第1章 凪のひとこと
休日の午後、リビングに流れるのはコーヒーとクッキーの香り。
ぽかぽか邸のいつもの日常から、この物語は静かに始まります。
何気ない凪のひとことが、柊の胸の奥に小さな火をともす瞬間です。
午後の陽だまりが、ぽかぽか邸のリビングをやさしく包んでいた。
テーブルの上には、淹れたてのコーヒーと焼きたてのクッキー。
休日の午後らしい、ゆるやかな空気が流れている。
凪はマグカップを両手で包みながら、
ぼんやりと冬空を眺めていた。
やがて、思いついたように言葉をこぼす。
「柊先輩って、環さんと結婚しないんですか?」
コーヒーを飲んでいた柊は、思わずむせそうになった。
「……いきなりだな。」
「だって、もう1年以上一緒に住んでるじゃないですか。
ふたりとも仲いいし、結婚してるみたいだけど、結婚しないのかなぁって。」
凪は悪気も打算もなく、
ただ思ったことをそのまま言っている。
その素直さに、柊は小さく笑った。
「……おまえな。」
「だって僕、ふたりのこと家族だと思ってますから!」
凪はそう言って、にこっと笑う。
「あ!でも、結婚しても僕、一緒に住んでいいですよね?
家族ですもん!」
柊はカップを置き、
しばし|凪の顔を見つめた。
その真っ直ぐな目に、
なぜか胸の奥が温かくなる。
「ったく……そうか。家族、か。」
凪は首をかしげた。
「え? なんです?」
「いや……なんでもない。」
柊は小さく笑い、
コーヒーをひと口飲んだ。
その味は、いつもより少しだけ甘く感じた。
“家族”という言葉を、最初に口にしたのは凪。
その無邪気な言葉が、柊にとって何よりもあたたかいきっかけになりました。




