまが大好きです。
とても言葉にい表すことが出来ないほど。
わたしが思い出にふけっているとドアの向こうからアヤメさまのお声が聞こえました。
「アスカ〜置いてくぞ」
「あー! お待ちくださいっアヤメさま!」
いいんです。
いつかわたしがいらなくなったときが来ても。
いまはまだ、お側にいさせてください。
*
「十八ぁっ外行こうよー」
十八は久しぶりの休みということで、まりやにどこに行きたいと聞いた。
「外、て………んじゃあ天空園に行くか? お前あそこのクレープ好きだったろ?」
十八は当然そうだと思って言った。
だがまりやはハテナマークを頭上に浮かべた。
「そうだった?」
そうか、記憶はまりやが死ぬ2年前のしかなかったのか。
ということはまりやの記憶では天空園のことは知らない……ああっ!ややこしい!
十八は頭をガシガシやりながら言葉にならない声を出す。
まりやはいまだ不思議そうに頭を傾かせていた。
やっとついた天空園は人であふれていた。
覚悟はしていた。
だが、まさかここまでとは……と十八は後悔する。
後の祭りだ。
「とーやークレープ! クレープ!」
「あぁ、はいはい」
はじめてきたからかすさまじいハイテンションだ。
『はじめて』というかきおくにないだけだが……。
「すいませんーチョコとストロベリーください」
「すいまそん。バナナとクリーム」
台詞がかぶった瞬間というのはなんとも気まずい。
ひょこっと十八の後ろからはまりや、アヤメの後ろからはアスカが顔をのぞかせた。
「どったのー?」
「どうかいたしましたかアスカさま!」
今日は台詞がかぶってばかりだ。
「はい、どーぞ。チョコとストロベリーのお客様と、バナナとクリームのお客様」
さすがアンドロイド。
仕事が早い。
四人が遠慮がちに受け取り、遠慮がちに代金を払う。
座る場所も自然といっしょになった。
「あのっ」
アスカがまりやに話しかける。
「ん、なーにアスカちゃんっ」
「その…………いいえ、あの、クレープ一口頂いておよろしいでしょうか?」
聞こうと思ったことは飲み込んだ。
言ってはいけないような気がしたからだ。
その選択は正しい。
まりやは笑顔でクレープをアスカに渡した。
「アスカちゃんのもちょーだいね」
「はい。どーぞ」
「あいつら仲いーな」
十八が遠めに二人を見る。
もう二人の世界というものだ。
少し切なくなった十八だが、せっかくできたまりやの友だちだ。我慢しよう。
「ねえ、あのこも『エンジェィル』?」
アヤメはクレープを食べながらしゃべる。
「も、てことはあんたのところも?」
「あーうん。そんなとこ」
残された二人もちらほらとしゃべる。
もっぱらまりやとアスカのことについての惚気話だ。
「だーかーら! まりやは可愛いんだっつーのっ! 料理上手いし、仕草も顔も可愛いしっ!」
「はあっ! うちのアスカのほうが可愛いんだっつうの! 料理なんてもうプロ並みだよ! あのしゃべり方とか萌えじゃない!」
「節穴っ!」
「趣味悪っ!」
意外と仲がいいコンビ。
十八にいたってはクレープがあるのを忘れて拳を握ってしまって大変なことになった。
*
そのいつかがくるまで、あなたのおそばにいさせてください。
わたしはもう心の準備ができておりますから。




