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第6話 覚醒と救い 後編

しばらくして、リナは優里の前に跪いた。


その所作は、先ほどまでの柔らかさとは異なり、

まるで一つの儀式を始めるかのように、静かで、厳かなものだった。


「ユーリ様。

 真実をお伝えしてもよろしいでしょうか?」


「……うん。教えてほしい。」


優里は、無意識のうちに背筋を伸ばしていた。

この先に語られる言葉が、ただの説明ではないことを、直感で悟っていた。


リナはゆっくりと手を広げる。

淡い星光が舞い、空間そのものが静かにきらめき始めた。


洞窟の冷たい空気が、わずかに和らいだように感じられる。


「あなたは――

『星素・超越者』の正統なる主です。」


「……超越者……?」


聞き慣れない言葉に、優里は小さく息を呑んだ。


「世界に七つしか存在しない“究極級アルティメット・クラス”。

 その中心にある星素が、あなたを選びました。」


七つ。

究極。

選ばれた。


そのどれもが、あまりにも自分とかけ離れている。


優里は、言葉を失った。


「……そんな力が……なんで、僕なんかに……?」


自分がF級と呼ばれ、切り捨てられた事実が、脳裏をよぎる。

選ばれる理由など、どこにも思い当たらなかった。


リナは静かに首を振る。


「“あなたが優里だったから”です。」


その一言は、理屈ではなく、断定だった。

否定も、補足も許さない、揺るぎない答え。


優里の胸に、言葉にならない感情が広がる。


だが次の瞬間――

足元の地面が、微かに揺れた。


「っ……な、なに……!?」


黒い霧が洞窟の奥から滲み出すように広がっていく。

空気が重くなり、嫌な圧迫感が肌を刺した。


リナは即座に優里の手を取る。


「転移です。

 ここ――冥府の浅層は、長く留まる場所ではありません。」


その声には、先ほどまでの穏やかさではなく、

戦場に立つ者の冷静さが宿っていた。


「どこへ行くの……?」


「冥府のさらに深い場所。

 誰にも見つからず、邪魔されない場所です。」


そこは、安全というよりも――

“隔絶”に近い響きを持っていた。


リナは優里を抱き上げ、光の翼を広げた。

その光が洞窟を照らし、冷たい岩肌が一瞬だけ温もりを帯びる。


「天環院の神官たちも、クラスの者たちも……

 あなたがここに落ちたことすら、知りません。」


その事実が意味するものを、優里はすぐに理解してしまった。


「僕は……死んだと思われる……?」


「はい。

 彼らは、あなたの死を疑いません。」


それは残酷で、同時に救いでもあった。


リナは優里を強く抱きしめる。


「だからこそ、安心して強くなれるのです。

 誰にも邪魔されずに。

 誰にも、奪われずに。」


その言葉に、優里の胸が締めつけられる。


「……この世界に来させられて……切り捨てられて……

 クラスメイトにも、見捨てられた……それは僕が弱かったからだ」


声が、震えた。


胸の奥に溜め込んできた感情が、

今になって、静かに、しかし確実に痛みを伴って浮かび上がる。


「だから……強くなりたい。

 F級の僕には無理かもしれない。でも……」


優里は顔を上げた。

光に包まれた空間の中で、その瞳だけは、逃げていなかった。


優里は、足元に落ちていたリナが倒したモンスターの羽毛を強く握りしめた。

逃げない視線のまま、言い切る。


「この手で、復讐を果たしたい!」


リナは、すぐには答えなかった。

その沈黙は否定ではなく、優里の覚悟を測るための、ほんのわずかな間だった。


「……」


「やっぱり、リナさんは、僕には無茶だと思う?」


不安が、声に滲む。


だが次の瞬間、リナは静かに膝をつき、

優里の額にそっと触れた。


その仕草は、祝福にも、誓約にも見えた。


「いいえ。なれます。ユーリ様なら必ず。」


リナの声は、揺れていなかった。


「あなたを、二度と傷つけさせません。

 たとえ世界が敵になろうとも。」


その言葉は、忠誠ではない。

選び取った“意志”だった。


「それが、私があなた様に仕える、ただ一つの理由です。」


「……ありがとう、リナ。」


優里の声は、もう震えていなかった。


確かな救いを胸に、優里は微笑んだ。


そして――


冥府の深淵へ。


二人の姿は光に包まれながら、ゆっくりと浮かび、

やがて視界から消えていった。


こうして優里は、すべての視界から姿を消す。


“死んだと思われたまま”――

覚醒の旅が、静かに始まった。


世界が本格的に動き出すのは、

優里が復讐を果たすための強さを掴み、

再びこの世界へ戻る、その日からである。


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