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俺をクビにしようとした同僚と上司、全部ログ残ってるんですが?

作者: ガックン123
掲載日:2026/04/17

「会社のお荷物なんだよ」


そう言われても、何も言い返さなかった。


功績を奪われても。

仕事を押し付けられても。

すべて、黙って受け入れていた。


――ただ、記録だけは残していた。


そして、ある日。


たった一つのミスが、すべてを崩壊させる。


これは、静かに耐え続けた男が

“何も言わなかった理由”が明らかになる物語。

「川口君、今夜ご飯行かない?」


林ミライが、小さな声で言った。


定時前のオフィス。

ざわつく中で、その一言だけが妙に鮮明に響く。


「ああ、いいね。今日は残業もなさそうだし」


思わず顔が緩む。


その瞬間だった。


「へぇ、飯?」


横から割り込む声。


――宇井だ。


「相談なら俺も乗るけど?」


当然のように二人の間に入ってくる。


林の表情が、一瞬だけ曇った。


「……いえ、今日は川口君に――」


「こんな奴に相談しても意味ないでしょ」


被せるように言う宇井。


「それじゃ、俺も行くわ」


勝手に決める。


「ちょっと待てよ」


思わず声が出た。


「林は俺に用事があるんだろ」


「はぁ?空気読めよ」


鼻で笑う。


「どう見ても林さんは俺と行きたいに決まってんだろ」


空気が止まる。


「な?正直に言っていいよ?」


距離を詰める宇井。


林は目を伏せる。


「……やめてください」


小さく、しかしはっきりとした声。


「そういうところが無理なんです」


一瞬、宇井の表情が崩れる。


だがすぐに笑う。


「はは、冗談だって」


軽く流す。


「それとさ」


宇井がファイルを置いた。


「この資料、今日中にまとめといて」


「……それお前の仕事だろ」


「チームの仕事だろ?」


軽く笑う。


「俺、今日は用事あるし」


「自分の仕事ぐらい自分でやれよ」


そう言った瞬間――


「みんな聞いてくれ」


宇井が声を張り上げる。


「川口がさ、俺に仕事押し付けてくるんだよ」


ざわ、と空気が揺れる。


「この前のプロジェクトもさ」


にやり、と笑う。


「俺がいたから成功したようなもんだろ」


「川口は何もしてねぇよ」


周囲の視線が逸れる。


分かっている。


誰が何をやっていたか。


それでも誰も言わない。


「な?」


宇井が見渡す。


沈黙。


それを肯定と受け取る。


「川口は会社のお荷物なんだよ」


静まり返るフロア。


「川口君」


課長の声が落ちる。


「また君は、他人に仕事を押し付けているのか?」


終わってるな、この会社。


そう思った。


だが、何も言わなかった。


ポケットの中で、スマートフォンを握る。


まだだ。


その数日後。


社内コンペの発表日。


「今回の企画は――俺の案です」


宇井が堂々と言い切った。


「確かに最初は川口が考えてた」


軽く手を振る。


「でもな、あのままじゃ通らなかった」


周囲がざわつく。


「方向性も甘いし、詰めも足りない」


ため息をつく。


「だから俺が仕上げた」


口元が歪む。


「アイデアは通して初めて価値になるんだよ」


俺を見下す視線。


「そういう意味じゃ、これは俺の案でいいだろ?」


沈黙。


誰も否定しない。


「まぁ、ああいうのってさ」


肩をすくめる。


「才能ある奴が仕上げないと埋もれるだけなんだよ」


「……それは違います」


林が一歩前に出た。


「その案は川口君のものです」


一瞬、空気が揺れる。


だが宇井は笑う。


「で?証拠あんの?」


余裕のにやけ顔。


「ログなんてどうとでもなるだろ」


そのときだった。


「失礼します!」


営業の若手が飛び込んできた。


「東和ライティング株式会社からです!」


フロアが緊張する。


「本日納品のLEDが、注文数より大幅に不足していると!」


ざわっ、と空気が揺れる。


宇井は一瞬眉をひそめ――すぐに笑った。


「またやらかしたな、川口」


「もうお前クビだろ」


その瞬間。


数人が宇井を見る。


「宇井さん」


若手が言う。


「その発注……宇井さんのIDで処理されてます」


空気が止まる。


「待て」


課長が口を挟む。


「その件は私の指示だ。」


宇井の顔に安堵が浮かぶ。


「ほらな?」


にやり、と笑う。


「…川口君、説明してくれ」


課長の醜悪な顔が俺に向けられている。


だが――


「必要であれば」


林が静かに言う。


「相手担当者にも確認を取りますが」


宇井の笑みが、止まる。


「……は?」


宇井の声が、わずかに揺れた。


その変化を――

課長は見逃さなかった。


(……まずい)

課長の背筋に、冷たいものが走る。


(これは……さすがに庇い切れん)

視線だけが、わずかに揺れる。


(ここで下手に庇えば……ワシまで巻き込まれる)

喉が、ひくりと鳴った。


(……切るしかない)

ほんの一瞬で、結論は出ていた。


「……宇井」

「確認した際、“自分が処理します”と言っていたな」


静かな圧。


宇井の顔が引きつる。


声のトーンが変わる。


さっきまでとは、明らかに違う。


「これはどういうことだ?」

突き放すような一言。


宇井が顔を上げる。

「か、課長……?」

その目には、理解できていない色が浮かんでいた。


だが――

課長はもう、見ていなかった。


逃げ場はない。


「……クソが…ふざけるなよ!」


宇井が課長を睨む。


そのとき。


「何の騒ぎだ」


部長が現れた。


事情を聞き――


「宇井、そして課長」


静かな声。


「お前らの事は、内部調査と社員のヒアリングで全て把握している。」


「異動だ」


「地方支社でやり直せ」


完全な終わりだった。


数日後。


仕事終わりの帰り道。


「……お疲れ様です」


林が少し照れたように言う。


「お疲れ」


少しぎこちない沈黙。


「……あの時は、ありがとうございました」


「いや、林さんのおかげだよ」


(証拠……出すまでもなかったか)


小さく息を吐く。


(まだ、捨てたもんじゃないな)


川口は、わずかにはにかんだ。


少しの間。


「……あの」


林が立ち止まる。


「これからも、一緒にご飯行きませんか?」


一瞬、意味を考える。


「それって――付き合うってことでいいのか?」


「……っ」


頬が赤くなる。


「……嫌ですか?」


「いや」


首を振る。


「むしろ嬉しい」


その瞬間。


林は、はっきりと笑った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


スカッとした、と思っていただけたなら嬉しいです。


理不尽な状況でも、最後にひっくり返る瞬間って気持ちいいですよね。


もし少しでも楽しんでいただけたら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


また次の作品でお会いできたら嬉しいです。

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