第14話 オリジナル
「……あり得ない……」
ギルバートの声が掠れた。
目の前に立つ少年――優里は、無傷だった。
先ほど放たれたのは、レベル600のサラマンダーが全魔力を注いだ必殺の一撃。防御も回避も許されないはずの攻撃を――彼は、平然と受け流していた。
背後の精鋭たちも声を失い、ただ呆然と優里を見つめている。
(防御魔法でも、マジックアイテムでもない……致命傷どころか、かすり傷すらない……)
考えられる答えは一つ。
(純粋な、力の差……)
この世界では、レベルは絶対だ。
たとえ1の差でも、生死を分ける壁となる。
――だが、人がその域に達した記録など、歴史に存在しない。
「さて」
静かな声が、沈黙を断ち切った。
優里は、相手を値踏みし終えたかのように淡々と告げる。
「そちらの力は理解できました。次は、僕の番ですね」
懐から取り出された一枚のメダル。
炎を吐く竜の紋章が、深く刻まれている。
「そんな、か弱い“珍獣”がサラマンダーだなんて……誤解されたら、可哀想ですよ」
一拍置いて、穏やかな声で続けた。
「だから――見せてあげます。
『本物』ってやつを」
次の瞬間。
「召喚。
レベル9500――
『第六階梯 精霊神・サラマンダー・ジェネラル』」
弾かれたメダルが宙を舞い、琥珀色の光が収束する。
現れたのは、四足で大地を踏みしめる巨大な炎の竜。荒れ狂う炎の奥に、揺るがぬ威厳を宿す――精霊神そのものだった。
「……っ」
ギルバートも、精鋭たちも、声すら出せない。
「サラマンダー・ジェネラル」
優里は、ただ一言命じた。
「あの珍獣を、殺せ」
竜は低く息を吐く。
口元に生まれた小さな火玉が、ゆっくりと空を漂い――ギルバートの横を通過した。
「――ギシャアアア!!」
次の瞬間、背後のサラマンダーが爆発したかのように燃え上がる。
逃げ場はない。断末魔と共に巨体は黒焦げとなり、地に崩れ落ちた。
……絶命。
炎だけが、静かに揺らめいていた。
「よくやった」
優里が声をかけると、サラマンダー・ジェネラルは子犬のように鳴き、懐いてくる。
優里はその巨体を軽く撫でた。
「あ……ああ……」
ギルバートは恐怖に耐えきれず崩れ落ちた。腰は抜け、冷や汗が止まらない。
精鋭たちも同様で、誰一人として現実を直視できていなかった。
「き……貴様……何者だ……」
震える声で、問いかける。
「レベル600のサラマンダーを……一瞬で葬る存在を……従えるなど……」
「まぁ」
優里は、あっさりと答えた。
「この子の力を借りなくても……
僕でも、その程度なら瞬殺できましたけど」
「な……」
言葉にならない悲鳴が、喉で詰まる。
優里は、自身のステータスを表示した。
その瞬間――ギルバートの思考は、完全に停止する。
「今の僕は――」
淡々と告げられる。
「レベル10000ですから」
――Lv10000
その数字は、彼らの常識も、誇りも、恐怖すらも、すべてを打ち砕いた。
そして静かに告げていた。
この世界が、決して触れてはならない存在を――今、目の前にしているのだと。




