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第十一話

  『……お昼のニュースをお伝えします。__県__市で、十七歳の少女が遺体になって発見されました。警察はこの件については、ここ最近起こっている連続誘拐殺人の犯人と同一であると発表しました。この事件は同県に住む同じ十七歳の少女が無傷で生還したことでも__』

  ブツッ。

  「……沙英、だ、大丈夫……?」

  友は心配そうに、リモコンをテレビに向けて肩を上下させている沙英に聞いた。

  「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

  沙英は荒れている呼吸を必死に抑えようとすることに必死で、友の言葉が聞こえなかったようだ。彼女はニュースが流れたと同時に嫌な汗が流れてきて、気がついたら友の母親からリモコンをひったくっていた。

  「どうしたの、沙英ちゃん?」

  「……っ。ごめんなさい、おばさん……」

  ようやく心配する二人の姿に気が付き、沙英は慌ててリモコンを返した。

  「……ニュースは、やめとく?」

  「……いえ。大丈夫、です」

  本当は全然大丈夫ではなかった。また、車の時と同じように頭の中が真っ白になった。それでも、沙英は友の母親に変に思われたくない一心で、強がった。

  「そう。なら、続きつけるけど、いいかしら?」

  「……はい」

  「沙英、あんまり無茶は……」

  「いいの、友」

  沙英は心が弾けそうになるのを無視し、無理矢理微笑んだ。

  「私は、普通の女の子。……そうでしょ?」

  「……」

  友は何も言えなくなった。あれだけ普通であろうとした沙英に、警察官と同じようなことを言うわけにはいかない。けれど、言わなければ何か大変なことになりそうな予感がする。彼女は二つの思いの間で揺れ、ついに答えが出せなかった。

  「……やっぱり、やめておこうかしら。辛そうだし、ね?」

  「……っ、だ、ダメです。私は、普通なんです。たかがニュースぐらい、どうってことありませんッ!」

  沙英は普通でありたかった。つい最近までは何も問題なくニュースだって見れていた。それなのに、事件が終わってから、それができなくなった。それが沙英には許せなかった。まるで、事件が自分の人生全てを支配しているような感覚に襲われ、不安になるのだ。沙英は普通に戻りたいし、戻らなければならないと思っていた。その思いに囚われていると言ってもいい。普通でなければもう自分はまともな人生を歩めない……そんな強迫観念に、沙英は縛られていた。

  だから、沙英は慈亜の手からリモコンを選び、テレビの電源をつけた。ブラウン管に一瞬で電気が通じ、飛ばされていた電波を受信し、情報を三人に伝える。

  『……ここに、テープがあります。……その、犯人を名乗る人物から送り届けられたものです』

  ピクリ。沙英はもちろん、沙英も慈亜も動きを止めた。

  『……では、お聞きください』

  ニュースキャスターが引きつった表情で言った。それと同時に、カチリと音がしたあと、テープを流す時の独特のノイズが流れる。

  『こんにちは、お茶の間の諸君』

  その声は変声機で変えられたのか、不自然に低くなったり高くなったりを繰り返していた。

  『さて、今日は犯行声明を出そうかと思っている。……ふふふ、日割  沙英。待っていてね、すぐ、遊んであげるから』

  カチャリ、と大きな音がすると、次に風の音がした。録音機を持ち上げ、移動しているのだろう。

  『……こんな風に』

  そう犯人が言うと、次の瞬間。

  少女の絹を裂くような悲鳴が、全国区に流れた。

  『うるさいなぁ』

  回転する機械が駆動する時の甲高い音がしたあと、大量の水が噴き出した時の音がして、少女の悲鳴が一層強くなった。

  『ゆ、ゆるし、許して、許してください……。も、もう、や、やめてください……なんでも、しますから』

  『だ~め』

  少女の必死な命乞いを軽く蹴った。

  『全国の諸君、これはなんでしょう?』

  機械が金切り声をあげるように唸る音。

  『や、やめて、やめ、おねが、なんでも、なんでもしますから』

  『答えはチェーンソーでしたっ!』

  例えようもないほど悲痛に満ちた断末魔が流れ……。あらゆる音が一度途切れる。けれど、ノイズはまだ止まらない。

  『沙英ちゃん、待っててね。すぐに遊びにいくから』

  今度こそ、ノイズも含めて全ての音が切れた。

  『……』

  終わったにも関わらず、ニュースキャスターは何も言わない。

  このニュースを見ているであろう全ての視聴者と同じ様に、目を見開き、絶句していた。

  『……おい、おい!  貴様ら何流してる!  捜査撹乱だぞ!』

  『え、あ?』

  男の低い怒鳴り声がしたかと思うとーー

  『しばらくお待ちください』

  予定調和のように、暗転した画面一杯にその文字が浮かんだ。

  「……さ、沙英」

  友は慌てて、沙英からリモコンを奪い、テレビを切った。

  奪われた当の沙英は、完全に無反応だった。目は普段と変わらないが、その瞳は完全に光を失い、どこも見ていない。意識があるのかさえ、不明である。

  「……沙英ちゃん?」

  慈亜が沙英の前で手を振っても、全くの無反応。

  「……とりあえず、寝かせてあげましょうか」

  慈亜の提案に、友は頷いた。

  「友はお布団の準備をしてくれるかしら?」

  慈亜は沙英をお姫様にするように抱き上げた。

  「……すごい力持ち」

  「この子が軽すぎるのよ。あなたの半分ぐらいじゃないかしら?」

  「……二十キロ?」

  「親にサバ読んでどうすんのよ。この子、大体二十五キロ後半強、ってところかしら?」

  「私そんなに体重ないよっ!」

  頬を膨らませた友に、慈亜は微笑んだ。

  「わかってるわよ、それくらい。この子も多分四十キロあるかないか……とにかく、痩せすぎよ。ずっと不安だったんでしょうね。あなたが、ううん、私たちが笑って、気持ちを引き上げてあげないと……」

  優しげな顔を沙英に向ける慈亜。笑顔を向けられても、沙英は何も反応せず、ただ虚ろな瞳でどこでもないどこかを見つめるだけだった。

  「……大丈夫かな、沙英」

  友は慈亜に聞いた。あまりに沙英の様子が変わったので、不安なのだろう。

  「……わからないわ。ずっとこのままお人形さん状態、かもしれないし」

  お人形さん状態。慈亜は自分で言って後悔した。何で友を不安にさせるようなことを。

  「ほら、ついた。友、お布団よろしく」

  「……うん」

  友は客室の扉を開けると、中のベッドを綺麗に整える。

  「できた」

  「これくらい綺麗なら沙英ちゃん安心できるかもね」

  そっと沙英をベットに寝かせると、慈亜は少し表情を引き締めた。

  「さ、友。少し話をしましょうか。リビングへ行きましょう」

  慈亜が促しても、友は動かなかった。

  「いや!  ここで沙英を見とく!」

  「気持ちはわかるけど、言わなきゃいけないことがあるの」

  「……でも」

  「お願い。……ね?」

  慈亜がこの場面で話があると言ったのだ。まさか世間話をしようとしていわけではないだろう。それくらいは友にもわかる。けれど、何を話そうとするのか……。それが友にはわからなかった。

  「……沙英ちゃんのことに、関係するのよ」

  それを聞いて、友は決めた。

  「……わかった。でも、悲鳴が聞こえたらすぐに行くからね、いい?」

  「ぜひそうしてあげてちょうだい。さ、行きましょう」

  優しげに友の肩を抱くと、慈亜は客室から出て、リビングへと戻っていった。

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