第16話 冥府の王
「ウウッ……ん?」
ギルバートは、喉の奥から漏れる呻き声と共に、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
視界に映ったのは――先程までいた森ではない。
冷たい石床。
天井の見えない、長大な空間。
「……こ、ここは……ッ!?」
その瞬間、呼吸が一気に荒くなる。
嫌な予感が、背骨を這い上がった。
振り向いた瞬間、ギルバートは言葉を失った。
玉座へと続く、長い廊下。
その左右に、並ぶ“存在”。
ドラゴンの鱗が光を反射し、巨人の影が揺れる。
魔獣たちの吐息が、地を震わせる。
人の形をしていながら、人であることを拒絶した何か。
――数えるという発想そのものが、意味を失うほどの“軍勢”。
玉座の近くには、ランゴ、カグヤ、ルルの姿もあった。
「あ……ああ……」
思考が止まる。
理解が、完全に拒絶される。
(……何だ、ここは?
……何だ、こいつらは?)
問いを浮かべることしか、できなかった。
その時――
優里が、一歩前に出た。
それだけで。
玉座へと続くすべての存在が、一斉に膝をついた。
音が消える。
空気が、沈黙に支配される。
優里はリナと共に歩き、階段を上る。
リナ、カグヤ、ルル、ランゴが膝をつく中、
優里は何の躊躇もなく、玉座に腰を下ろした。
「みんな、顔を上げて。ステータスを表示して」
次の瞬間――
ギルバートの世界が、壊れた。
「……っ、あ……ああ……?」
最初に目に飛び込んできたのは、“レベル∞”。
――意味が、分からない。
続いて映し出された数値が、理解を粉砕する。
9500。
8000。
6666。
8888。
規格外。
異常。
常識という言葉そのものが、否定される数値。
「ぁ……あああああ……っ」
悲鳴にすら、ならなかった。
「どう?」
優里は、淡々と告げる。
「これが、二年間で揃えた僕の『全戦力』だ」
誇示も、高揚もない。
だからこそ、それは恐ろしかった。
「もう一度、質問だ。ギルバート」
玉座に座ったまま、優里は問いかける。
「もしこの戦力で、この世界の国々を相手に戦争を仕掛けたら――
どっちが勝つと思う?」
「……あ……あが……っ」
恐怖で、言葉が溶け落ちる。
カツラが床に落ち、露わになった頭部さえ、もはや気にする余裕はなかった。
「その反応で十分だよ」
優里は、静かに笑った。
「褒美に、“死よりも恐ろしい絶望”を与えてから、終わりにしてあげる」
――その笑顔は、もはや人のものではない。
(……誰だ?
……誰が、こんなバケモノを生み出した?)
悟ってしまう。
こいつを敵に回せば、終わりだ。
殺されるかどうかすら、こいつの気分次第。
木の枝を踏み折る感覚で、一国を滅ぼせる。
――厄災だ。
――こいつは、厄災の王だ。
「……世界を支配するつもりか……?
神にでも、なるつもりか……?」
震える声で、ギルバートは絞り出した。
「神か」
優里は立ち上がる。
「悪くはない。でも、まだ違う」
その声音には、迷いがあった。
「僕はまだ分からない。
この力を、どう使うべきなのか」
――虚空災群アビス・コロニー。
――女神ザフィーナ。
――この世界と、国々の隠された真実。
「それが救いの正義なのか、理不尽な悪なのか……
それ次第で、僕は選ぶ」
救済のための力か。
支配のための力か。
温もりか、冷たさか――
手の中のメダルに、その答えはまだ見つかっていなかった。
「この世界にとって、
僕が“何”になるべきなのか――
その答えを、世界に問いかけよう」
メダルを握り、優里は宣言する。
「二年だ。
この冥府で、準備に費やした時間は」
冥府から現世へ、闇から光へ――
優里の決意は、揺るがない。
「さぁ――復讐と真実を求め、進軍を開始しよう」
こうして、ギルバートへの制裁は果たされた。
一人の“勇者だった少年”は、
復讐と逆転の物語へと、歩み出す。
――物語は、ここから始まる。




