第2話 ジョブ
「ようこそ、異界からの来訪者たちよ――」
白い男の声に、神殿へと姿を変えたクラスメイトたちがざわめいた。
「ま、待って……これどういう状況……?」
「映画? VR? でも鼓動が本物すぎる……」
混乱と恐怖の中、ひとりだけ全力で声を上げる者がいた。
「き、来たッ!! これ絶対“異世界転移”ですよ!!」
伊沢昭一だ。目を輝かせ、満面の笑みで叫ぶ。
(……伊沢は本当にブレないな)
優里は苦笑した。
白銀の外套を纏った男が一歩前へ進む。縫い込まれた紋様は魔法陣でも儀式服でもない、不思議な気品を漂わせていた。
「皆さんを招いた理由を説明します」
低く重い声が、神殿の空間に響いた。
「私は《天環院》所属、召喚者観測官のヴァルド=レヴィアンです」
神殿は一瞬で静まり返った。
「この世界エルヴァネアは今、“虚空災群”に侵食されつつあります」
天井の光が反応し、黒い泡の群体が映し出される。
「アビスは文明を溶かし、世界の境界を蝕む災厄です。
そして抗えるのは、異界の魂を持つ者――《星契者》だけです」
宮寺が震える声で尋ねる。
「た、戦えって……ことですか……?」
「説明は後ほど。まずは皆様の“魂紋”を確認します」
床の巨大な紋章が、心臓の鼓動のように脈動した。
「魂紋――この世界での『職業』を示します。順に鑑定を開始します」
緊張が走る中、石田が顔をこわばらせて叫ぶ。
「おいおい、何本気になったんだよ宮寺! カメラあるんだろ!?」
指を鳴らしたヴァルドの合図で、紫の光が石田に襲い掛かり、天井から重力が圧し掛かる。
「――ッ!? 体が……動かねぇ……!」
石田は床に手をつき、顔を引きつらせた。
「ここは演出ではありません。事実です」
魔法が解け、全員が息を呑んだ。
⸻
「じゃ、まずはこの自分から!」
真っ先に飛び出すのは伊沢だ。
淡い光紋が胸元に現れる。
■《識紋の書手》
一般職:情報職《鑑定士》
段位:下位二段
「解析・記録に優れます。戦闘向きではありません」
「なるほど……裏方の主人公ポジションですねッ!」
伊沢は満足そうに戻っていった。
剣崎聖の光紋は床の紋章を震わせた。
■《星断の刃》
職:近接《剣聖》
段位:上位四段
「この年齢で上位四段、“S級”……!」
神官たちは驚愕する。
「責任は重いですが、クラスの代表として務めます」
(委員長らしい……)
龍門和也。
■《天騎の紋》
職:前衛《龍騎士》
段位:上位四段
不良たちが騒ぎ、本人は口元だけわずかに笑う。
「……まぁ、この程度は当然だ」
その他の鑑定も簡潔に進み、教室の空気は期待と緊張で満ちた。
⸻
「次――ユーリ・ハスミ」
優里は深呼吸し、鑑定台へ向かう。
紫の霧が渦を巻き、紋の形を結ぶ。
■《継界の紋》
分類:交界系
職:召喚職《召喚士》
段位:測定不能
神官たちの表情が一斉に変わった。
「交界系……封印指定……?」
胸に冷たいものが広がる。
(……存在ごと否定されるみたいだ……
僕は……この世界に必要ないのか……?)
視界に浮かぶF評価の文字列は、数字ではなく“最低”の印。
HP:F
STR:F
DEX:F
VIT:F
INT:F
MP:測定外
胸の奥がじわりと冷え、周囲の視線が自分に集中するのを感じる。
(……見えないはずなのに……)
表示は霧のように消えた。
⸻
ヴァルドが一歩前に出る。
「ここから先は、各自にのみ共有される情報です。干渉もできません」
ざわめきが走る。
「確認が終わった者から、声を上げず待機してください」
視界が暗転し、淡い光で情報枠が浮かぶ。
⸻
「では――最後に、最も重要な儀式に移ります」
兵士に押され、優里は巨大な魔法陣の中心に立つ。
ヴァルドは感情を映さず、事務的に告げた。
「《継界の紋》を持つ個体は、世界の境界に干渉する危険因子です」
神殿の空気が、わずかに冷えた。
「天環院では、あなたを観測外個体――
記録すべき存在ではないものとして扱います」
ヴァルドは一拍置いた。
「規則に従い、感情に左右されず処理されるべき対象です」
その視線が、優里を捉える。
「よって――ユーリ・ハスミ。
貴方を《星契者》の一員から外します」




