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【続編】断罪されたら幼女になりました……って、ちょっと待って!断罪の場で幼女化したら、完璧令嬢の化けの皮が剥がれました!?~完璧令嬢を演じていたのに、幼馴染の氷の貴公子だけが全部知っています!~

作者: しろ
掲載日:2026/09/18

 呪いが解けてから二週間、わたしはすっかりいつもの調子を取り戻していた。


 もちろん、「格好いいお姉様」の仮面も完璧に――と言いたいところだが、実のところあの日以来、社交界での扱いが微妙に変わってしまっていた。


「ローゼリア様、こんにちは」


 すれ違う令嬢たちが、なぜか以前より柔らかい表情で挨拶してくる。以前なら「氷の薔薇」に相応しい、多少の緊張を含んだ挨拶だったはずなのに。


「……何かしら、この空気」


「幼女になった君の噂、まだ広まってるんだろ」


 隣を歩くダミアンが、いつもの無表情でぼそりと言った。


「ダミアン! それ、あなたが言いふらしたのではございませんの!?」


「言いふらしてはいない。ただ聞かれたら答えているだけだ」


「それを言いふらしていると言うのですわ!」


「事実だからな」


 淡々とした返しに、思わず頭を抱えたくなった。あの日以来、わたしの「格好いいお姉様」のイメージは、「意外と可愛い天然」という新しい評判に塗り替えられつつある。


「それより」ダミアンが不意に足を止めた。「マチルダ嬢の処分、正式に決まったらしい」


「あら、どうなりましたの?」


「留学生令嬢への嫌がらせの罪で、社交界から三年間の追放。それと、家からも当面の間、勘当同然の扱いを受けるそうだ」


「まあ、随分と厳しい処分ですこと」


「自業自得だろう。呪いの品まで用意して、他人を貶めようとしたんだ」


 その日の午後、マチルダ嬢本人と偶然すれ違った。以前の勝ち誇った様子は見る影もなく、すっかりやつれた顔で俯いている。


「ローゼリア様……」


「あら、マチルダ様。お元気そうで何よりですわ」


「よくもそんな……! わたくしを、こんな目に遭わせて……!」


「あら、わたくしを幼女にして恥をかかせようとしたのは、どなたでしたかしら」


「うっ……」


 マチルダ嬢は言葉に詰まり、逃げるようにその場を去っていった。


「ざまあみろ、とは言わないのがローゼリアらしいな」ダミアンがぼそりと呟く。


「あら、言いたい気持ちはございますのよ。淑女として自重しているだけですわ」


「素は転んでばかりのくせに」


「それは今、蒸し返さなくてよろしくてよ!」


 そんな日々を過ごしていたある日、新たな騒動が持ち上がった。


「ローゼリア・ヴァレンタイン公爵令嬢! お前に問いたいことがある!」


 夜会の会場で、見知らぬ令嬢――エヴリン・ソーンウッド伯爵令嬢が、突然声を張り上げた。


「あら、初めましてかしら。何のご用件ですの?」


「とぼけるな! お前が幼女になった際、わたくしの婚約者に色目を使ったという噂を聞いたぞ!」


「……はい?」


 予想外すぎる罪状に、思わず聞き返してしまった。


「幼女の姿で、殿方を誑かすなど言語道断! この恥知らずが!」


「あの、エヴリン様。まず確認したいのですけれど、わたくしが幼女だったのは、呪いをかけられていたわずか数日間ですのよ」


「関係ない! 誑かしは誑かしだ!」


 会場がざわめく。あまりにも突飛な言いがかりに、周囲も戸惑いを隠せない様子だった。


「そもそも、わたくしがその期間、どなたの婚約者と接触した記録がございますの?」


「そ、それは……噂で聞いた!」


「噂の出所はどなたですの?」


「……マチルダ様よ」


 会場が一斉に「ああ、なるほど」という顔をした。


「エヴリン様」わたしは扇を広げ、努めて優雅に微笑んだ。「マチルダ様は先日、嫌がらせの罪で社交界から追放処分を受けた方ですわよ。その方の噂を、そのまま信じておしまいになりましたの?」


「な……!」


「ちなみに、その期間わたくしがずっと屋敷で療養していたことは、ダミアン卿が証人になれますわ」


「事実だ」ダミアンが淡々と付け加える。「ローゼリアは幼女の姿のまま、屋敷でずっと転んでいた。誰かを誑かす暇などなかった」


「ダミアン! その情報は不要ですわ!」


 会場から、こらえきれない笑いが漏れた。エヴリン嬢は顔を真っ赤にして、何も言い返せずにいた。


「エヴリン様。次からは、噂の出所をよくお調べになった方がよろしいですわ。信頼できない方の言葉を鵜呑みにすると、今回のように恥をかくことになりますもの」


「くっ……! 覚えていらっしゃい!」


 捨て台詞を残して去っていくエヴリン嬢を見送りながら、わたしは小さくため息をついた。


 それから数日後。


 わたしのもとへ、少し変わった報告が届いた。


「ローゼリア様、マチルダ様の件ですが……どうやら、ご実家の方でも少々揉めているようです」


「まあ。まだ何かございましたの?」


 侍女から聞かされた話によれば、マチルダ嬢は社交界から追放されたことで、これまで彼女の周囲に集まっていた令嬢たちからも、次々と距離を置かれているらしい。


 しかも、それだけではなかった。


「実は、マチルダ様が以前から吹聴していた『ローゼリア様は傲慢で、周囲の令嬢を見下している』という噂について、皆様が改めて調べ始めたそうです」


「……あら」


 思わず目を瞬いた。


「それで、どうなりましたの?」


「ほとんどが事実無根だったと判明したようです。むしろ、マチルダ様がご自身の失敗をローゼリア様のせいにしていた事例まで、いくつも出てきたとか」


「まあ……」


 呆れるというより、なんとも言えない気持ちになった。


 わたしが何か反論するまでもなく、彼女自身が積み重ねてきた嘘が、ひとつずつ崩れ始めている。


 そして、その日の夕方。


 王都の仕立て屋からも、思いがけない話を聞くことになった。


「マチルダ様から大量にご注文いただいていた品ですが、すべてキャンセルになりまして」


「キャンセル?」


「はい。ご実家から『今後、マチルダ様個人への請求は受け付けない』との連絡がありましたので」


「……徹底しておりますのね」


「当然です。社交界から三年間追放となれば、これまでのような生活を続けるわけにはいきませんから」


 なるほど。


 表向きの処分は「三年間の社交界追放」。


 けれど実際には、それだけでは済まない。


 夜会に呼ばれない。


 友人たちは離れていく。


 店も今まで通りには相手をしてくれない。


 そして何より、自分がこれまで利用していた「家柄」という後ろ盾まで失いかけている。


 誰かに手を下されたわけではない。


 ただ、自分が選んだ行動の結果が、静かに返ってきているだけだ。


 その翌週、街で偶然マチルダ嬢の姿を見かけた。


 以前なら取り巻きを何人も従えていた彼女は、今では一人きりだった。


 こちらに気づいた瞬間、マチルダ嬢の足が止まる。


「……ローゼリア様」


「あら、マチルダ様」


「あなたは……わたくしがこんなことになって、満足なのでしょうね」


「どうして、わたくしが満足する必要がございますの?」


「だって、あなたは何もかも奪われて……」


 そこでマチルダ嬢は口を閉ざした。


 自分の言葉で、自分が何を言っているのかに気づいたのだろう。


 わたしは静かに扇を閉じた。


「マチルダ様。わたくしは、あなたから何も奪っておりませんわ」


「……」


「あなたが失ったものは、わたくしが奪ったものではなく、あなた自身の行動によって失ったものですもの」


「そんな……」


「もし、あの日わたくしに呪いをかけることなどせず、誰かを陥れるような噂も流さず、素直にご自身の人生を歩んでいらしたなら――今も、あなたは同じ場所にいたのではありませんか?」


 マチルダ嬢の顔から、みるみる血の気が引いていく。


「……わたくしは……」


 何か言い返そうとしたのだろう。


 けれど、結局は何も言葉にならなかった。


 わたしはそれ以上責めることなく、彼女の横を通り過ぎる。


 背後から、小さな声が聞こえた。


「……どうして、そんなに平然としていられるのよ」


 わたしは振り返らなかった。


 ただ、少しだけ足を止めて答えた。


「平然としているのではありませんわ。もう、あなたのしたことに心を乱される必要がなくなっただけですもの」


 そう告げて、今度こそ歩き出した。


 背後から呼び止める声は、もう聞こえなかった。


 ――そしてこの日を境に、マチルダ嬢の名を社交界で口にする者は、ほとんどいなくなった。


 悪評さえも、話題にされなくなったのだ。


 それこそが、彼女にとって何より堪える結末だったのかもしれない。


 ーーー


「まったく......次から次へと」


「お前は敵を作りやすい体質なんだろうな」


「褒めておりませんわよね、それ」


「褒めてはいない。事実だ」


「その言い回し、いい加減やめてくださいまし」


 ダミアンは珍しく、小さく口の端を上げた。


「ローゼリア」


「なんですの」


「お前が幼女になった時、正直、少し心配だった」


 思いがけない言葉に、思わず言葉を失った。


「……ダミアンが、心配、ですの?」


「呪いの効果が、本当に一時的なものか分からなかった。もし戻らなかったら、と考えると」


「まあ……そんなこと、おくびにも出しませんでしたのに」


「顔に出す意味がない。ただ、戻ってきて、正直安心した」


 普段は感情の起伏をまるで見せない彼の、その珍しい素直な言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなった。


「ダミアン、あなた、たまにそうやって不意打ちで優しいことを仰るの、ずるいと思いますわ」


「不意打ちのつもりはない」


「それが余計にずるいのですわ」


 くすりと笑うと、ダミアンも珍しく釣られたように、わずかに口元を緩めた。


 ――こうして、幼女化騒動の余波は、思いがけない形で新しい絆を育みながら収束していったのだった。


 だが、マチルダ嬢を裏で操っていた本当の黒幕については、まだ誰も気づいていなかった。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 もし少しでもスカッとしたり、ニヤッとしたりしていただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、次の話を書く一番の励みになります!


 感想コメントもお待ちしております!

 

 まだまだ書きたいことがございますので、よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!


 それでは、また次のお話でお会いしましょう!

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