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第3話 追放

「……え?」


優里は、自分の耳を疑った。


ヴァルドが淡々と告げた言葉が、理解できなかったからではない。

理解できてしまったからこそ、現実として受け入れられなかった。


「聞こえませんでしたか?

 あなたを《星契者》の一員から――処分すると言ったのです」


研ぎ澄まされた声音が、神殿の空気を冷たく切り裂く。


「しょ、処分って……どういう意味ですか……?

 僕、何かしましたか……!」


喉が震え、声が裏返る。

だがヴァルドは、一切の感情を見せなかった。


「三十名の星契者の中で、あなたの段位は“測定不能”。

 《継界の紋》は観測外個体ノンレコード

 世界の安定を脅かす危険因子です」


胸が、強く締めつけられる。


「そ、そんな……! 僕の《召喚士》には固有スキルが……!」


「説明しましょう」


ヴァルドの説明は、優里ではなく、

“記録”に向かって語るような物だった。


「《召喚士》とは、召喚獣――すなわちモンスターを呼び出す職です。

 一日一回のみ、対象は完全ランダム。

 一時間経過すれば、必ず元の場所へ帰還する」


淡々と、断定する。


「不確実性が高すぎる。

 戦力として成立しない――いわゆる“ハズレジョブ”です」


(……ハズレ、ジョブ……)


その言葉が、胸の奥で鈍く響いた。


「処分といっても、死刑ではありません。

 女神ザフィーナ様が示した道は一つ――

 迷宮ダンジョン《冥府》への転送です」


「……冥府……?」


「生還できれば、自由は与えられる。

 女神様の慈悲だと理解しなさい」


「そんな……勝手すぎます……!」


優里の声は、途中で遮られた。


「……いつまで待たせるつもりだ?」


低く、苛立ちを含んだ声。


龍門和也が、腕を組んだまま優里を見下ろしていた。


「女子も疲れてるんだ。

 戦えない足手まといに構ってる暇はないだろ」


周囲から、同意とも無関心ともつかない空気が広がる。


「……まぁ、そうだよね」


朝霧が小さく肩をすくめた。


「何も出来ないなら、仕方ないでしょ」


石田も、視線を逸らしたまま吐き捨てる。


「現実見ろよ。F級なんだろ」


誰も、正面から優里を見ようとしなかった。


膝から力が抜け、視界がわずかに揺れる。


そのとき――


「……羽澄」


肩に、そっと手が置かれた。


「右城……」


救われたような気がして、顔を上げる。


だが、そこにあったのは同情ではなかった。


右城淳は、静かに――優越を含んだ目で微笑んでいた。


「お前も運がなかったね」


淡々と、線を引くように言う。


「僕は“選ばれた”。お前は、そうじゃなかった。

 それだけの話だろ?」


胸の奥が、音を立てて崩れる。


「……あの日、助けたとか、そういうの。

 もう関係ないよ」


右城は視線を外し、言い捨てた。


「せいぜい、生き延びられるといいね。

 ……無理だと思うけど」


(……あの右城は、もういない)


優里は、はっきりと理解した。


ヴァルドが手を挙げる。


「――では、転移の儀を開始します」


「待ってください!」


音夢が、一歩踏み出す。


「羽澄くんは……!」


言葉は、そこで詰まった。


久我が歯を噛みしめ、拳を握る。


「……くそ……」


西園寺は、動けずに俯いたままだった。


誰も、それ以上前に出られなかった。


「ヴァルド様に刃向かう者は許されません」


護衛騎士マーガレットが、短く告げる。


ヴァルドは優里の足元に、小さな袋を落とした。


「転移者用の支給品です。

 最低限の生存は保証されます」


そして、最後の確認。


「ユーリ・ハスミ。

 何か、言い残すことは?」


優里は、静かに目を閉じた。


浮かぶのは、荒れた部屋。

泣いていた幼い自分。

嘲笑う大人たち。


ゆっくりと、顔を上げる。


「――必ず」


声は震えていなかった。


「必ず、戻ってきます」


それは、復讐の叫びではない。

誓いですらない。


ただの、事実としての宣言だった。


ヴァルドが手を下ろす。


魔法陣が淡く光り、詠唱が重なる。


「……ご武運を」


光が弾け、優里の身体を包み込む。


迷宮ダンジョン《冥府》へ――

彼は、誰にも見送られないまま転移した。


こうして。


星契者の一人は切り捨てられ、

世界は、何事もなかったかのように回り続ける。


そしてこの選択が、

後に取り返しのつかない“誤り”だったと知る者は、

まだ誰もいなかった。


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