第17話 その頃、星契者達は①
「ギャァァァ!!」
森に悲鳴が響く。
逃げ惑う狼の魔獣を、石田が剣を振り上げて追っていた。
「待ちやがれ! 経験値よこせ!」
足はもつれ、息は切れている。
それでも止まらない。止まれない。
二年前――
星契者として召喚された者たちは、ブレッシング聖教国・天環院の命により、次なる《虚空災群》に備える訓練へと投げ込まれた。
レベル上げ。
固有スキルの習得。
そして、実戦形式の魔獣討伐。
必死に剣を振るう者がいる一方で――
「――《龍の一閃》」
別の場所では、龍門が淡々と剣を振るった。
一撃。
それだけで魔獣は崩れ落ちる。
『レベルが上がりました』
無機質な声に、龍門は小さく息を吐いた。
「……レベル300、か」
喜びも誇示もない。
ただ“進んだ”という事実を受け止めるだけの表情。
同じ星契者。
同じ時間。
それでも、歩む速度は確実に違っていた。
「きゃぁっ!」
間宮に獣の魔獣が飛びかかる――
その直前、剣崎の斬撃が魔獣を一刀両断した。
「大丈夫か、間宮」
「う、うん……」
剣崎は剣を収め、静かに言葉を続ける。
「焦る気持ちは分かる。でも、お前のジョブでは単独行動は危険すぎる」
責める口調ではなかった。
それは、自分自身にも向けられた言葉だった。
「……ごめん」
「最近は天環院も、より強いモンスターが出る場所での訓練を増やしてる。
無理はするな。仲間と組んだ方がいい」
一瞬の沈黙。
「……また、羽澄君のこと?」
間宮の問いに、剣崎は迷わず頷いた。
「あの時、俺の力が足りなかった。
だから、守れなかった」
拳を握り締める。
「二度と同じ後悔はしない。
そのためなら、どんな訓練でも受ける」
それは誓いであり、贖罪だった。
次の瞬間。
「シャアアァァァ!!」
黒い炎が魔獣を包み、焼き尽くす。
「ククク……アハハハハ!」
高笑い。
「弱い、弱すぎる!
そんなんじゃ、僕は殺せねぇよ! ざぁーこ!!」
右城だった。
歪んだ笑みで灰を見下ろすその姿に、
剣崎は唇を噛み、間宮は思わず身を竦める。
同じ星契者。
同じ力。
だが――
向かう先は、決定的に違っていた。
「……」
小池は、朝霧のグループの中で黙り込んでいた。
「どうしたの、小池さん? ぼーっとして」
「ご、ごめんなさい朝霧さん……少し考え事を」
次の瞬間、朝霧の目が冷たくなる。
「……沙耶香」
「え?」
「あたし、苗字で呼ばれるの嫌いだって言ったよね?」
取り巻きたちの視線が突き刺さる。
「ごめんなさい……最近、眠れなくて……」
一瞬の沈黙の後、朝霧は笑顔を作った。
「なーんて。分かってるならいいよ。
あたし優しいから」
その手が、小池の身体に触れる。
「最近さ、強いモンスターばっかりでしょ?
S級の龍門とか、委員長のグループに、E級の小池さんは無理だよね?」
結局、小池は一人で待機する事になった。
――一人になった時、思い出してしまう。
教室で、プリントを拾って差し出してくれた少年。
「"人を思いやる気持ちを忘れるな"って、叔父さんがよく言ってた」
羽澄優里。
「……ごめんね、羽澄君」
助けられなかった後悔。
自分を守る事を選んだ弱さ。
小池は泣いた。
行動しなかった“罪”を、今も抱えたまま。




