第12話 勝負②
「ありがとう、リナ。それじゃあ――あの人たちは僕に任せて。
逃げ場を塞いで、誰一人として森から出さないで」
優里は、いつもと変わらぬ穏やかな声でそう告げた。
「……はい。かしこまりました」
一瞬、嬉しそうに目を細めたリナは、すぐに表情を引き締める。
「我が名に誓い――完璧に遂行いたします」
白い風のように、彼女の姿は森の奥へと溶けていった。
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「な、何なんだ……今のは……!?」
「急に……身体に……穴が……!」
「馬鹿な……鎧を着ていたんだぞ……!」
精鋭たちの声は、もはや恐怖を隠せていなかった。
「落ち着け、愚か者ども!」
ギルバートが怒鳴りつける。
「不意打ちだ! 油断しただけだ!
真正面からやり合えば、格下のガキに負けるはずがない!」
「――そういう考え方なんですね」
その一言で、場の視線が優里へと集まった。
「“年下だから負けるはずがない”
“自分たちが弱い可能性はない”
……一度も、そう考えたことはないんですか?」
静かな声だった。
だが、その言葉は、刃のように突き刺さる。
「ふざけるなッ!!」
ギルバートは怒号を上げた。
「何十年も血反吐を吐く努力をしてきた儂らが!
ガキに劣るなど――あり得るものか!!」
彼の前に、光の文字が浮かび上がる。
【Lv.216】
「見ろ! これが儂の積み上げてきた力だ!」
「……モンスターとの戦闘。
種族ごとの成長速度。
積み重ねた経験で、レベルは上がり続ける」
優里は淡々と続ける。
「当たり前だ! 貴様とは生きてきた長さが違う!」
「――なら」
優里は、地面に転がる、もう動かない二人へと視線を落とした。
「今、死んでいるその二人は。
どう説明するんですか?」
「チッ……!」
ギルバートは舌打ちし、斧を振り上げる。
「どうせマジックアイテムのトラップだ!
調子に乗るな、クソガキ!」
そして叫んだ。
「全員、馬に乗れ!
儂の動きに合わせろ!
奴に考える時間を与えるな!!」
精鋭たちが一斉に馬へと飛び乗る。
――だが。
優里の瞳には、恐怖も、焦りもなかった。
(……何なんだ、その目は)
「死ねッ!!」
馬が地を蹴り、優里へと突進する。
その瞬間――
優里は、静かに目を閉じた。
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消えた。
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次の瞬間。
「――っ!?」
ギルバートの腹に、鈍く重い衝撃が叩き込まれる。
同時に、精鋭たちの身体にも、不可視の衝撃が連続して走った。
全員が馬上から弾き飛ばされ、宙を舞う。
制御を失った馬同士が激突し、悲鳴を上げて森へ散った。
優里は、何事もなかったかのように地面へと着地する。
「ぐ……げぇぇ……!」
腹を押さえ、ギルバートは地面に転がり、嘔吐した。
「ゲホッ……! ゲボッ……!」
震える身体で顔を上げると――
そこには、息一つ乱していない少年が立っていた。
「どうしました?」
優里は、穏やかに首を傾げる。
「……もう、終わりですか?」
倒れ伏す精鋭たち。
折れた誇り。
潰えた自信。
この瞬間――
ギルバートたちが信じてきた“強さ”は、
逃げ場のない現実として、完全に崩れ去った。




