確かにあったけど残せないもの
「1秒前のことでも今も過ぎたら二度と戻れないんだって」
隣にいる彼はなんでもない事のように言った。
「小学校のころ担任の先生が怒ってる時言ってた。今この怒ってる瞬間も時間はすぎてくし、二度と戻れないんだよって。だから時間は大切にしてくださいって。」
「随分素敵な怒り方する先生だね」僕は言った。
「その時から何年も経つし、もう一緒に怒られてたクラスメイトは誰1人覚えてないんだろうけど忘れられないんだよね。」
「ふーん。」
「逆に考えたらさ、戻れないんだったらないことと同じだよね」彼はブランコを漕ぎながら言った。
「どうゆうこと?」
「授業で江戸時代とかやるでしょ?でももう何百年も前のことだし当時を知る人なんて誰もいないじゃん?」彼はブランコを漕ぎ続けている。
「そりゃあそうだね」僕もブランコを漕ぎながら言った。
「でもないことにはならないんじゃない?文献だって揃ってるし、建物だって再現されているくらい正確なんだから。」当時を知らなくても当時の文献などから状況を理解することが出来るから映画やドラマだってあるんだし。
「じゃあ魔法が使えたりする世界は?あれだって再現されてるよ」
「あれはファンタジーだよ」
「なんで?あれだって条件は江戸時代と同じじゃない?当時の人もいないけど昔から似たような話は残されてる」たしかに。僕は思った。
「でもファンタジーはファンタジーだよ。文献だってない」僕が知らないだけかもしれないけど。
「じゃあ妖怪は?江戸時代とか昔の文献にも残されてるよ?」彼は続ける。
「きっと見間違えだよ。化学が発達してない時代の」僕も続ける。
「ふーん。」彼はつまらなそうに返事をした。
「そもそも話の趣旨が連れてきてない?1秒前でも過去は戻れないって話」何だか気まづくなり僕は強引に話を続けた。
「僕はきみといると時間が好きだけど、一緒に居た時間は止められないし、戻れないならこの会話だって江戸時代とかファンタジー小説と同じで確かなものじゃないなって思ってさ」
「でも僕たちの記憶には残ってるじゃん」何だか悲しくなった僕は少し強い口調で反論した。
「だとしても戻れないなら証明は出来ないよ」彼はブランコを漕ぐのを辞めた。
「じゃあ写真を撮ろうよ。動画でもいい。」僕もブランコを漕ぐのを辞めた。
「それじゃあ、文献と同じだよ。記録が残ってるだけで証明にはならない。」泣きそうな顔をした彼はブランコを降りて歩き始めた。僕は何も言えなかった。後ろを振り返るとさっきまで2人が乗っていたブランコが微かに揺れている。でも僕たち2人ががいた事はきっと誰にも分からない。




