第15話 予想通り
「あ……が……あがが……。レ……レベル……一万……」
ギルバートは歯を鳴らしながら呟いた。
全身が小刻みに震え、立っていることすらできない。
「……嘘だろ……。レベル一万なんて……」
「我々人族の成長速度じゃ……数年戦い続けても、ようやく百を超えるのが限界のはずだ……」
「そんな……狂った数値が……実在するわけ……」
周囲の精鋭たちも、理解不能な現実を前に完全に混乱していた。
「ちなみに」
優里が、何でもないことのように言う。
「リナは、レベル∞だよ」
その言葉と同時に、背後に戻ったリナが静かにステータスを開く。
そこに表示されたのは――
《Lv:∞》
(……あの竜を従え、レベル六百の攻撃を無傷で受け止め……)
(何より……あのステータス……)
偽装では、決して隠しきれない数値。
力を抑えていなければ、誤魔化しようのない“本物”。
(……どのみち、儂にどうこうできる存在ではない……)
(完全に……化け物だ……)
「き……貴様……」
ギルバートは喉を絞るように問いかけた。
「……本当に……何者なんだ……?」
「僕ですか?」
優里は落ち着いたまま、問い返す。
「――『星契者』を、知っていますか?」
「……っ!」
ギルバートの顔色が、一瞬で変わった。
「『虚空災群』に対抗するため……『天環院』が召喚した、異界の勇者……」
「な……なぜ、その名を……まさか……!」
「そうです」
優里は淡々と告げる。
「僕の名前は、ユーリ・ハスミ。
『星契者』の一人です」
「……!!」
「もっと正確に言えば――元、ですが」
優里の表情に、笑みはない。
「今は、ある目的のため……他の星契者たちとは別行動を取っています」
(……本物……なのか……?)
(……いや、もう、どうでもいい……)
ギルバートは悟った。
生きるか、死ぬか。選択肢はそれしかない。
斧を取り落とし、地面に膝をつく。
「お……お許しください!!」
額を地面に叩きつけ、必死に叫ぶ。
「これほど偉大な方だとは……本当に、知らなかったのです!!」
「今日の件も……こ、こいつらが勝手に始めた事でして!」
そう言って、精鋭たちを指差した。
「ギ、ギルバート様!?」
「ふざけるな!!」
「貴族に取り入れてくれるって――!」
「黙れ、平民風情が!!」
怒鳴りつける。
「儂と貴様らでは……価値が違うのだ!!」
「確かに無礼は働きました……しかし、今はその力を十分理解しました……だから……」
「……儂だけは……助けてください……ユーリ様……」
「卑怯者!!」
「自分だけ生き残る気か!!」
罵声が飛ぶが、ギルバートは舌打ちするだけだった。
「その前に」
優里が、静かに口を開く。
「一つ、聞きたいことがある」
「は……はい……!」
「これからの質問には、知っていることを正直に答えてもらう」
空気が、冷えた。
「――『虚空災群』とは、何だ?」
「……わ、分かりません……名前を聞いたことがある程度で……」
「なぜ、『星契者』でなければ対抗できない?」
「……分かりません……」
「なぜ、『天環院』は弱い人間を切り捨てる?」
「……それも……」
優里の目が、冷たくなる。
「……本当に……何も……」
「ほ、本当です!!」
ギルバートは必死に叫んだ。
「儂は……最下層の貴族に過ぎません!!
得られる情報にも……限りがあるのです!!」
「……」
優里はため息をつき、精鋭たちへ視線を向けた。
「皆さんは、どうですか?」
「ま、待て! 俺、知ってるかも――」
「俺も!」
「嘘つくな! 俺が――」
――次の瞬間。
八人の精鋭の全身に、致命点だけを正確に貫く複数の風穴が穿たれた。
悲鳴を上げる暇すらない、全員が即死だった。
「……っ!?」
リナの右目に、小型の赤い魔法陣が浮かんでいた。
両手のレイピアから、血が滴り落ちる。
「ユーリ様に虚偽を述べるなど――不敬に極まります」
「ひ……ひぃ……!」
ギルバートは、声にならない悲鳴を漏らした。
「そういえば」
優里が思い出したように言う。
「仲間の一人が、援軍を呼んでいましたね」
「……え……?」
「でも、期待しない方がいい」
優里は淡々と続ける。
「ちょうど……僕の仲間たちが、全員片付けたところなので」
空中に、モニターが展開される。
「カグヤ、そっちは?」
『ユーリ殿。ちょうど終わったところじゃ』
『ランゴとルルと一緒にな』
映し出されたのは、壊滅した兵たちの姿。
「ごめんね。大した仕事を頼めなくて」
『気にするでない。ユーリ殿の為なら、千でも一万でも、瞬殺してやるわい』
軽いウィンク。
モニターは、すぐに閉じられた。
「……」
ギルバートの思考は、完全に停止していた。
「話を戻そう」
優里が向き直る。
「もう一つ、聞きたい」
「は……はい……」
「もし、今の僕たちが……この世界の各国を相手に戦争を仕掛けたら」
「――どちらが勝つと思う?」
「……」
「ああ、嘘はやめておきな」
優里がリナを見る。
「リナの『真偽の眼』ですぐに分かるから」
ギルバートは、ついに観念した。
「……確かに……始めは……有利でしょう……」
「ですが……いくらレベルが高くても、それはあくまで基礎能力の向上に過ぎません…。各国は、長年蓄えた武具や防具……マジックアイテムをそれぞれ所有しておりまして……」
「それらを全て動員されれば……例えユーリ様でも…勝利は……絶望的です……」
【――違う。
“勝てない”のではない。
この存在を相手に、戦争という形を取ろうとする時点で、世界の側が間違っている。】
「……やっぱり」
優里は、納得したように頷いた。
「僕たちの予想通りだ」
「……え?」
「所詮、いくらレベルを上げても……個人でできることには限界がある」
どこか、楽しげに。
「最後に、もう一つだけ確認したい」
優里はメダルを取り出す。
「今から……一緒に来てもらうよ」
「……え……?」
「召喚――転移」
紫の魔法陣が展開され――
優里、リナ、ギルバートの姿は掻き消えた。
精鋭たちの遺体だけを残して。




