第2章 暗い闇の中で光る涙
最悪だ。
寝過ごした。
十八は髪をぐしゃぐしゃにしながらうなった。
「おーいまりやぁ! 起きろってっ」
隣で気持ちよさそうに眠っている恋人を起こす。
「んにゃ? もー朝?」
「朝? じゃねぇって、はあ。お前本当に朝駄目なんだな」
そっくりだ。
起きるときの変な奇声や、朝が弱いところやなにげに料理上手いところとか全部。
まりやは眠たそうに目をこすりながら朝食を作り始めた。
十八は急いで会社に行く準備をする。
今年でもう23才だ。
しかも、通っている会社はあのドーラル社、まりやを創った会社。
あれからもう半年、か。と十八は眠そうに朝食を作っているまりやを見てほほえむ。
最初の時は大変だった。
まだ体が慣れていないのか、慌ただしかったが今では完璧な『まりや』になっている。
「とーやーできたよー」
まりやがキッチンから十八を呼ぶ。
おいしそうなにおいが鼻をついた。
料理の腕は『変わってない』な……、と十八はうれしそうにいすに座る。
「んじゃ、いただきます」
二人で手を合わせて食べる。
これもいつもの習慣だった。
時計を見るともう後数十分で遅刻になる時刻だった。
十八は急いで朝食を平らげる。
「いってきまーす!」
まりやが手を振っていた。
*
私が生まれた場所は暗くて、暗くて、まるで深い海のようなところだった。
毎日何人かの話し声が聞こえてくる。
凄く不気味な場所。
たまにくすくすした笑い声もしてくる。
「これがNo.777体目の『エンジェィル』? 何が特別なんだ?」
少年の声が暗い部屋に響いた。
「綺麗な子だろ?」
そばで私を見ている少年より少し大人な声の青年が答えた。
少年は不服そうな声で反論した。
「それなら、他の『エンジェィル』と一緒じゃないか! こんなもののために、父さんはっ」
最後の言葉はよく聞き取れなかった。
青年はしゃがみ込むと少年の頭を優しくなでた。
少年の目には涙がたくさんたまって今にもあふれんばかりで、とても綺麗だったのを覚えている。
「違うよ。彼女はね、とても綺麗な子だよ。他の『エンジェィル』とは違うすっごく純粋な子なんだよ
大丈夫。君のお父さんは正しいことをしたんだ」
青年の優しい声も覚えている。
綺麗なガラスケースの中で私は待っていたのかもしれない。
目にたくさんの涙をためてなお、何かを我慢している少年に……会いたかった。
*
「ただいま」
「おかえりっとーや」
まりやは十八に飛びつきながら言う。
その反動で十八の体は後ろのめりになる。
このぬくもりはまさしく『ヒト』で、『エンジェィル』という人形とは思えなかった。
十八はまりやのぬくもりを感じながら抱きしめた。
本当に寂しかった。
「とーや? ご飯さめちゃうよ?」
まりやの不思議そうな声にはっとする。
「そだな、食べるか」
「うんっ!」
机の上には豪華な料理が並べられていた。
おいしそうなにおいが鼻をかすめた。
あの日からいつも一人だった。
広い部屋に立った一人置いて行かれた。
ただいまかと行っても誰も答えてくれない。
帰っても料理なんて無い。
寂しかった。
寂しくて、寂しくて、あの時。
ガラスケースの中でこの『エンジェィル』を見つけたとき死ぬほどうれしかったんだ。
やっと、見つけたんだと思った。
抱きしめたときのぬくもりに十八は安堵した。
いつも側にいる。
俺だけの『エンジェィル』……。
*
誰がどう考えて創った?―




