第3章 クリスマスの夜 ― 婚約指輪 ―
ツリーの灯り、手作りのケーキ、笑い声。
いつものクリスマスが、今年は少し違う――
それは、ひとつの小さな箱に込められた想いがあったから。
ぽかぽか邸のリビングには、
凪が選んだ小さなクリスマスツリーが飾られていた。
赤と金のオーナメントが、やさしく灯るイルミネーションの光を反射してきらめく。
キッチンからは、ローストチキンの香ばしい匂いと
焼き上がったばかりのケーキの甘い香りが漂っていた。
「できました〜!」
環がエプロンを外して笑顔でテーブルに皿を並べる。
その横で、凪が張り切ってシャンメリーを開けた。
「メリークリスマス!」
「おい、飛ばすなよ。危ないから。」
柊が少し眉を上げながらも、口元は笑っていた。
グラスを合わせて、
3人で「かんぱーい」と声を揃える。
ぽかぽか邸に、笑い声が広がった。
「このサラダ、凪くんが作ったんですか?」
「はいっ! 盛りつけだけですけど!」
「お皿の上、星型のニンジンかわいいですね〜」
「でしょう? 環さんのまねしました!」
柊はそんなふたりのやりとりを眺めながら、
“家族って、こういうことなのかもしれないな”と思っていた。
食後には、手作りのケーキ。
「苺、盛りすぎじゃないか?」と柊が言えば、
凪が「クリスマスですから!」と笑って返す。
環はフォークでケーキをひと口すくい、
「はい。柊。あ〜ん。」
「お!あ〜ん。うん。おいしい。じゃあ、お返し。 環。あ〜ん。」
「あ〜ん。ふふ。おいしいです。」
「あーいいな〜。環さん、僕もあ〜んしてください。」
「はい。凪くんもあ~………あ、柊………」
柊が凪の口にケーキを入れ
「あ~ん。え!柊先輩!」
「ははは……。環のあ~んは俺専用だからな。」
「え〜ズルいですよ〜。僕だって環さんのあ~んほしいです〜」
「おまえには、やらん。」
「環さ〜ん。なんとか言ってくださいよ〜」
環は2人のやり取りを見て笑いが止まらなくなった
「ふふ。じゃあ、柊が見ていないときにしましょうね。」
「わ〜い。」
「ちょっ…環、ダメだぞ。こいつにあ~んはやるな」
「はいはい。わかりました。柊、はい。あ~ん。」
「あ~ん。うん。おいしい。」
「も〜柊先輩ばっかり〜」
「甘すぎるけど、幸せな味ですね」と笑った。
プレゼント交換の時間。
凪はふたりにフォトフレームを渡した。
「これ、3人の写真入れてください!」
「ありがとう、凪。」
柊から環へは淡いベージュのマフラー、
環から柊へは手編みの手袋。
「手、冷やさないでくださいね。」
「……ありがとう。大切にする。」
リビングには笑顔が満ちていた。
この時間がずっと続けばいい――
そう思えるほど、穏やかでやさしい夜だった。
やがて凪が眠気に負けて、
「おやすみなさい〜。サンタさん来ますように!」と部屋に引っ込む。
静かになったリビングに、
ツリーの灯りだけが残った。
◇◇◇
柊は少し息を吸って、
ポケットの中の小さな箱を取り出した。
「環。」
「はい?」
「これ……受け取ってほしい。」
箱を開けると、中には小さな指輪。
ツリーの灯りが反射して、淡い光が環の指に落ちた。
「え? これ……指輪ですか?」
「そうだ。」
「……なんの指輪ですか?」
柊は思わず笑って、
「……婚約指輪だよ。」
「え? 婚約指輪ですか?
ふふ。ありがとうございます、柊。ちゃんと受け取ります。」
「……そうか。ありがとう。受け取ってくれて。」
柊はそっと環の手を取り、指輪をはめた。
光が2人の間でやわらかく揺れる。
「ステキですね~。婚約指輪って。なんかぽかぽかしますね。」
「……そういうところ、環らしくていいな。」
「え?」
「おまえがそうやって自然に笑うところ、好きだよ。」
環は照れくさそうに笑い、
「柊って、やっぱりくすぐったいセリフサラッと言いますよね。」
「お互いさまだろ。」
「えー、そうですか〜」
そして、ふと環が真っすぐに柊を見つめた。
「柊は、いつから結婚って考えてたんですか?」
「いつからだろな……。気づいたら、環とずっと一緒にいたいって思ってたな。」
「私も、柊とずっと一緒にいたいって思ってますよ。
もしかしたら、柊を初めて見たときからそう思ってたのかもしれません。」
柊は少し驚いて、それからやわらかく微笑んだ。
「……そうか。俺も、たぶん最初に環を見たときから、そう思ってたのかもしれないな。」
「私、柊に出会えてよかったです。
昔の私には、こんな未来がくるなんて思ってなくて。
未来が見えなかったんです。」
柊は黙って彼女の手を包み込む。
「でも、柊に出会ってから、私は今とっても幸せです。
ありがとう、柊。」
柊の目がやさしく細められる。
「……俺のほうこそ、ありがとう。環。」
外の雪は、いつのまにか静かに降り積もっていた。
ツリーの光が窓に反射して、
その白い夜をやさしく照らしていた。
指輪は約束のしるし。
けれど、それ以上に“信じる気持ち”の証。
ぽかぽか邸のクリスマスは、やさしさと笑顔で満たされていました。




