とある魔王城厨房室の一幕
厨房の中は喧騒に包まれる。
それでも調和が生まれているのは幸あれと想う者達一つの目的のためにが己が手腕を振るっているからかもしれない。
旨いものを食わせたいと・・・・・・・・・・
材料が包丁に叩き切られる鼓動が律動となるのなら、火力に任せて舞い上がる具材はそれに合わせる旋律。数多の鍋からは和声を奏でながら調理人の腕から生まれる世界を彩る。
厨房の音が対位法によって一つの世界を奏でるようにそこにある食材達や料理が醸し出す香りもまた美味ならんと世界を紡ぎだす。
香草が刻まれるたびに爽やかな香りを送り出せば獣から発せられる血の匂いが遠く忘れられた野生を呼び起こす。遠く潮騒の欠片が仄かな苦味のする塩を用いて幻にも等しい波の音を思い起こさせるならば遥かに深く地の底からの紅き岩塩は純然たる大地の歴史を書き記す。
数多くある鍋は遠く東方の美妓のごとき香りを絡み合わせる。艶かしく一度これを得たならば虜にされそうなほど。
「その料理は狼憑や獣人達向けにアリウムを抜いとけと言ってあるだろう!!」
「そっちは、海神教徒向けに陸の産物を使うんじゃない!戦争でも熾したいのか!!」
「馬鹿野郎!!そこでタバカムを入れるんじゃない!!殺すつもりか!!」
そこで供せられる数多くの料理は食べることに制約を持つ異種族達のためのもの、この宴に興亡の一戦であるとばかりに料理人達は厨房を戦場と見立てて動き回る。
実際に宴の失敗で戦となり国政に負担をかけることが前例にあるだけに彼らの働きに気合が入ろうもんだ。
万全に万全を重ねことに望もうとしているところであっても綻びが出るものだ。
「料理長!! 吸血族用に用意した処女なんですが、淫魔族の馬鹿給仕がつまみ食いしやがって!!膜が破られています!!」
「あのアホダレが!!」
「処女の用意ができてないのですが・・・・・・・・・・・ どうしましょう?」
「処女はまだ何とか・・・・・・・地下牢に姫君とかとらわれて居ただろう!!」
「そ、それが・・・・・・・・・・・・・ 牢番の鬼族とネンコロになりまして5ヶ月目なんで・・・・・・・・・・・姫君は王族から抜けてわが国に帰化してしまうそうなんで・・・・・・・・・・」
「一緒に捕らえた侍女達は・・・・・・・ うちの若い者を撃墜しまくっているなぁ・・・・・・・ ところで彼女らに撃墜された妖魔族の見習いはまだ復帰できんのか?」
「彼は彼女等に弄ばれた精神的外傷からか故郷に戻って療養中でありますが、それよりも宴の食材はどうするのです?」
そこは問題である・・・・・・・・・・・
数多くの種族がある中で一つの種族に配慮しないと言ううことはそいつに対してイラネーんだよこの劣等民族がお前なんか東端半島のアイゴーアイゴー叫ぶ人もどきも同然だろうと侮蔑するに等しいのだ。
しかも吸血族と言えば数こそ少ないが古くからの種族だし蔑ろにしてはいけないし・・・・・
うーむ、どうしたものか・・・・・・・・・・
「料理長! 少々栄養状態がわるいかもしれませんが戦役奴隷の中から女騎士とか」
「それならば邪妖精が囲っている幼女のほうがまだ珍味として・・・・・・・」
「今からひとっ走りしてさらって来ますけど・・・・・・・堅物神職の女祭司」
あの極上の者からは一歩劣るが色々揃えてためしと言う趣向も悪くなかろう・・・・・・・・・・・・
だめならば他の種族だって血を嗜む者があるわけだし、それで行こう!!
「で、吸血族向けの主菜はこれでいいのですが淫魔族の給仕はどうします?」
・・・・・・・・・・・
そりゃぁ、彼も処女(?)だし 男色鬼か魔女の婆様に喰わせるか(邪笑)
この宴も何とか乗り切れそうである。